29 偏在
29話を投稿します よろしくお願いします
勇者ユウヤは民の祈りを聖剣に込め、見事病原体の正体である黒い何かを討伐した。その後、勇者ユウヤは謎の置き手紙に書かれた言葉を頼りに魔導院を訪ねることにした。
魔導院は王都ヴェルクロアにある世界有数の研究施設。魔力の癖で人間を判断する妖精が門番を務め、鋼鉄で出来た未知の馬車が恐ろしい速さで走る超常の都。
第一研究棟はそのなかでも有数の歴史を持ち、確固たる地位を持つ。主な研究が遺物、魔力の研究。遺跡研究から始まった魔導院における『始まりの科』と呼ばれている。
「ここであれば、あなたの聖剣の謎も開けるでしょう」
そう言われてユウヤは第一研究棟の門戸をたたくことにした。
ユウヤはその棟で、フィナに再会する。
幼なじみで魔法の素養を持つフィナはしばらく見ないうちに個人の研究室を与えられるほどの一流の研究員に成長していた。
雲でできた虹すらも通すほどの透明な部屋。それこそがフィナの研究室だった。
「じゃあ、本題に入るわね」
フィナが杖を振ると、ガタガタ……と本棚が震え出す。隙間を分け入り、ユウヤの頭上に、大量の何かがふわふわと浮いている。
それは、一つ一つ確実に降り注ぎ、そして山のように積み重なっていく。その何かにユウヤは既視感を持っていた。
一度目の人生において魔王との惜敗。その際に魔王が持っていたそれをユウヤは確かに覚えている。
そして甦りを経験したユウヤはそれを追って王都で仲間たちと様々な体験をしてきた。地下街でのレックスとの犯人捜し。手がかりを追ってたどり着いた教会にて、僧侶セバスに教えてもらった謎の魔導具を持つ少年。
そして、
二度目の人生においてようやくたどり着いた、聖剣の鍔。初代勇者の童話から、ユウヤはそれの真の力に気づき見事、襲いかかる病魔を一刀両断する。が、それは激戦において力を使い尽くし、壊れた。
「なんで……」
そのはずなのだが。
ユウヤの目の前にあるのは、その壊れ、役目を終えたはずの聖剣の鍔。それが十、二十、と大量に積み重なっていく。
ユウヤには全く訳が分からなかった。なぜ、聖剣の鍔が大量にあるのか。そしてなぜフィナの部屋にあるのか。
「ざっとこんなもんね」
フィナは杖を机の上に置いた。彼女はそのあり得ないはずのものを、さも日用品でも扱うかのように当然のような目つきでそれを眺めていた。
ユウヤの脳裏にこれまで巡ってきた場所が次々と浮かぶ。
地下街。教会。そして崩れ落ちた教会の大広間。
魔導院の人々に調べてもらうため用意していた、聖剣の鍔。
それと全く同じものが、目の前に大量に転がっていた。
その事実が信じられなかった。何が何だか、理解できないというのが今のユウヤの心境だった。
「あり得ない、って顔してるわね」
「そりゃ、そうだろ……」
ようやく出た自分の声はひどくかすれていた。
フィナが口を開く。
「これは私が王都各地で集めた聖剣。その鍔の部分よ」
その言葉に衝撃が走る。
なんで?どうして?、疑問はそのまま、ユウヤの口から飛び出していた。
「なんで、だって、俺がそれは見つけたはずじゃ……?」
フィナは壊れた聖剣の鍔を手に取り、くるりと回すと机の上へ静かに置いた。
「ユウヤが見つけた聖剣の鍔は、大量にあるほんの一部にすぎないってこと」
そう言いながらフィナは机に触れる。透明な机に魔力が流され、淡い光が上を流れる。
「うお……」
机の上に王都ヴェルクロアの精巧な立体地図が浮かび上がった。建物一つ一つまで再現された、まるで現実のような写し絵だった。
「この一週間で、王都各地で説明がつかない事態が発生してるわ」
