25 魔導院
25話を投稿します よろしくお願いします
王立魔導研究院。略して魔導院。
グラン通り中央、教会広場から東へ進んだ先、小高い丘の上に建てられた王国最大の研究機関だ。
もともとは近郊の遺跡群を調査するために作られた施設だったらしい。
だが今では魔法、魔物、古代文明、神話伝承まで扱う学術の中心地となり、その敷地は魔導建築で埋め尽くされている。
ユウヤはその入り口でその光景に圧倒されながら、立ち尽くしていた。
(入りづらいな……)
王都育ちのユウヤですら、ここへ来る機会はほとんどない。
ましてや研究者など縁遠い存在だった。
手紙を頼りにしてきたものの、やはり気後れする。
(いや、止まっている時間は無い)
腰のポーチにしまったボロボロの鍔へ触れる。
壊れた聖剣。願いを叶える力と初代勇者。
答えを知るためにも、ここで引き返すわけにはいかない。
ユウヤは魔導院の門を開けようとした。
その瞬間。
『よく来たな!!』
「うわぁ!!」
門がしゃべった。いや、ユウヤは目線を下にそらす。
誰もいないはずの場所に誰かがいる。
『俺は門番精霊のゲートっちゅうもんだ!!よろしくな!!』
姿は小さく、おじさんの見た目をしている。噂に聞く小人族の妖精だろうか……。
(ていうか、名前そのままだな……)
『ほらほら、手ぇだしな!!お前さんの魔力を見れば、何の用事か分かるからな』
「そんなこと出来るのか?」
『魔力ってのはな、人それぞれ癖があるんだよ。学生か、来客か依頼人かなら一発で分かるな』
「へぇ……」
ユウヤが手をかざしてから、しばらくすると、ゲートはカッと目を見開いた。
(泥棒だと思われたかな……)
「誰か!!誰かいないのか!?」
一目散に彼は走り出してしまった。
……ユウヤはその様を一人眺めていた。
(いきなりくるのはまずったかな……)
門番の男が遠くから見えてくる。
魔導師のようなローブを着た細身の男はユウヤを見るなり、深いお辞儀をした。
「ユウヤ様、よくお越しになられました」
予想外の言葉に唖然とするユウヤ。
「えっと、何で俺の名前知って……?」
「今やあなたは国の英雄、知らない方などいませんよ、ほほほ」
そうですか……と愛想笑いを浮かべるユウヤ。
でも嬉しくないわけでもない。
「ユウヤ様が来たらご案内をと伺っております」
その言葉にユウヤは違和感を覚える。
「誰から?」
宛先不明の謎の羊皮紙を送ったのもおそらくその人物だろう。
「いえ、それが私にも匿名で分からないのですが、その方は莫大な資金援助をなさったらしく……」
しかも匿名の金持ちの人間。いや、人間ではない可能性も考えなくてはいけない。
それは、相手が魔族である可能性も捨てきれない。ということだ。
(一体何なんだ……)
しかし、ユウヤはそれにすがるほか無い。一難去ってまた一難。ユウヤには未だ暗雲が立ちこめていた。
「では、こちらになります」
男について歩くと、見慣れない風景が流れていく。
浮力を持った塔にしゃべる家。
研究棟は各々の個性を主張するかのように輝いている。
(魔導院に来いって言われても、これじゃどうにもならないよな……)
見通しが甘かったのを軽く苦笑するユウヤ。
「案内ったって、どこへ連れて行くんだ?」
「はい。これから行くのは、第一研究棟、王国の魔力研究、その叡智が集う場所にございます」
「第一研究棟?」
「ええ。魔力を帯びた遺物の調査は第一研究棟の担当でございます」
「へぇ……」
そういえば、この魔導院のルーツは遺跡の調査から始まった、というのを聞いたことがある。
「由緒正しい棟ってことか」
「ええ、魔導院でも選りすぐりの研究者たちが集まる棟でございます」
ユウヤは男の説明に耳を傾けながらゆっくりと思案する。
(そういえば、フィナも魔導院にいたっけ)
昔から研究熱心で、何かを思いつくたびに目を輝かせていた少女だ。
(元気にしてるかな……)
少し歩くと、石畳の上に半透明の結晶が一直線に敷き詰められた場所へ来た。
そのあたりは柵で覆われている。
(この中は危険なのだろうか……)
明らかに異様だ。こんなの王都では見たことがない。
恐る恐る質問してみるユウヤ。
「これは……?」
「魔導車でございます。広大な敷地を移動するための交通機関です」
ユウヤには何を言っているのかがさっぱり分からなかった。
カンカンカンカン……
というけたたましい音を響かせながら、
ゴオオオオオオオオ!!!
鉄の車体が猛烈な勢いで目の前を駆け抜けた。
「うわっ!!」
窓の向こうには白衣姿の研究者たちが日常のように平然と座っている。
プシュウウウウウ……
という音とともに魔導車の扉が開く。
「さ、乗ってください。馬車よりずっと早いですよ」
風景が瞬く間に過ぎ去っていく。
(崩壊前の王都にこんな便利な魔道具があったなんてな……)
ふと、景色の中に、旗を広げ、大きな声を出している集団がある。
「知識は王侯貴族のものじゃない!!」
「魔導院の自治を守れ!!」
ユウヤは車窓からその風景を眺めながら聞いてみる。
「あれなんだ?」
「ああ、学生たちの抗議活動ですね。最近は活発になっているみたいですね」
書いてある内容は研究の自由がどうとか国の安全がどうとか、とにかく難しい内容が多かった。
(頭がいい奴は複雑なことを考えるなぁ……)
ユウヤはぼんやりとその光景を眺めていた。
「さ、つきましたよ」
連れられるがままにユウヤは第一研究棟の敷地へと足を運ぶ。
第一研究棟は王都一の研究施設で、魔導院の中心にある最も高い塔がシンボルの場所だ。
『話は聞いてるぜ!入りな!!』
門からはまた聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「あれ、さっきの精霊さんですよね……」
「いえ。門番精霊は各研究棟に一体ずついます。あれは兄弟です」
「へぇ……」
手続きを済ましてくるので、少し待っていてくださいね、といわれ、去って行った。
ユウヤは一人第一研究棟を見回す。
外の見た目から細長いイメージがあったのだが、中は意外にも広く、用途ごとに部屋が区切られていた。
塔の中心は吹き抜けになっていて、見上げれば円筒状の空間がどこまでも続いているように見える。
「なんだあれ……」
吹き抜けの中心には巨大な魔力結晶がゆっくりと昇降していて、研究者たちが慣れた様子で乗り降りしている。
そのとき、横の部屋から騒がしい声が聞こえてきた。
「はいはいはい!!」
「君ねえ……」
聞き覚えのある声に誘われるようにユウヤは部屋の中をのぞいた。
そこにいたのは、
さらさらと流れる青髪。
そして金に光る真っ直ぐなまなざし。
昔と変わらないその少女がそこにはいた。
十年たっても忘れられないその面影が目の前にはあった。
「フィナ……」
続く




