10 セバス
10話を投稿します よろしくお願いします
地下街から教会へと続く一本道をただひた走るユウヤ。長い泥道が続く、道は悪く、細長い道。
「はぁ……はぁ……」
王都の、そしてこの世界の未来がかかっているんだ。息切れなど気にしていられない。
(止まるわけにはいかないんだ……!!)
奥に小さな石畳が見える。一筋の灯りが見えた。手作りの小さな穴から、這い出る。
そこは教会の裏手だった。
「次の患者です!」
「こちらへ寝かせてください!」
「熱が下がりません!」
窓から見える教会の中は戦場だった。長椅子には病人が横たわり、シスターたちが慌ただしく走り回っている。
その中心に、一人だけ異様な男がいた。
頭巾をかぶったやたらに図体のでかい僧侶。胸元には小さな十字架。
(セバス……!!)
記憶がフラッシュバックする。
燃えさかる街と暴徒と化した人々の姿。
セバスが血を吐きながら攻撃を一身に背負っている。
そのセバスは今、最後の患者の治療作業に当たっていた。
「おーい!!セバス!!」
怪僧セバスはこちらに気づいたようだ。
「……ん、ユウヤくんですか」
セバスは患者の額に手を当てたまま、小さく目を見開いた。
「少しだけ待っててください」
手から淡く光る治癒の光がゆっくりと収まる。
「……とりあえずこれで大丈夫です。今日は安静にしておいてくださいね」
老人が何度も頭を下げている。
「ありがとうございます……」
「いえ、お大事になさってください」
穏やかにそう伝えてから、セバスはようやくユウヤのそばへ歩み寄った。
「お久しぶりです。ユウヤくん」
穏やかな笑みは、あの頃と何も変わっていなかった。
彼が死んだのは王都を出る前なのだから、当然と言えば当然だが。
それでも胸の奥が熱くなる。
セバスは今、生きているんだ。目の前で笑っているんだ。
「どうかしたんですか?」
セバスは不思議そうに首をかしげる。
「そんなにじっと見られると、少し照れますね」
「あ……悪い」
ユウヤは慌てて視線を逸らした。
「少し、昔のことを思い出してた」
「昔……?そうですか。昔はよかったですよねえ、三人でよく教会の裏庭で遊んだのを覚えています」
セバスは辺りを眺める。
「今や、レックス君は立派に地下街を助けるリーダーに、ユウヤ君は勇者に任命されたのですから。その友人である私は光栄です」
「俺はお前のその図体の方が謎だけどな……」
穏やかな表情につい笑ってしまった。こんな時だというのに。
「それで今日は、どうされたんです?」
ユウヤは一転、眉間にしわを寄せた。
「二週間後の儀式の聖剣が盗まれたんだ」
「なんと……聖剣がですか……?」
「ああ。俺とレックスで地下街を探したところ、高そうな剣を持ったやつが、そこを抜けていったらしいんだ」
セバスは腕を組み、小さく考え込む。
「ふむ。そういった方は見ていませんね」
「そうか……」
ユウヤは肩を落とした。
地下街に続く唯一の手がかりが途絶えてしまった。
聖剣事件を解決しなければ二週間後、この王都は終わる。
(まずい……)
ユウヤは焦りのあまり知らず知らずのうちに拳を握りしめていた。
「しかし、なぜここの通路を通れたのでしょうか」
「ん?どういうことだ?」
「そもそも、そこの通路は、地上にいる衛兵から秘密裏に教会まで患者を送るために作った秘密の通路なのです」
「あ、なんかレックスもそう言ってたな」
確かに先ほど、秘密の紙を手渡していた。
ん?秘密の紙?
なぜレックスの部下たちは教会の道が分からなかったんだ?
「……まさか、お前ら二人だけでここを掘ったのか!?」
「ええ。秘密はできるだけ少人数で持つことが必要かと」
セバスは平然と答えた。
「……相変わらず、とんでもないことを考えるな」
洞窟は危険だ。王都の地下には無数の穴があるが、崩落の危険性だってある。
少人数でやるにはこの道は遙かに険しい。
「まあ地下水でほとんど緩んでいましたので、私が一撃加えたところをレックス君がスコップでサクサクと」
セバスが鍛え上げた岩石のような拳を握りしめる。
「だとしてもだろ……」
思わず苦笑する。セバスは本当に変わらない。困っている人がいれば、二人は当たり前のようにあり得ない行動力をする。誰かに命じられたからではない。助けたいと思ったから助けるのだ。
「なのでここの道は一部の方しか知らないはずなのです、ですが、そこの通路を通った、となると」
(じゃあ、その道を通ったのはレックスくらいしか……)
「そうなると私も怪しくなってしまいますね、ははは」
力の無い笑いを響かせるセバス。
だが、他人のためならば危険を顧みず行動できるセバスがそんなことをするだろうか。
「心配すんな。お前は疑ってないよ」
そもそも、二人とも騒ぎに巻き込まれて死亡している。
魔族の協力者であれば殺されるということはあまり考えられないのではないだろうか。
(でも……また振り出しだな……)
ユウヤは他をあたるために足を踏み出そうとしたそのとき、
「ですが、変わったことなら心当たりが一つあります」
「なんだ?」
「数日前に運ばれてきた子供がいるのですが、その子が妙なものを持っていたんです」
「妙なもの?」
「ええ。」
セバスはゆっくりとうなずく。
「聖剣……ではないのですが、王家の紋章が精巧に刻まれた、私の目から見ても見事な一品を手に持っていたんです」
「ふむ……」
ユウヤは腕を組みながら考える。
王家の紋章、と言えば大層な感じがするが、パンや日用雑貨、娯楽品など、王家の承認が通った品物には何でもつくくらいポピュラーなものだ。
だが、精巧な品物というのが妙に引っかかった。
「なぜそんなものを持っていたのか、不思議に思ったのを覚えています」
「今、その子は?」
「まだ教会で療養しています。」
セバスは穏やかに微笑む。
「もし調べたいのでしたら、ご案内しますよ。」
普通の子供の持ち物にしては妙なものを持っていた、という小さく不確かな証拠。
しかし、今はそれにすがるしかない。
「頼んだ、今はいろいろ見ておきたいんだ」
「分かりました」
セバスとユウヤは教会内部に向かって歩きだした。




