25日目の器
2月分 これのみ
「わたくしも受け止めきれないと感じていました。
シトラスに注ぎ込まれた経験値が器に納まりきれずにあふれ出した。
その結果があの卵だったのだろう。
朝見た時には4千レベルを超えていたシトラスのレベルが今は2千ちょっとくらいでごっそりと減少している。
消えた2千レベルがどこかに失われたのか、卵の中に蓄えられているのかは卵が孵化するまでわからない。
「経験値の配分はどうしよう」
いよいよ配分先がなくなってきた、まず過剰な経験値を押さえるためおれの種族を人から神に変えておく。
それでも千レベル越えばかりであふれた経験値は誰かに注ぎ込まなければいけない。
「数値的にはおれしかないよな」
シトラスはこれ以上は無理、ユズたちも神化の条件としてのレベルは足りている。
経験値の供給源だったおれのレベルが千分の一になれば上がるレベルも千分の一になるだろう。
シトラスの様子を見る限り2千レベルまでなら安定して受け止められるような気がする。
いっそスキルの発動を止めてしまおうかとも思ったがアノウスレベルの敵対者が現れた時にそれなりの強さは確保しておきたい。
「ユズたちが神化して全員が千レベル前後になったら『所有経験値増加』のスキルは停止しよう」
「千ですか? もう少しいけますよ」
自分は役目を終えたとばかりに他の子たちにも出産をさせようとするシトラス。
「シトラスだってもう一回卵を産むのはいやだろう?」
「そうですか? うーん、まだいけますよ」
服の中に手を突っ込んだりわき腹や背中をさすったりして自分の体を確認するシトラス。
むしろ一度経験してしまえば二度目のハードルは低くなると言えるのか、あまり抵抗はない様子だ。
ユズたちは今日一日神化するための心の持ち方を考えたり、おれやシトラスに相談したりしていた。
いいところまではいくようだが、最後の壁が越えられないという感覚であるようだ。
「千レベル丁度より少し余分に上がっていてもいいかもしれないな」
おれの時は500ぐらい余計に上がっていた。
精神的な成長が必要なのはもちろんだが、単純なレベルも後押しになるんじゃないだろうか。
シトラスの配分を最低限にして、残りを均等に分けて軽い運動の後おれたちは眠りについた。
『遊佐 蕗+ 魔法使い
レベル 46+1242=1288
HP 106+1242=1348
MP 198+3726=3924
攻撃 76+1242=1318
防御 76+1242=1318
知性 122+2484=2606
精神 122+2484=2606
敏捷 76+1242=1318
SP 45+1242-1000=287
EXP 22695+621211=643906
NEXT 644000
スキル(+)』
『シトラス+ 光術師
レベル 2013+52=2065
HP 2018+52=2070
MP 6044+156=6200
攻撃 2018+52=2070
防御 2018+52=2070
知性 4031+104=4135
精神 4031+104=4135
敏捷 2018+52=2070
SP 4025+52=4077
EXP 1006346+25884=1032230
NEXT 1032500
スキル(+)』
『ユズ 闇術師
レベル 1033+1294=2327
HP 1093+1294=2387
MP 3159+3882=7041
攻撃 1063+1294=2357
防御 1063+1294=2357
知性 2096+2588=4684
精神 2096+2588=4684
敏捷 1063+1294=2357
SP 833+1294=2127
EXP 516315+647095=1163410
NEXT 1163500
スキル(+)』
『キア 剣士
レベル 1044+1294=2338
HP 3192+3882=7074
MP 1104+1294=2398
攻撃 2118+2588=4706
防御 2118+2588=4706
知性 1074+1294=2368
精神 1074+1294=2368
敏捷 1074+1294=2368
SP 922+1294=2216
EXP 521512+647095=1168607
NEXT 1169000
スキル(+)』
『ニア 術師
レベル 1044+1294=2338
HP 1104+1294=2398
MP 3192+3882=7074
攻撃 1074+1294=2368
防御 1074+1294=2368
知性 2118+2588=4706
精神 2118+2588=4706
敏捷 1074+1294=2368
SP 922+1294=2216
EXP 521512+647095=1168607
NEXT 1169000
スキル(+)』
「なぜだ? なにが起きた?」
翌朝目覚めてステータスを確認すると予想外の状況になっていた。
昨晩はおれもシトラスも人化していない、神化したままなら経験値は抑えられてバカげたレベルアップは起きないはずだ。
二人が神化した状態でパーティーの平均レベルは約千。
おれが二桁でシトラスが約2千。
シトラスのレベルは昨晩確認した時点で約4千から半分に削られて約2千になっていた。
他の3人は約千。
おれの凹みをシトラスの出っ張りが埋める形で平均レベルは約千になっていたはずだ。
『所有経験値増加』のスキルは総経験値の一割を増加させる。
平均が千レベルなら平均の増加分は百レベルのはずだ。
「なぜ千レベル上がっているんだ!?」
叫び出しそうな声を無理やり押さえつける。
ニアとキアはあまりレベルの事は気にしないと決めたようで、ステータスをチェックした様子はない。
ユズは座禅のように足を組み手を組んで足にのせている。
ユズは気づいているかもしれない、神化のための悟りを得ようとしているみたいだ。
シトラスのレベルは最低限しか上がっていないのでおれの問いかけるような視線にも何が起きたのかわからないという顔をしている。
改めてステータスを見直すと不自然な点が一つ、おれのスキルポイントが勝手に使われていることに気付く。
「なんで千も?」
実際に使ったことはないが神化した状態でのスキルポイントは人化状態での千倍の価値がある。
千×千で百万!?
