31 王都を歩く二人
31話を投稿します よろしくお願いします
王都ヴェルクロアの中心を貫くグラン通り。
王城から城外へ続く門まで伸びるこの通りは王都一の繁華街だ。
午後の斜陽がまぶしく差し込んでいる。ユウヤとフィナは王都から東に位置する魔導院を出てここから捜索することにした。
グラン通りはいつ見ても活気にあふれているが、先日よりもどこか騒がしく思える。屋台もいつもより増え、人通りも激しくなっている。
「今日は祭りの日なのよ、ほら、豊穣を祝う祭り」
その言葉でユウヤは思い出した。王都には一年に一度街で祭りを催すのだ。それが今日だとは思わなかった。
フィナの足取りは気のせいか、少しだけ軽くなっているように思える。
「祭りとか、好きだったんだな」
「い、いや。人が集まるから情報が手に入るかなって、思っただけだから」
少しフィナは強がっている。その横顔はどこか少し照れくさそうで、けれど祭囃子が聞こえるたび、どこかフィナの心が浮き上がっているように感じる。
ユウヤは思わず笑みを浮かべ、その背中を追いかける。
「それにしても、夜でもないのに聖剣があるってわかるのか?」
「いい?ユウヤ。この世にある不思議なことのほとんどは、魔法で証明できるの」
「魔法で……?」
フィナは視線を街路へと向ける。火を噴き出す巨大な魔除けの像と頭上には魔力で灯された沢山のランタンがその賑わいをもり立てている。
「火が燃えることも、水が流れることも、風が吹くことも。私たちは当たり前だと思っているけれど、すべてに法則があるわ」
「魔法はまじないや奇跡とは違うの。観測して記録して再現できる現象よ」
フィナは鞄から細縁の眼鏡をかけた。整った顔立ちに知的な印象を添える。肩まで伸びた群青の髪が午後の日差しを受けて淡く揺れた。
「聖剣にも微弱な魔力が流れているの。これはある程度素養がないと見えないけど、ものすごく強くすれば、ユウヤにも見えるかもね」
「あ、……そういえば」
その言葉にユウヤは納得した。教会の跡地を思い出す。病魔を討伐したときの光る刀身、鍔、あれらは魔力によって出来た光だったのか。
「足で稼いで、情報を集めて、目を凝らして聖剣の鍔を集めるわよ」
「ああ」
通りを歩いていると、やたら人混みが混雑してきた。そこは教会広場に続く一本道だった。
よく目をこらすと、その向こうには復興作業にいそしむ仲間、セバスの姿が遠くから見える。
ユウヤとともに街を救った英雄セバスの顔を一目見ようと王都中の注目が一気に集まっている。セバスは少し、遠慮しながらもやりきれない様子をしている。
「とりあえず、顔は隠しとくか」
今やユウヤは王国を救った有名人。人混みに捕まれば、あっという間に日が暮れてしまう。それこそ捜査どころではなくなってしまう。
「ちょうどいいわ。今日は仮面をかぶった人たちも多いわ」
「そうだな、ちょっと屋台でも……」
ユウヤは周りを見渡す。いろんな屋台がある。どの仮面にしようか……。そんなことを考えていると、フィナが一枚の狐面を取りだした。
「ん?」
ユウヤはその面を見ながら、しばらく眺める。狐を模した、ごくありふれた祭りの面だった。
「子供の頃、一度だけ来たことがあるの」
フィナは少しだけ口元を緩めた。
「へえ……」
だが、ユウヤにはもう遠い昔の出来事だった。なにせ、前世の記憶だ。死んだ年から考えると二十年くらい昔の話になる。
それでも街を見ると今でもありありとその情景を思い浮かぶことが出来る。街の風景が少年時代と重なる。
祭りになるとグラン通りは正門から王城まで屋台が連なる。派手な神輿と囃子の音が王都いっぱいに響く。
レックスがどんどん先に行ってしまう。地下街は王都の人々と確執はあったものの、今ほどではなかった。それぞれが持ち寄った食材で屋台をやったり協力したりしていた。
セバスは教会のお手伝いをする中、合間を縫って遊びに来ていた。大人から好かれて、いっぱい食べ物をもらっていたっけ。
フィナは、珍しく笑っていたな。
屋台を一つ見るたびに目を輝かせ、年相応の子供みたいにはしゃいでいた。……そもそも、いつも落ち着きすぎなんだよな。
ユウヤはふと、笑みをこぼした。
「楽しかったよな」
お面を手に、ユウヤは独りごちる。王都にはたくさんの思い出が詰まっている。ただ緩やかにグラン通りの風は流れていった。
そのとき、ふと、通りかかった子供たちの姿が目に映る。的当ての屋台で狐面を抱きしめ、幼い少女が無邪気にはしゃいでいる。
『これ、一生大事にするね!!』
不意にユウヤの記憶の奥底から懐かしい声がよみがえった。
「ほ、ほら。分かったらさっさと着けなさい」
フィナはそれだけ言うと、くるりと背を向けて歩いていってしまった。ユウヤはそんな様子に困惑しながらも、狐面を顔につけた。
少し小さなそれは、いつの間にか自分が大人になったことを実感させた。
「ちょっ、待てって……」
ユウヤは追いかけるように少し駆けだした。
人混みをすり抜け、ようやくフィナに追いついたユウヤ。
すると、いつのまにか少し先を歩いていたフィナが立ち止まっていた。
その視線の先には一軒の的当て屋があった。台の上には戦闘に使うには少々物足りない子供用の小さな弓矢。先端の鏃には安全のため丸く削られている。
景品棚には菓子や木彫りの人形、小さなぬいぐるみなどが所狭しと並んでいた。
「嬢ちゃん、一回遊んでいくかい?」
ユウヤの口からふっ、と笑みがこぼれる。
「なんだ、フィナもやりたかったのか?」
「違うわ」
フィナは静かに眼鏡を押し上げる。
「よく見なさい。ほら」
そして一番遠くの景品棚の最上段には、ぽつんと、金色に光るよく目立つ品が飾られていた。
屋台のおじさんが俺たちの視線に気づいた。
「お!!あれかい?お目が高いねえ!!あれは俺が川から拾ってきたきれいな置物だよ!!」
知らないものが見れば、ただの美しい工芸品に見えるだろう。
だが、フィナの目にはそこから微弱な魔力が立ち上っているのがはっきりと分かった。そして当事者であるユウヤもまた、一目でそれが何かを理解していた。
「まじか……」
二人の視線の先に映っていたのは、
的当ての景品となった聖剣の鍔であった。
続く




