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22日目の神化

12月分

 寝起きの頭で周りを見回しても具合の悪そうなメンバーはいない。

 おれも調子が悪いわけではないし、急激なレベルアップによる悪影響は心理的なものが大部分を占めるのだろう。

「見なければ気にならない、か」

 おれも見ないで済ませたいところはある、しかし誰かは確認しなければいけないし、それならばスキルの持ち主がやるべきだろう。

 おれはステータスを開いた。


『遊佐 蕗 魔法使い

レベル 548+1042=1590

HP 608+1042=1650

MP 1704+3126=4830

攻撃 578+1042=1620

防御 578+1042=1620

知性 1126+2084=3210

精神 1126+2084=3210

敏捷 578+1042=1620

SP 609+1042=1651

EXP 273976+520612=794588

NEXT 795000

スキル(+)』


 予想はしていたがそれを超えるほどのばかばかしい経験値。

 レベルの上昇値が1000を超えている。

「千レベル越えてんだけど」

 おれのつぶやきにニアがビクッとする。

 膝の上で左手が右手を押さえていて、力の入りすぎで指が白くなっている。

 間違っても自分のステータスを開かないように戒めているようだ。


 そのニアと他のパーティーメンバーのステータスも確認する。


『ニア 術師

レベル 491+173=664

HP 551+173=724

MP 1533+519=2052

攻撃 521+173=694

防御 521+173=694

知性 1012+346=1358

精神 1012+346=1358

敏捷 521+173=694

SP 369+173=542

EXP 245215+86768=331983

NEXT 332000

スキル(+)』



『キア 剣士

レベル 491+173=664

HP 1533+519=2052

MP 551+173=724

攻撃 1012+346=1358

防御 1012+346=1358

知性 521+173=694

精神 521+173=694

敏捷 521+173=694

SP 369+173=542

EXP 245215+86768=331983

NEXT 332000

スキル(+)』



『ユズ 闇術師

レベル 719+174=893

HP 779+174=953

MP 2217+522=2739

攻撃 749+174=923

防御 749+174=923

知性 1468+348=1816

精神 1468+348=1816

敏捷 749+174=923

SP 519+174=693

EXP 359413+86768=446181

NEXT 446500

スキル(+)』



『シトラス 光術師

レベル 17035+173=17208

HP 17040+173=17213

MP 51110+519=51629

攻撃 17040+173=17213

防御 17040+173=17213

知性 34075+346=34421

精神 34075+346=34421

敏捷 17040+173=17213

SP 16318+173=16491

EXP 8517153+86768=8603921

NEXT 8604000

スキル(+)』



 みんなは170ちょっとのレベルアップ。

 千に比べればおとなしいが、十分に頭のおかしい上昇量だ。

 キアとユズは様子がおかしいというほどではないが自分たちのレベルについては口にしない。

 あまり触れたくないようだ。


 シトラスはこの騒動の原因でもあるので動揺はない。

 おれと目があったシトラスは、すすッと近づいてきて小声でささやく。

「おめでとうございます、神化の条件を満たしましたね」

 神化とは?