次に、その所々に赤い印がつく。その場所は平民街、貴族街と各地に散らばった部分に点々がつく。
「まあ、そのほとんどは些細なことだけどね」
「ほとんどが夜に少しだけ光る程度。珍しいのだと、流行病が少しだけ良くなったりするくらいね。あなたの聖剣の力のように実際に大きな力を発揮するものではないわ」
ユウヤには心当たりがあった。教会で聖剣の鍔をもらった際、持ち主の男の子は小康状態にあった。教会には大量に病人がいたはずなのに、なぜかあの周りだけ誰も感染者がいなかった。
子供が持っていた聖剣の鍔を受け取った途端、子供の症状が急激に悪化した。
あれは聖剣の鍔が悪しき病魔から守っていた。そう考えればつじつまが合う。
少しだけ聖剣が光った。それは教会での戦いの際、覚醒した聖剣が闇を払うような強大な光を放っていたことからも説明はつくだろう。
あの光のごくわずかを誰かが発揮させたと考えたら不思議ではない。
ユウヤは机の上に浮かぶ、王都全域の立体地図へ目を向けた。
王都から教会、中央のグラン通りから城門まで、建物の一つ一つまで再現された精巧な写し絵。その精密さに思わず息をのむ。
「それにしても精巧な地図だな」
「ええ、魔導院の机を私好みに改良したの」
流石、世界一の研究機関だ。こんな魔法技術は見たことがない。ユウヤには想像がつかなかった。こんな素晴らしい技術があと二週間で失われてしまうなんて。
その時、ユウヤにとある疑問が生じた。政府の機能がないからといって、魔導院がこの場所を描けない、ということがあるだろうか。
「その……」
「ん?何?」
ユウヤは恐る恐るそれを聞いてみることにした。
「地下街の地図はないのか?」
教会も市場も王城もある。
だが、自分たちが駆け回った地下街だけが見当たらない。
「いいところに目が行くじゃない。そうよ。地下街は調査対象ではないの」
「それって……」
「地下街には聖剣の陰が一切見当たらなかったからよ」
ユウヤは目を見開いた。
「どうして……」
「さあ、私もそこだけは分からないのよ。ただ、無かったの。あらゆる所をくまなく探してもそんなものは存在しなかったわ」
地下街の謎に王都にばらまかれた聖剣。謎は深まるばかりだ。とユウヤは思った。
「これが私の調査結果。さ、あなたの聖剣を見せて」
「お、おう」
ユウヤは懐から、例の壊れた聖剣を取りだした。
丁寧に布で巻かれた部分を解く。二つに割れた側面からはぼろぼろと鉄くずが散っている。それをこぼれ落ちないように慎重に開いて机に置いた。
「劣化が激しいわね。ここまで損壊した例は見たことがないわ」
フィナが指を振ると、聖剣の鍔たちが起き上がり、激しい順に並べかえられる。その一番端っこにユウヤの聖剣が置かれた。
確かに、ユウヤが取り出した聖剣の鍔は、他の奴と比べても黒ずんでいるし、真っ二つに割れている。
「実力を発揮するほど、壊れる。これは間違いなさそうね」
「でもさ……」
ユウヤには疑問があった。童話で見た初代勇者の剣は数々の冒険をともにしてきた一品だ。その中では折れもしなかったし、壊れる描写なんてどこにも描かれていなかった。
ましてや、複数あるなど、前代未聞だ。
フィナは首を縦に振った。
「ええ。あなたの疑問通りよ。これはおかしいの」
「私も聖剣に関するいくつもの文献を漁ったわ。初代勇者の冒険に加え、剣はいくつもの担い手とともに旅をしている。複数あったという記述も、壊れたという記述も、その中には書かれていない」
「ここからは私の仮説になるんだけど……」
「これは誰かが意図的に仕組んだ、偽物の聖剣、ということになるわね」
続く




