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28/38

28 これって

28話を投稿します よろしくお願いします


「……う、うわわわわ!!!」


勇者ユウヤの体が地面から離れた。


「おい!!俺、今、浮いてる……?」


「浮いてるんじゃないわ」


「乗ってるのよ」


「何に!?」


答えを聞く前に風が吹き上がった。


「うわああああああああああああ!!!」 


「これが第一研究棟名物、風の絨毯よ!!」


「名物にするなあああああああああああ!!!!」


フィナは俺の悲鳴などお構いなしに、青い髪をなびかせ夢中でそれの速度を上げる。


「ひゃっほぅーーーーー!!」


「やめろおおおおおおおおおお!!!」


風の乗り物は、ぐんぐんと階層を上昇していく。


家々などとっくに超え、王城を超える。


どのくらいまで上がったのだろうか。


地面が遠ざかっていく。空を飛ぶ小鳥さんたちを見ながら現実逃避をする。


(あ、俺の家が見える)


平民区にある自宅が見えたところで気絶しかけた。


「ついたわ。ここからは徒歩よ」


「ふう……」


下を見ると巨大な空洞がある。


あっという間に地上を離れてずいぶんな高さまで来てしまった。


第一研究棟は円筒状の白い塔。


外から見てもそう見える。だが、どうやらそれは違うらしい。


ユウヤは下を見て恐怖する。


(俺はこいつらを甘く見すぎていたな)


ここは、王都ヴェルクロアの研究施設《魔導院》


そして魔導院の最古参にして最有力施設《第一研究棟》


ユウヤははじめにここに来るとき、塔があると錯覚していたのだが、その実、


第一研究棟はよくあるレンガ作りの白い塔などではない。


完全にユウヤは彼らの狂気を見誤っていた。


第一研究棟は積もり積もった巨大な雲の集まりが塔の形を成しているのである。



巨大な雲が各部屋で好きなだけ分かれている。


もちろん階段などはない。


途中、魔力だけで支えている何もない空間などがあり、それがよりユウヤの恐怖を増幅させた。


(崩落の危険とかは考えないのか?魔力が使えなくなったらどうする気なんだ?)


(こんなふざけた建物を作った奴は誰だ、全く)


ユウヤはため息をついた。


「住みたいと思った?」


「……いや、俺は地上がいいかな」


そういう俺に、フィナは首をかしげた。


「ユウヤって、変わった趣味をしてるのね」


と、本気で不思議がられてしまった。


二人は雲を固めて作った通路を歩く。意外にもそれは固く、地面と変わらない。


「ここにあるものは全部雲。どう?最高でしょ?」

とフィナは笑っている。


机や椅子でさえも硬質化した雲を使用し、木製のそれに似せて作られているらしい。


(じゃあ普通の椅子でいいだろ)


と思うユウヤだった。


「それより、見てたのね。さっきの講義」


フィナはすこしふてくされた様子でユウヤの方を見た。


「ああ」


「どこから?」


「お前が講師にいちゃもんつけ始める所から」


「どこまで?」


「お前が大臣に論破されるところまでだな」


ガン!!と壁を殴る。


「くぅーーーー!!あのくそオヤジ!!」


「まあまあ、俺たちのために動いてくれたじゃないか。あの人」


「そういう問題じゃない!!」


フィナは講堂を出る前に、いろいろ囲まれていた。


先ほどの講義内容の質問だったり、次の時間の会議の出席の打診など。

そんな仕事が次々と飛んできていた。


それを見た大臣は俺たちに気づくと、にやりと笑いを浮かべてから、


手をひらひらとさせながら、


「あー、行け行け。若者が仲良くしてるんだ。ここはおっさんの出番だよ」


とフィナに群がっていた人々をそのまま大臣は請け負ってくれたのだ。


しかし、なおもフィナはいらだちを抑えきれない様子。


「あれはからかってるのよ。ボーイフレンドが来たって」


「……それのどこがからかってるんだ?」


そういった瞬間、


パシッ!!と頭をはたかれた。


「痛て!!」


その歩く後ろ姿を見ながら、たんこぶをさするユウヤ。


(……男友達、って意味だよなあ?)