「何のこと?」

 進化ではなく神化。

 現役の神が言うと説得力がある。


「千レベルを超えると能力のあり方が変わります。

 わたしがして見せたように千倍の単位でのパラメーター。

 創造の力と不滅の体。

 およそ思いつくような望みはすべて叶うでしょう」

 ささやき声ながら神々しくシトラスが言う。

 簡単に達成してしまっていいのか? というほどの成長だ。

 もちろん通常ルートでは簡単でも何でもない。

 千レベルを超えるためには千レベル相当の敵を倒さなくてはいけない世界なのに、千レベル相当の相手はすでに神になっているのだ。

 倒せるわけがない。


「望みのすべてか」

「神には神の定めがあります、川を飛び越えるように強く願ってください。

 『われは定めを望む』と。

 定めとは止まる事であり広がる事。

 万色にして無色透明。

 すべてから自由でありすべてを慈しむ。

 まずは心を空っぽにして呼吸のみに集中するところからですね」

 神になるには修行僧のように悟りを開く必要があるようだ。

 逆に言えばそれ以外の条件は満たしている。


「ステータス画面で転職するようなものかと思ったよ」

「フキさんなら数日あればできますよ」

 悟りと言っても大きなものではなく日常的な気付きのようなもの、アハ体験のように画像の違和感に気付いたりちょっとしたアイデアを思いついたりする程度でいいようだ。

「そうか」

 瞑想なんかを移動の合間にするように心がけるとか、集中してやるなら座禅や滝行で自分を見つめなおしたりすればいい。

 急ぎでもないので滝行まですることにはならないだろう。


「わたしも神に戻りましょう。

 導くことができるかわかりませんが、在り様を見せることはできるので」

 魔法を覚える時に魔力の流れを感じるが、神になるためには魂の流れを感じるとかそのようなことをレクチャーされつつ出かける準備を進めた。


 道中では魔物に会うこともなく人通りも増えてきた。

 冒険者の適正レベルが高いと言っても街道が危険なわけではなく、討伐されるような魔物は街道を外れた奥地にまで行かないと出会うことはない。

 いつも通り尻が痛くなる馬車に乗らずに小走りで移動していたおれは神になるということについて考えていた。


 条件が千レベルでひらめき程度の軽い悟りに目覚めれば神になれると。

 そのひらめきが千レベルを超えてからなのかそれ以前のひらめきでもいいのか。

 どうやらそれ以前のものでも良さそうで、その日にひらめいた覚えもないのに昼休憩で開いたステータス画面ではおれの名前部分が淡く発光していた。


 タップするとプルダウンメニューが引き出され人と神が選べるようになっている。

「神になるとステータスの数値が千分の一になるんだっけ?」

 内心の動揺を押し隠しシトラスに何気なく聞く。

「大体そうなりますね、もちろん能力そのものは下がりませんよ」

 見た目ごちゃごちゃするからかな、言ってみれば数字の後ろに3桁のゼロが隠れている、PC用語風に言うと約千の事を1kと呼ぶようなものか。


「大体って言うのは?」

「わたしの見た所そのまま千倍、千分の一ではなく経験値が千倍されることでそこからレベルやパラメーターが再計算されるようです」

 そうなるのか、前に考えたように職業を変えてから種族を切り替えて差分をかっさらおうという悪い事はできないわけだ。


「へー、SPは?」

「それは・・・千分の一になってしまいますね」

 おれの疑問に後半小声になって答えるシトラス。

 千分の一は困るか、使い切るにしても余計なものをとって後悔もしたくない。


「でも安心して下さい。人化した時にはSPも千倍になっていましたから」

 打って変わって明るい声を出すシトラス。

 ステータスを眺めていたのですぐにシトラスのステータスを確認する。

『SP 16318+173=16491』

 うげぇ、一万越えとかSPの数字じゃない、経験値の桁数に圧倒されて見落としていた。


 今後SPには困らないか、とは言っても1000ポイントが1ポイントに変わってしまうのをぼーっと見ているわけでもない。

「千ポイントならちょうどいいのがあるじゃないか」

 おれの原点、本体と言ってもいい。

「『所有経験値増加』のスキルを元に戻す」

 2レベルからスキルをリセットしたら2-1とか言うわけがわからないスキルレベルになってしまったが、1000もスキルポイントがあれば通常の2レベルにすることができる。

 『所有経験値増加』のスキルはスキルレベル1で1%、スキルレベル2で10%だが今のおれは10%から1%引いた9%増加になっている。


「これがスキルリセットできないようになっているのはシトラスがやったんだろ?」

 あまりにも不自然でおれにとっては助かった。

「確かにやりましたね、スキルの形であればごまかせますがスキルポイントになってしまったら異常性が神々からも注目されることでしょうし」

 異常性を発揮するようなスキルのスキルレベルを上昇させるシトラス。

 これも経験値の偏りと停滞を解消するための目論見だったというのか。


「確かに異常なスキルだよな、1%ならそれほどでもないけど10%に高レベルパーティーメンバーが加わるとばかばかしいほどのレベルアップがノーリスクで毎日起きるんだから」

 1%でスキルポイントが1000もかかるんだから10%なんてどれだけかかるんだか。

「もしスキルポイントに変わったとしたら1万位貰えたの?」

 シトラスは首を振る。

「やっぱりと言うか、10万くらいは掛かるのか」

 それだけのスキルではある。

「いいえ」

 10万じゃない?

