16 群体
16話を投稿します よろしくお願いします
「はっ……はぁっ……!!」
前へ、前へ。勇者ユウヤは叫び声のした方向へ足を動かす。
セバスも一歩遅れてついてきている。
ステンドガラスの窓が連なる長い通路を走り抜ける。
この先は病人がたくさん集められている礼拝堂がある。
黒い怪物は悪化した子供の腹から出てきた。
(もし、あそこでも同じことが起きていたら)
ユウヤの内から焦りがにじみ出てくる。
やがて身の丈よりも大きい両開きの扉が見えてきた。
「うおおおおおお!!!」
ユウヤは勢いのまま、その扉へ体当たりした。
バン!!
「なんだこれは……」
教会の礼拝堂。
荘厳な雰囲気を持つそこは、今は地獄と化していた。
至る所で黒い物体がうごめいている。
十、二十……いや、それ以上だ。
(くっ……)
ユウヤを確認した、それらが一斉に止まった。
「なんだ?」
ごとん、という鈍い音がする。
一つの粘体が鋭く尖り、戦闘態勢をとった。
(またあれがくる……)
ユウヤに汗と緊張が走る。
怪物の突進は当たれば致命傷だ。
その重さは暴走する馬車を凌ぐ破壊力を持ち、
速さは熟練の弓兵の渾身の一矢を超える。
魔王の攻撃ほどではないが、これをしのぐのは容易ではない。
一度目の人生の経験はあるが、こちらは装備も肉体も万全ではない。
(捌ききれるか?)
少しでも当てさえすれば消滅する。
鍔を固く握りしめ、緊張が走った次の瞬間。
がらがらがらがら……
教会中が揺れている。
「な、なんだ……?」
ごとん。
ごとん。 ごとん。
ごとん。。 ごとん。
ごとん
ごとん。
ごとん
礼拝堂のあちこちから鈍い音が響く。
豪雨のようにバラバラ……と降り注いでいた。
(一つ、一人か……)
そう考えた瞬間、背筋を冷たいものが駆け上がった。
「なあ、セバス。ここに収用されている人はどれほどいる?」
セバスは少し黙った後、こう答えた。
「おそらく、百人はいますね」
二人を見つめるように、無数の黒い凶器が静かに向けられていた。
ユウヤの聖剣の鍔を構える手が震える。
(百か……)
数が多すぎる。先ほどは反応できたが、対処しきれないかもしれない。
しかし、連中は様子を伺うかのように膠着していた。
「……ユウヤさんの聖剣を恐れているのかもしれません。ひとまず歩ける人たちはゆっくりその場から避難してください」
セバスが冷静な判断を下す。
「ははは……こりゃまずいな……」
ユウヤは乾いた笑みを浮かべた。逃げ遅れた病人たち、その中には子供の姿もある。
そして自分の手にあるのは剣身すらない聖剣の鍔だけ。
どう考えても絶望的な状況だった。
「頼む、聖剣……俺と戦ってくれ」
ものに言い聞かせるように、気休めと分かっていながら言葉を吐く。
無論、返事などあるはずがない。
「この状況を救ってくれ……」
それでも、口にせずにはいられなかった。
戦える人間は二人だけ。希望など無い。
だが、
「……これは」
その変化に最初に気づいたのはセバスだった。
「え……?」
ユウヤも遅れて気づいた。
その声に呼応するかのように鍔はまばゆい光を発していた。




