26 フィナ
26話を投稿します よろしくお願いします
講堂にはたくさんの生徒が集まっていた。
白髪の老人が魔力のペンを使って、空中に文字を書きながら説明を続けている。
おそらく講師なのだろう。
「つまり、魔力とは世界に満ちる……」
その時だった。
「はいはいはい!!!」
老人の説明を遮るように一人の少女が何度も手を上げていた。
老人は困ったように眉を下げた。
「フィナ君……」
その名前を聞いた瞬間、ユウヤはつぶやいた。
「フィナ……」
忘れるはずがない。
あの横顔、あの髪、あの立ち姿。
あの日、木陰で出会った少女。
「あのねぇ……。もう君、生徒じゃないよね……」
「それに何の関係があるんですか?」
ずけずけと教壇の前に出てくるフィナ。
「これ、間違ってますね」
彼女は腕を上げると、
「あ、ああああ!!何やってるんだ……」
彼女は勝手に書いてあった文字を横に大きくずらしてしまった。
それから魔力のペンを持ち、かまわず文字を書き続ける少女。
「まず、従来理論は……」
そこにひそひそと声が聞こえる。
「え……でもそれって」「確か……」
「君ぃ!!それは大臣様が書いた理論だぞ!!」
はははは、と笑う男の姿が扉の前に立っていた。
白いローブを纏った男が立っている。
「だ、だ、だ大臣様ぁ!?」
慌てて老人は頭を下げた。
「ほ、ほら、君も頭を下げんか!!」
しかしフィナは書くのに夢中で聞いていない。
「ははは、かまわんよ」
しかし大臣は気にした様子もなく黒板へ歩いて行く。
「いやぁ、久しぶりに面白い声が聞こえたと思ったら、君だったか」
「それで?どこが間違ってるのかね?」
しばらく書き終わり、
「……従来理論では魔力は外界から体内を循環するとされています」
「ああ、そうだな。それこそ私の書いた理論だ」
「ですが……」
ユウヤはその様子を遠目に眺めていた。
黒板には菱形の結晶が書かれている。
「この魔力結晶をみてください」
ユウヤには詳しいことは分からないが、あれは使い捨ての魔力源で旅人が即席で傷を癒やしたりするあれだということ位は分かった。
ちなみにあれは結構高価だ。
「人間は循環器ではなく、むしろ魔力結晶に近いものだと思います」
「ほう、ならば供給源は何だ?」
「食事、睡眠によって生まれる生命力と魂から生成されていると考えます」
その言葉に大臣がうなずく。
「なるほど、魂か……確かに魔力は使うと疲れるよな」
「はい。そこから着想を得ました」
その言葉に大臣がパチパチと手を鳴らした。
「素晴らしいな。実体験から得た直感からここまでの理論を組んだか。皆のもの、フィナを見習うように!!」
ぱらぱら……と拍手が起こった。
フィナも褒められて調子に乗っているようだ。
「だが……」
そこで大臣がにやりと笑った。
「赤子はどうだ?」
「え?」
「生まれたばかりの赤子にも魔力はあるだろう」
「それはそうですけど……」
大臣は宙に浮かぶ文字列を指さした。
「生命活動によって生み出した、というには量が多すぎると思わないか?」
「量……ですか……?」
大臣が笑ってフィナを見る。
「それは君の魔力量が物語っているではないか、フィナ君」
フィナは自分の手を見る。
「確かに、私のは生まれつきですね……」
講堂がどよめいた。
「まあ、君のような例は少々反則ではあるがね」
そう笑いながら大臣は理論を書き直していく。
「学問というのは面白い。正しい答えにたどり着くためには、まず、大胆な間違いが必要だからね」
「……勉強になります」
フィナも悔しそうに唇をかみながらも小さく頭を下げた。
その様子をユウヤは見ていた。
(やっぱすげえな大臣)
ユウヤは子供の頃から一度もフィナに口喧嘩で勝てた試しがない。
そのフィナに頭を下げさせたのである。
大臣は中断した講義を再開した。
「私は何百、何千という実験を繰り返し論文を読んできた」
一つ一つと理論を書き足していく。そのどれもが、そこに至るまでの実験の跡が垣間見える実験の成果だった。
「私は数十年、この問いだけを追いかけてきた」
そして大臣が書き連ねた数々の理論が一つに収束していく。
「これが私が打ち立てた最後にして最大の仮説だ」
大臣は最後の一文を書いた。
魔力は、世界そのものに満ちている。
と、大臣は大きく結論づけた。
ど素人のユウヤにも少し分かるくらい、いい授業だったと思う。
「さ、講義は終わりだ。生徒たちは帰りたまえ。フィナ君には……」
大臣は扉の端のユウヤと目を合わせた。
「お客人が来ているみたいだぞ」
フィナは講堂の端に視線を向ける。
「……え!!!!」
声が裏返った素っ頓狂な声を出したフィナであった。
続く




