23日目の遭遇
1月分 1/2
夢を見た。
自宅の自室で目が覚めて母親の作った食事を食べる。
ほんの数週間前までの日常だ、自分ではホームシックにかかったつもりはなかったのだがしばらくは帰れないということに心の底では悲しんでいたのかもしれない。
妙にリアルな夢はコンビニでお菓子や漫画を買って家で楽しむところまで続いた。
想像の産物にしてはお菓子は期間限定の食べたことのない味だし漫画の続きは予想を上回るような面白さだったりもした。
「まるで一時帰宅したみたいだ」
起き抜けに呟く、こっちの生活に不満はないがさすがに食事とエンタメの質と量は元の世界が桁違いだ。
「それでも戻りたいと思わないのは、今経験したからか?」
体験がリアルな分満足感も高い。
時々こんな夢が見られるならこちらの世界に居続けるのも苦痛ではないだろう。
「どうしました?」
落ち着いた声をかけられそちらを見る。
復活したのかニア。
「大したことじゃない、昔の夢を見ただけだよ」
昔の世界の現状のような夢だった。
「そうですか、こちらでも満足していただけると良いのですが」
おれの言葉にホームシック的なものを感じたのか寂しそうなニア。
本当になんで復活したんだ?
「そうか」
原因に思い当たりステータスを確認する。
『遊佐 蕗 魔法使い
レベル 1+45=46
HP 6+45=51
MP 8+135=143
攻撃 6+45=51
防御 6+45=51
知性 7+90=97
精神 7+90=97
敏捷 6+45=51
SP 0+45=45
EXP 295+22376=22671
NEXT 23000
スキル(+)』
おれとシトラスが神モードになって経験値の総量がマイルドになったのでレベルの上昇が少なく、少なく? なったからだろう。
45レベル上昇が少ないかどうかは意見の分かれるところだが、昨日に比べれば大分まし。
みんなもこのペースに慣れてきたようだ。
『シトラス 光術師
レベル 17+45=62
HP 22+45=67
MP 56+135=191
攻撃 22+45=67
防御 22+45=67
知性 39+90=129
精神 39+90=129
敏捷 22+45=67
SP 16+45=61
EXP 8358+22376=30734
NEXT 31000
スキル(+)』
神ポジションが二人いて、そのどちらもが45レベルも上がっているのは後々人に戻った時経験値が爆発しそうで怖いんだけど、わりともうどうにでもなれと言った感じだ。
『ニア 術師
レベル 664+45=709
HP 724+45=769
MP 2052+135=2187
攻撃 694+45=739
防御 694+45=739
知性 1358+90=1448
精神 1358+90=1448
敏捷 694+45=739
SP 542+45=587
EXP 331983+22376=354359
NEXT 354500
スキル(+)』
『キア 剣士
レベル 664+45=709
HP 2052+135=2187
MP 724+45=769
攻撃 1358+90=1448
防御 1358+90=1448
知性 694+45=739
精神 694+45=739
敏捷 694+45=739
SP 542+45=587
EXP 331983+22376=354359
NEXT 354500
スキル(+)』
『ユズ 闇術師
レベル 893+45=938
HP 953+45=998
MP 2739+135=2874
攻撃 923+45=968
防御 923+45=968
知性 1816+90=1906
精神 1816+90=1906
敏捷 923+45=968
SP 693+45=738
EXP 446181+22376=468557
NEXT 469000
スキル(+)』
ニアとキアが落ち着いたのはいいのだが、このままだとユズまで神化してしまいそうだがいいのだろうか?
知性も理性もあるけどもともとモンスターで今はおれの従魔だ。
史上初の従魔神が生まれてしまう。
神様だけど立場は奴隷ってどういうことだよ?
神化したら従属関係は外れてしまうのか?
もし鬱憤を貯めていたら邪神とかになったりしないだろうか。
シトラスを呼んでユズについて相談すると。
「従属関係は共生関係に変わるでしょうけど、邪心を持っていたら神化の条件を満たせないのでそのままでいいと思いますよ」
と言われた。
気になるようであれば比率を変えればいいということだ。
『所有経験値増加』のスキルが2-1というイレギュラーなスキルレベルになっていたことで分配の比率が10%刻みになっていたが、1レベル分を取り戻したことによって1%刻みで配分を変えられるようになったと教えてくれた。
効率だけを考えるなら神状態の二人に大半をつぎ込んで、ぶちあげた神レベルを人レベルに変換(1000倍)してから周りに配るのがいい。
神化したものが二人以上に『所有経験値増加』のスキルを組み合わせるとちょっとよくわからない効率になってくる。
パニックです。
千倍とかわけのわからない倍率を今は押さえることが出来ている。
内部でどうなっているかは想像もしたくないが、数値としては落ち着いてくれた。
「魔物と戦う意味がいよいよなくなってきたな、移動する意味ってあるのか?」
移動することで生息する魔物の強さを上げていく予定だったが、おれたちの成長のインフレに移動速度が付いてこれなくなっている。
「それはそうなんですが、こんな街でとどまっても何の意味もありませんし。
なにをするにしても王都まで入っておいた方がいいでしょうね」
