15 黒い物体
15話を投稿します よろしくお願いします
ユウヤは少年の体から出た黒い物体をまじまじと見ていた。
「これが病気の元か?」
セバスが持つ毒々しい瘴気を纏うこぶし大のそれは、ぷるぷるとその体を震わせている。
「そうですね。似た症状の方からもこれを摘出しました。おそらく穢れの一種かと」
ユウヤは慎重に観察する。
黒い塊は目も口もない。
だが、生き物のような脈動だけが確かにあった。
(嫌な気配がする)
ユウヤの一度目の人生の十年にわたる戦いの記憶。
それが明確な危険信号を発している。
ユウヤはちら、と部屋の人員に視線を動かした。
部屋にはセバスとユウヤと子供たちとシスター。
セバスなら問題ないだろう。冷静に対処できる。
シスターたちは訓練されているが、魔物を相手にした経験はおそらく少ないだろう。
(守り切れるだろうか……)
ユウヤの額には汗が垂れる。
「これは丁重に燃やして処理しないといけませんね」
セバスが布を運ぼうとしたそのとき、
びくりと黒い塊が震えた。
「……!」
次の瞬間。
「うわっ!!」
黒い塊が高速でセバスの手元から飛び去った。
(まずい!!)
黒い塊は床の上でゆっくりと脈打っていた。
セバスは乾いた笑いを浮かべる。
「やれやれ、これは珍しい。病原が動くなんて、こんなことは今まで……」
「違うぞ」
ユウヤは黒い塊を見据えたまま遮るように言った。
「これは病じゃない。……おそらく、魔物の一種だろう」
「魔物!?どうして王都内にそんなものが、だって、王都には結界が……」
「さあな、それは俺にもわからん」
王都に魔物がいる。未来では魔王が聖剣を持っているし、ユウヤには分からないことだらけだった。
(今日、一日でとんだ災難だよ……)
ぶる、ぶる……。
黒い塊は床の上で不気味に脈打っていた。まるで何かを探しているようだ。
「皆さん、この部屋からゆっくり刺激しないように抜けてください。子供たちを連れて、いつでも加護が使えるように待機していてください」
子供たちを落ち着かせるために、セバスができるだけ穏やかな声で指示をする。
子供たちは少しずつ後ずさって退出していく。
だが、
(まずい!!来る!!)
黒い塊が激しく動き始めた。
それはぐにゃぐにゃと激しく揺れたあと、小さく、堅く、圧縮する。
先のとがった円錐状の殺傷性の高い形に変貌する。
「なっ……!!」
ごとり。
元の弾力のある見た目からは想像できないほどの堅い音を立て床に転がる。
「止まったのか?」
ヒュッ!!!
すさまじい速度でユウヤの心臓めがけて、飛んだ。
(速い!!)
ユウヤはすんでの所で回避。
衝撃音とともに、天井には大きな穴が開いた。これを心臓に食らえばひとたまりも無かっただろう。
ぷる、ぷると震えをたて、針先が再びこちらを向いた。
「まだ来るぞ!!」
ユウヤは腰元に手をやったが当然武器はない。
(まずい、武器がない)
視界の端に転がる金色の鍔。鍔だけになろうとも聖剣の一部。
(これしかない!!)
一瞬で転がる鍔を拾い上げると、
ガキィン!!
聖剣の鍔で黒い針を受け、そのまま左へ受け流す。
「ぐっ……!!」
すさまじい衝撃が腕に伝わる。まるで巨人の拳を受け止めたかのような重さだ。
(剣なしじゃきついか……)
ぎ、という音をたて、再び床に突き刺さる。
再び、その表面がぐにゃりとゆがむ。
針が子供の方を向いた。
「逃げろ!!」
ユウヤが叫んだその瞬間だった。
じゅうううう!!
黒い塊の一部が白い煙を上げだした。
「……?」
それは先ほど聖剣の鍔が触れた部分だ。
ぴく!!ぴくぴく!!
黒い塊はまるで灼熱の鉄を押しつけられたかのように苦しみ、小さくなっていく。
「これは」
セバスが目を見開いた。
バタバタとのたうち回った後、黒い塊はみるみる溶けてなくなってしまった。
(やっぱりだ)
聖剣の力は魔を滅する力。
ユウヤは手元の聖剣の鍔を見つめた。
そのときだった。
「きゃあああ!!!」
礼拝堂の奥からシスターの悲鳴が響く。
「なんだ!?」
ユウヤはその声がする方向に向かって駆け出していた。
庇護の間を出て通路を走り抜ける。
バン!!
礼拝堂のドアを開けた。
「何だこれは……」
そこに広がっていたのは悪夢だった。




