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3 失ったもの

第三話を投稿します よろしくお願いします

夕方、修練を終えて城を出ると、迎えの馬車が来ていた。

(勇者っていうのもいい身分だよな)

ユウヤはそう思いながら揺られていた。


馬車は王宮から正門に伸びる長い道を通っていく。

揺られて行くにつれ、軒を連ねる貴族たちの豪邸たちが遠ざかり、無骨な石造りの家が多くなっていく。


やがてユウヤの住む住宅街が見えてきた。

馬車を降り、扉を開ける。


何やらいい匂いがする。


「あ、お帰りなさい!!今日はハンバーグだよ!!」


思わずユウヤの足が止まる。

その声は二度と聞けないと思われた声。


目の前の妹は人なつっこい笑みを浮かべて料理の支度を手伝っている。

昔見たままの木のテーブルに皿が並べられていく。


そして台所には母がいた。


「あら、お帰りなさい。夕飯出来たから、手を洗ってきなさい」


食卓には湯気の立つハンバーグが並んでいた。


「母さん、無理してないか?」


ユウヤがそう聞くと、母は困ったように笑う。


「大丈夫よ。少し風邪気味なだけだから」


そう言った直後、小さく咳をする。

母は痩せ細った体を震わせ、笑顔を見せる。


「ほらほら、お母さん。また無理してる。最近風邪がはやってるんだから無理しちゃだめだよ?」


妹が呆れたように言う。


「もう、心配性ねえ」


母は笑っている。


その何気ないやり取りが、ユウヤにはたまらなく愛おしかった。


前の人生では、この食卓も、この声も、全部失ってしまったのだから。


「母さん……」


目に映るのはあの日の失ったはずの優しい笑顔。


なんだろう。この気持ちは。

もう長い間自分の内に隠しておいた何か。

忘れてしまったわけではないが、ずっと気づかないふりをしていた。


そのかすかな痛みに気づいた。


「お兄ちゃんどうしたの……?」


つう、と頬に冷たいものが垂れる。

ユウヤは涙を流していた。


「いや、何でもない……何でも無いけど……」


涙が止まらない。

なぜあんなことになってしまったのだろうか。


俺はどうにもならない感情を抑えることが出来なかった。


それを見た母は微笑むと、


「そうよね。そういうこともあるわよ」

理由も聞かず、母はただ俺の頭をなでた。


自分は見た目通りの十七歳の少年ではない。

本当はいい年だというのに、なぜだか涙が止まらなかった。


「旅の途中で帰りたくなったら、いつでも家に帰ってきていいですからね」


その優しさがさらにユウヤの胸を締め付けた。


これは神様がくれたチャンスなんだ。


(必ず犯人を突き止めなければ……)


犯人は今もどこかで身を潜めている。ユウヤはじっとしてはいられなかった。


夕食を終えると、家を飛び出して繁華街に出る。

ヴェルクロア一の繁華街、グラン通り。


王都の中心に位置し、屋台、武器屋、酒場、冒険者御用達の宿が軒を連ねる。

割と城門に近いこの位置は平民の区画だ。


「よってらっしゃい見てらっしゃい!!王都名物、岩牛のシチューだよ!!」


商人の威勢のいいかけ声が響く。繁華街は今日も栄えている。


まず、ユウヤはここで情報収集をすることにした。


何から始めればいいだろうか。ユウヤが街を歩いていると、


「よう、勇者様じゃねえか」


後ろからくる懐かしい声。


同い年くらいの灰色の髪、冒険者風の出で立ちの男が目の前に立っている。


「レックス……」


間違いない。レックスだ。

かつて王都崩壊の日に命を落とした友人。


「なんだよ。幽霊にでも会ったみたいな顔してんな」


ユウヤはしばらく声が出なかった。

十年ぶりにみる友人の姿。あの日のままだった。


「レ、レックスこそ、どうしたんだ……?」


「ああ。ちょっと中心街のほうまでちょっと野暮用でな」


ユウヤはあり得ない状況に遭遇していた。

自分は会話をしている。もう二度と会えない、死んだはずのレックスと。


えもいわれぬ喜びが体を貫く。

叫びたくなる気持ちを必死に押さえるので必死だった。


人の死というのは、もうその人と会話が出来ないということだ。

なのにどうして会話が出来るんだろうか。


「本当にどうしたんだ?」


レックスは戸惑っていた。


「……ははあ、さてはお前また道に迷ったんだろ」


その言葉にユウヤははっと驚いた。


初めてあった日のことを思い出す。

子供の頃、道に迷ったユウヤはこの男に出会った。


始まりはただのお使いだった。道に迷っているユウヤを見かねて声をかけてきたのがレックスだった。


ただ、お使いの途中、犬をいじめてる大人たちを見つけた俺がどうしても見過ごせなくて、二人で喧嘩したんだっけか。


(とんだ大冒険だったよ)


そこから、街の厄介ごとやモンスターまで俺たちがどうにかしてきたんだ。


今回だってきっとどうにかなる。


「頼みたいことがあるんだ。レックス」


続く


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