「何に使ったんだ?」
ステータスのスキル欄を開くとある意味予想通り、そして不可解なスキルのスキルレベルが上がっていた。
『所有経験値増加 2→3』
「なんで?」
内容は所有している経験値を100%増加。
効果からしてこのスキルしかないだろうとは思っていたが
なぜ上がったのか、それに上がる前ではスキルポイントが足らない矛盾はどういうことなのか。
シトラスを呼んでスキル欄を見せると「んんっ?」と息を詰まらせておれの顔を二度見三度見、四度見して説明を求められた。
「説明してほしいのはこっちの方だよ」
「心当たりはないのですか?」
そんなものはない、『おっ、千ポイントだスキル上げたろ』とはならないだろ。
それにスキルを上げなければ千ものスキルポイントは稼げない。
「状況から言ってスキルポイントを前借りして『所有経験値増加』のスキルレベルを上げたようにしか見えないんだけど」
「そんなことありえますか?」
「おれに聞かれても・・・」
レベルが上がりすぎて困る日が来るとは思わなかった。
「おお? 来た、来たぞ。これが悟りか?」
座禅を組んで瞑想していたユズが淡く光っている。
神化の条件を満たしたのか、おかげで経験値問題は一息つける。
本当に一息だけ、せいぜい一日分の器が出来ただけだけど、全員が神化した上で千レベルに到達したらスキルを解除するなりして経験値を捨てるしかなくなるのだろう。
ユズが神化したことでニアとキアも神化することに本腰を入れ始めた。
おれやユズに神化のコツを聞いたりお互いに相談したりして瞑想などを試している。
今日も上体を揺らさない走り方をするならペースは落ちるだろう。
そうなると必然的に移動するのは街一つ分になる。
「出発遅らせてもいいな」
遅れると言っても馬車よりは早い、遅れて出発しても昼頃には先に出発した馬車に追いつくだろう。
次の街に早めについた所でたいしてやることはない。
そう考えておれはニアたちの瞑想を見守ることにした。
「もしかしてお待たせしちゃってます?」
瞑想に集中していたニアがふとした瞬間におれたちを待たせていることに気付きうろたえる。
ニアたちに神化してもらうのはおれたちにとってもありがたいし一日ぐらい潰れても構わないのだが、ニアが気にしてしまうとその先は瞑想に集中できないだろうということで出発することにした。
道中はまた目立つようなら透明化の魔法をかける予定だったが、ニアたちも自分の体のことはよくわかるようになってきたので不自然な水平移動はなくなっていた。
そもそも妊娠なんかしてないからな?
「リーダー、いけそうです」
「がんばったゾ」
昼休憩で止まった村、その食堂でニアとキアがほのかに光を纏っている。
「神化か!?」
午前中は移動の間も瞑想を続けついに二人が神化の条件を満たした。
「宿についたら神化しましょうね、ついに全員が神化ですか」
感慨深げにシトラスが言う。
神化したものだけでパーティーを組んで自由に動けることはなかなかに珍しく、遊撃部隊としては最強に近いのではないかと嬉しそうにしていた。
ユズは朝の時点で神化を済ませている。
始めの一回はシトラスの手を借りて神化したが、ユズ自身にも神スキルの『創造』が発現したので次からは神化も人化もユズ自身の意思でできる。
一度に3人もの神化が進み、見た目上の経験値は少なくなるだろう。
だからと言っておれやシトラスが人化して経験値の数値を増やすつもりもない。
特にシトラスの方は神化状態で2千レベルを超えているので人化したら2百万だ。
経験値ではなくレベルが2百万な上に『所有経験値増加』のスキルもスキルレベルが上がってしまっているので約2百万レベルをパーティー内にばらまくことになる。
「絶対ないな」
経験値で体が風船のように膨れ上がって、パーンとはじけ飛びそうだ。
午後の移動中にこの先の事を考える。
神化が一気に進み、おかげで増加する経験値をコントロールできるようになった。
おれが千ちょい、シトラスが二千ちょっと経験値があるから、新しく神化した3人に均等に振り分ければ全員が千越えの神化状態になる。
戦力に関してはこれで十分だろう、パーティーにおける弱点がなくなったのでそれぞれが自由に動ける。
今ならアノウスが攻め込んできてもいい勝負ができるだろう。
別に倒す必要もない、全員が能力持ちなわけだから隠れるなり逃げるなり自由にしてもらったらいい。
アノウスがそこまで強いかと言われると、今となってはそれほどでもない気はするが念のためだ。
本来新しい街に着いたら武器屋で強い武器を探したり冒険者ギルドで程よい依頼を探したりするものなのだが、今となってはおれたちの成長がインフレしすぎて適度な依頼も戦力を強化するような武器も期待できない。
それこそ休憩のために街に立ち寄る必要もないのだが、さすがにそれは味気ないということで宿屋には今回も泊まった。
「よーし、全員神化したな」
シトラスのステータス操作と指導により全員が神化して、おれはそれぞれに経験値を割り振る設定をする。
おれとシトラスに2%、神化したての3人は32%だ。
「これでうちにも赤ちゃんが」
ニアが感慨深げにお腹をさする。
やることはやっているので否定することはできないが、シトラスのは通常の出産とは違うと思うぞ。