でも不思議と機嫌はあまり損ねていない。そういった印象だった。


「大臣って、元々ここの人なのか?」


「そうよ、ここの施設長だったらしいわよ。」


「施設長?」


道理で頭がいいわけだ。

教会への支援という英断にも合点がいった。


「能力を買われて大臣に任命されたって訳。エリートコースって奴よ」


大臣の経歴をつまんなそうに語るフィナ。


「ここを設計したのも大臣よ。まあここは褒めてもいいわね」


(大臣かよ!!)


建物の設計センスだけは壊滅的な男。それが大臣である。


「雲、という幻想的なコンセプト!」


「部屋を好きなように作れるという利便性!」


「まさに、理想の空間だわ!」


(いや、魔法使いの中では偉大なのかもしれない……)


ユウヤはもの申したい気持ちをぐっとこらえるのであった。


「まあ、それだけじゃないんだけどね」


「というと?」


「目に見えるのがすべてではない。という探究心を持って欲しかったんだって」


「へぇ……」


「まあ、魔力に携わるものとしての心意気ってものかしらね」


そう語るフィナの様子は嫉妬でも妬みでもない。


尊敬そのもののように見えた。


(滅茶苦茶なようでも、しっかりしてるんだな)


ユウヤはこの塔のことを少しだけ見直すのであった。


それから、一行は、

突き当たりにあたった。


「ここが私の研究室よ」


扉がこじんまりと浮かんでいる。


フィナが扉に近づいた、その瞬間。


『フィナか』


声が聞こえる。よく見るとそこには小さいおじさんが立っていた。

(あ、入り口の……)


ユウヤはそれを見て、門番のあの妖精の男だ、ということを理解した。


「そう、私よ。通してくんない?」


はぁ、とため息をつく妖精。


『何度言ったら分かるんだ。顔パスは規則で禁じられてるって言ってるだろ』


困った様子でおじさんは腕組みをしている。


「私の研究室よ。私が入れない理由が無いでしょうに」


『俺は目が悪いんだ。魔力の証明になるものを一つ出してくれ』


「はいはい」


フィナは渋々首元からネックレスを差し出す。


『よし』


妖精はそれを確認するとすっ、と消えていった。


「あいつ、融通効かないのよ」


ぷりぷり怒りながら、扉を開けた。


「さ、上がって」


「おう」


ユウヤは促されるままに研究室に上がった。


「どう?これが私の部屋!」


(すげぇ……)


ユウヤは天井を見上げる。


入り口からは想像もつかないほどの広大な部屋。


そして高所好きの魔法使いならやはり、というべきか部屋の壁も床も、全面が透けている。


(下が見えるよ……)


床が透けていてとても落ち着かない。


「外側からは見えないから安心してね!」


(いや、そういう問題じゃないよ……)


壁は透明な本棚で構成されていて、至る所に魔導書や魔導具が敷き詰められている。


本が浮いているようにも見え、絵画のような部屋の様相だ。


「ささ、どうぞ」


椅子にユウヤは促されるままに座った。


(そうか、元は雲でできているんだよな)


ふわ、という感触がした。


木製風なのに雲でできた不思議な椅子は沈みすぎず痛くなく、という絶妙なバランスを保っている。


「これ、結構いいな。欲しいくらいだ」


「あらそう?」


フィナが口元をほころばせる。

群青の髪と整った口が静かに揺れる。


いつも怒ってはいるが、笑うととてもかわいいのだ。


フィナが一息入れると、手製の杖を懐から取り出した。


「じゃあ、本題に入るわね」


ひょい、とそれを一振りする。


「これが直近の私の研究してきたものね」


その瞬間、頭上で風に誘われた大量の何かが宙を舞ってから、


ふわふわふわふわ……


と大量の魔導具が降り注いでくる。


それは一つ一つ、確実に降り注ぎ、そして、山のように積み重なっていく。


「え……」


ユウヤは目の前に積まれているものに、違和感があった。


その魔導具に見覚えがあった。


色、形、そのどれもがユウヤの記憶を刺激する。


目を見開く。


「これって……」


今までの事件が脳裏に浮かぶ。


地下街での騒動。そして、教会でであった少年。


そして黒い異形との激戦。


「そんな、まさか、嘘だろ……!?」


フィナは先ほどの笑顔から一転、冷静にそれを見つめていた。


それは部屋を褒められて喜ぶ少女の顔ではなく、第一研究棟の研究者の顔に様変わりしていた。


「そのまさかよ。ユウヤ」


そこでユウヤが見たのは、


大量の、


それも全く同じ、






壊れた聖剣の鍔であった。





続く


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