それもそうか、王都まで行けば他の国にも行きやすいというし。
王都が他国に隣接してるというのも国防上どうかと思うが、緩衝地帯として高レベルの魔物が住んでいるエリアがあるということだ。
魔物に対する最高戦力を集めているうちにその戦力が権力を握り、王として隣接エリアを統治していったというのがこの世界の歴史らしい。
「いいのかな、こんな楽で。そろそろ戦いたい気もするんだけど」
戦闘を忌避する気持ちも払しょくされてきていたのにまた元に戻りそうだ。
なにより強くなった自分を確認したくもある。
「模擬戦するカ?」
キアはやる気だったがそれをシトラスが止めた。
「今はやめた方がいいでしょう、力の差がありすぎて消し炭になってしましますよ」
キアは今約700レベル、そちらも自分の腕を試したくて仕方ない所だろう。
それだけあっても神として成長を始めたおれの相手はできない。
キアの攻撃のステータスが約1500ならおれは51。
人換算で言うと51000だ。
素手でも防御を貫通してHPを消し飛ばしてしまう。
「これは、成長してもらうしかないか」
キアは不満そうだった顔を明るくし、ニアは顔をそらした。
まあ何とかなるだろう。
ユズに関しては神化できるだけの精神性を手にしたらその時なってもらえばいいだろうし。
依頼を受けることもなく、途中で戦うこともない退屈な移動を済ませたらあとは寝るだけだ。
と言う所で客の訪問を受けた。
コンコンと言うノックの音とテクスチャーのバグみたいに人のこぶしがドアを貫通するのが見える。
「ああ、同僚ですね」
シトラスがうんざりしたように言う。
こぶしが貫通してたのはドアなんか無視して侵入できるということだ。
コンコンと言う音は後付けかもしかしたら口で言っていたのかもしれない。
近かったおれがドアを開ける。
誰何して拒んでも無駄だってことだろうし、あまり怒らせない方がいいだろう。
「ブッ」
入って来た人物はおれを押しのけてシトラスに対して一言だけ発した。
電子音のブザーみたいだが、なぜか内容は理解できた。
『シトラス、馬鹿なことはやめて一緒に帰ろう』みたいな意味だ。
「アノウス、わたくし帰りませんよ。
自由時間に干渉しないでください」
「ビッ」
シトラスのこたえにまたブザーのような声を出す訪問者。おそらくアノウスという名前だろう。
伝わってきたイメージを翻訳すると『何をやってもいいわけじゃないだろう、そのうち目を付けられるぞ』みたいな意味だ。
「そのころには準備が出来ているでしょう、それよりアノウスに見つかったことが意外でした」
「ぷー」
ちょっと長い『君が成長できないことを気に病んでしたのは知っているが、それにしても乱暴だろう。
僕が何とかするといつも言っているじゃないか』
という意味合いの事を詩的表現や隠しきれない好意を込めて長文で話していた。
「わたくし達には無理だったんですよ」
おれの方をちらっと見てシトラスが答える。
「それにこちらの言葉で話してもらえませんか?
他の方もいることですし」
シトラスに言われアノウスは興味なさそうにおれたちを見渡した。
「育ててから収穫するつもりか?」
人の言葉の第一声がそれか。
シトラスはやれやれと首を振る。
「根本的に食い違いがあるようですね。
どう勘違いをしているのか、それから話してください」
シトラスは腰を下ろし、アノウスにも椅子をすすめる。
それからアノウスが話したことは、シトラスのレベルが上がったことを感知したこと。
レベルを上げるためには格上の討伐、もしくは格下の大虐殺が必要。
一人で格上を倒せるはずもないので大虐殺を始めたのではないかと心配して諫めに来たのだという。
「してませんよ!」
話を聞いた後のシトラスの第一声。
「わたくしの事を何だと思っているんですか?」
なかなかに信用のないシトラス。
それとも神々にとっては人の命はそれほど重いものではないという考えなのか。
「街は無事なようだな、では魔物か? こんな短時間に?」
「そ、そうですね。内容は秘密ですがひどいことはしてないので心配はしないでください」
アノウスの疑問にしどろもどろなシトラス。
『所有経験値増加』のスキルは神々の間でも忘れ去られているような不遇スキル扱いということか。
「もう帰ってください。わたくしはしばらくこちらにいますから」
取り付く島もなさそうなシトラスに不満げなアノウスだが今日の所はおとなしく帰るようだ。
「あまりやりすぎるなよ。魔物を滅ぼしては人の成長が鈍るからな」
「わかっています」
アノウスを見送ってドアを閉めるシトラス。
立ち去る外の気配をうかがってからこちらに向き直った。
「まったく困っちゃいますね」
まったくだよ、一瞬空気がピリッとしたことがあって、戦闘になっていたらユズたちが消し炭になっていたような強さを漂わせていた。
おれとシトラスで何とか対抗できるかと言う所。
強すぎたと思っていた自分たちのステータスが急に心細くなってきた。
「ニアとキアは早めに1000レベルにした方がいいかもしれないな」
シトラスにこそこそと相談する。
消し炭にしないためには早めに神化してもらいたい、ユズに追いつくぐらいに経験値を与えて数日中に神化の条件である1000レベルに到達してもらう。
「残り300レベルか、おれが神化を解けばいい感じに振り分けられるかな」
「わたくしも神化を解きましょうか?」
「いや、おれたちが人状態で経験値をもらってもほとんど意味ないし、ニアたちにつぎ込みすぎると耐えられなくなる」
ニアとキア、ユズの3人には1000レベル丁度になるくらいで調整して、残りはシトラスのレベルアップに使おう。
効率主義の見せ所だ。