「ぎ、逆に2千ポイントだったり・・・」

 光魔法のスキルレベル4はスキルレベル3までを覚えるのと同じだけの100ポイントで覚えられる。

「そんなわけないじゃないですか」

 それはそうだよな、じゃあ・・・

「100万です」

 うーん。

 その数値に一瞬気が遠くなる、おれが1000スキルポイントを捻出するためにどれだけ苦労したと思っているんだ。

 1000ポイント捻出できただけでもすごい事なんだよな、レベルにしたら1000レベル換算。神に手が届くレベルだ。


「それはさすがにシトラスの権限では無理だよな?」

「もちろん私の権限ではありませんよ、それでも召喚者を送り込む担当として創造神の代行の代行ぐらいの権限は使えたんです」

 スキルレベルを一上げるというあれか。

「『所有経験値増加』のスキルなんて私の上司でも存在を忘れるような不遇スキルですからね。

 まず覚えることはありませんし、ペナルティーを抱えて生き残ることもあり得ません」

「ひどいな」

「ひどいですよね」

 おれが『所有経験値増加』のスキルを選ぶのを黙って見てたんだ。


「『所有経験値増加』のスキルが忘れられたことで、スキルレベルを1レベルプレゼントする権限を申請することが出来ました。

 その時は召喚者たちの生存率が悪くて深層意識下で異世界転生を望まない風潮が出来ていたんですよ」

 こっちの世界が楽しくないと元の世界で異世界に行きたがるものがいなくなると。

 そんなわけのわからないものに巻き込まれたのも自業自得と言えばそうなんだけど。


「向こうの世界で異世界転生に抵抗感がないのもこちらで雰囲気を作っていたからだと?」

 クラスでも拒否したのは一人だけだった。

 ゲームどもアニメでも小説でも才能にあふれる主人公がわずかな努力で大きな報酬を手にしている。

 異世界に行きたがる雰囲気はそう言う所からも作られていたのだろう。

「こっちの世界に来て『話が違う!』なんて思われたら自然と伝わってしまうものなんですよ」

 隠し事はできないってことか、深層心理下の口コミみたいなことがあるんだな。


「シトラスの思惑はわかったよ、思う所がないではないけど大体は自業自得だった。

 それはいいとしてシトラスの上司? は何のためにこんなことをしているんだ?」

 シトラスはこの世界にため込まれた経験値と言うリソースを回収して再分配したいということだったけど、シトラスの上司としてはむしろため込みたいんだよな?

「そうですね、使うわけでもないのにため込んでますね」

 使わなければ意味がないのにと言わんばかりのシトラス。


「何のために人を呼んでいるんだ? 世界を救うわけでもないのに」

 嫌な予感がしつつ聞いてみる。

「スキルポイントをプレゼントしてまでってことですよね、それ聞いちゃいます?」

 シトラスも話しづらそうだ、片棒を担いでいるからな。

「死亡時と帰還時にスキルポイントは回収されます。それとは別に魂の力を少し頂いてるんです」

 参加費としてですね、と申し訳なさそうにシトラスが言う。

 100ポイントだろうが100万ポイントだろうが終了時には回収される。

 ついでにちょっと余計に回収するってことか。


「もしかしておれやばかった? いや、現在進行形でやばいか」

 嫌なシステムだ、無理やり金を貸してあとから利子付きで回収するような。

 そして利子と言うのは借りた金額が多いほどその金額は膨らむ。

「そうなりますね」

 他人事のように言うシトラス、他人の事ではあるんだけど。


「どのくらいやばい?」

 恐る恐る聞く。

「転生者、転移者は元々スキルポイントを100持っていましてけど、あれは本人が持つ魂の力を捻出したものなんです」

「うん」

「全体からすると余剰のようなものですけど、フキさんはペナルティを負って1000ポイント出しましたよね」

「うん?」

「あのままであれば、100ポイントではなく1000ポイントが回収されたでしょうね」

「うおおい!」

 バカだバカなことした。

 30日だけ遊ぶつもりでスキルポイントを絞り出したらそれが自分の魂でしたと。

 まるで自分の足を食べるタコのように。

 その足は再生しないからタコよりバカだ。


「・・・ペナルティは解消したけどそれでもだめなのか?」

 一度使ったらもう手遅れなのか?

