11 教会
11話を投稿します よろしくお願いします
薬草の匂いと儀式で使う塩の香りが立ちこめる。
教会の廊下には簡易ベッドが所狭しと並び、病人が寝かされている。
その表情は先ほどとは違い幾分か和らいでいるものの、未だに病には冒されてるように見える。
「確かその子はこちらの棟でしたね。少し歩きましょう」
セバスは奥へと向かって歩いて行く。ユウヤもそれについて行った。
その中には先ほど運んだ地下街の人々の姿もあった。
「最近は毎日こんな調子です」
セバスは苦笑した。
「地下街だけではありません。王都中から患者さんが運ばれてきます」
「薬も足りないんじゃないか?」
「ええ。本来ならとても追いつきません」
セバスは並べられた薬草を見つめる。
「ですが最近は、王宮から薬草や包帯を融通していただいています。」
「王宮から?」
「はい。大臣様が手配してくださっているそうです。先日も大量の物資を搬入してもらいました」
セバスは棚の薬草を数個取ってから、束をそろえ直した。
「おかげでどうにか持ちこたえています」
置かれた薬草の量はとても寄付だけで賄えるものではない。
これだけの患者を支えられてるのは、王宮の支援あってこそなのだろう。
私腹を肥やしたり自らの安全を第一に考えたりせず、真っ先に物資を手配したという大臣の判断は現状として多くの命を救っている。
(結構凄い人だったんだな……)
ステンドグラスの窓から柔らかな日の光が神像を照らしている。
昔と変わらない白い壁と木製の長椅子がその荘厳な雰囲気を醸し出していた。
(そういえば……)
教会は学び舎も兼ねていて、幼い頃はよくここへ通ったものだ。
読み書きも、歴史も、礼儀作法もみんなここで教わった。
「懐かしいですね」
セバスが小さく笑う。
「ユウヤくんは勉強より外で遊んでいる方が好きでしたよね」
「う……」
思わず言葉に詰まる。
「授業を抜け出しては、レックスくんと一緒に木登りをして、よくシスターに怒られていました」
「あったな、そんなこと」
俺は昔を思い出し、少し口を綻ばせた。
そういえばここへ来るのは退屈で仕方が無かった。
レックスと二人でよく抜け出していた。
(でも、ここで学んだこと、結構役に立ってるよな……)
あれは地下街の人間にも開かれた貴重な場所だったのかもしれない。
「セバスは毎回俺たちをかばってたよな」
「皆さんが怒られている姿を見ていると、どうにも口を挟まずにはいられないのです」
本当はよくないことなのですがね……と頭をかく。
「相変わらず損な役回りだな」
「そうでしょうか?」
セバスは穏やかに笑った。
「皆さんが笑ってくれるなら、それで十分でした。」
その一言に、ユウヤは思わず足を止める。この男はいつもそうだ。自分のことより、誰かのことを考えている。
(セバス……)
ユウヤはその先の記憶を振り払うように首を横に振った。
そこに一人のシスターが駆け寄ってきた。
「セバスさん! 東棟の患者さんの熱が下がりました!」
「本当ですか」
セバスはほっと息をつく。
「よかった……。薬が効いたようですね」
「はい。でも薬草の在庫が残りわずかです」
「分かりました。後で街へ買いに行きましょう」
シスターは深く頭を下げる。
「いつもありがとうございます」
「お礼を言われるようなことではありませんよ」
そう言って穏やかに笑う。さらに奥へ進むと、今度は年配のシスターに声をかけられている。
「セバスさん。今日はお昼しっかり食べてますか?」
「おや、そういえば、もうこんな時間でしたか」
あきれたようにため息をつかれるセバス。
「働き詰めでは倒れてしまいますよ……」
「ははは、患者さんが落ち着いたらいただきますよ」
「セバスさんは本当に自分のことを後回しにするんだから……」
周囲のシスターたちが困ったように笑っている。
「はは……すみません」
照れくさそうに謝るその姿を見て、ユウヤも思わず笑った。
(昔から変わらないな)
どれだけ大きくなっても、誰かのために走り回るその姿は、子供の頃のままだった。