「うーん、今すぐはまだ駄目そうです。

 でも、もともと自分の魂ですからじっくりなじませればきっと定着しますよ」

「そんな」

 おれの問いにじっと魂を見透かすような目で見つめてこたえるシトラス。

 一度手放した魂はまだおれとは一体化してないみたいだ。

 まるで臓器移植のように一度取り外して再び自分の体に戻すような不自然な行いにも見える。


「なのでしばらくはこっちにいた方がいいですよ」

 またしても他人事のように言うシトラス。

 もちろん他人事ではあるけど知ってて黙っていた当事者だからな。

「死ねないってことか」

 レベルも上がったし早々死ぬようなことはないだろう。


「ペナルティを持ち帰るわけにはいかないですし」

「まじか、スキルポイント奪われたうえにペナルティも残るんだ」

「影響は少ないですよ、暑さ寒さに弱くなったり泳げなかったり喧嘩で足が震えたりとかですかね」

「やだなあ」

「あと寿命が縮みますね」

「影響でかいよ!」

 影響が少ないと言われたものもどれもこれも地味に効いてくる。

 ステータスのようにはっきりとはしてないから気のせいかな、で済ませてしまいそうなところはある。

 でも実際は魂の力を削られているんだ。


 落ち込んでいるとシトラスがフォローするように言う。

「きっと定着しますよ、火魔法とかの以前に解消したペナルティーはすでになじんできていますし」

「そうか」

 火魔法のペナルティーを消してからそんなには経っていない。

 それでなじんでいるのなら、1年も経たずにきっちりと定着してくれるだろう。


「どの道30日で帰るのは無理そうだな」

 当初の予定であり区切りでもある30日は越えることになる。

 おれの言葉に放心状態のニアがピクッとこちらをうかがう気配を見せた。

 みんなのこともあるし、少なくても従魔として扱われなくなる国までは一緒に行かないとな。


 もう寝る時間を過ぎている。

 まずは千スキルポイントを使って『所有経験値増加』のスキルの歪な状態を元に戻した。


『SP 1151ー1000=151

所有経験値増加 2-1 → 2』


 さらに種族を人から神に。

 レベルは1に、能力値も一桁だ。

「これでいいか?」

「早かったですね」

 おれのステータスがわかるらしいシトラスが軽く驚いた顔をする。

 神になるためには何かを閃く必要があったそうだが、その条件はすでに満たしていたみたいだ。


 レベルも能力値も千分の一になってはいるがそれは見た目だけで、実際は3桁分隠れているってことだ。

 切り捨てられているとしたら少しは弱体化しているとしても・・・

 これは弱体化してないな、一桁と言っても少なくて6、多ければ8はある。

 つまりHPが6000MPが8000あって、攻撃から敏捷もそのくらいになってるってことだから。


『遊佐 蕗 魔法使い

レベル 1+0=1

HP 6+0=6

MP 8+0=8

攻撃 6+0=6

防御 6+0=6

知性 7+0=7

精神 7+0=7

敏捷 6+0=6

SP 0+0=0

EXP 295+0=295

NEXT 500

スキル(ー)

創造

不死

光魔法 4

所有経験値増加 2

嗅覚強化 2

鑑定

収納

索敵 2

隠密 2

槍術2

盾術1

未収得スキル(+)』



 細かくは覚えてないが能力値は多くてもレベルの2倍から3倍、それ以外はレベルの1倍に毛が生えた程度だった。

 経験値は295? 千分の一にされたとして29万5千あったってことか。

 千レベルなら1,10,100・・・

 50万は要るはず、足りないか?

 千レベルで50万、変化前は1500レベルはあったから75万越えの経験値はあった。

「つまり、千レベル分差っ引かれたと」

 それに見合うだけの強さはあるからぼったくりとは思わないが、一言断りが欲しかった。

 今人に戻ったら千レベル下がってそうだからうかつに戻れない。

 シトラスが気軽に変化するものだから軽い気持ちで神になってしまった。

 ちょっと早まったかもしれない。

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