20日目の承認
10月分 これだけ
「パーティー申請入れますね・・・はい承認」
冒険者ギルドでしかできないパーティー編成をいとも簡単にやってのける先生。
おれが承認する工程まで勝手にやってのけたぞ?
ステータス画面のパーティータブをのぞけばたしかにシトラスというメンバーが追加されている。
「えーと、シトラスさん?」
「呼び捨てていいですよフキさんがリーダーですから。ね、フキ」
これまでの仲間が自分も含めて2文字ばかりだから4文字もあって呼びにくい、縮めてやろうか?
シト、使徒? そういう意味で付けたのか?
シトはやめておいてシラ? シス?
どれもしっくりこないし勝手に名前を縮めて怒られてもよくないのでシトラスと呼ぶことにする。
「よろしく、シトラス」
立て続けに大物新人が入ってきてパーティーメンバーの補充問題は解決した。
強引に入って来たことでニアたちに不満はないか確認したら、考えていた以上に素直に受け入れてくれた。
神ともなると威厳が漏れ出てしまうのだろうか、元々知ってたおれ以外にとってはそこそこ胡散臭い登場をした人物に見えるのだが。
まあいいやトラブルにならないのならそれに越したことはない。
「それでは行きますか」
意気揚々と出かけようとするシトラス。
「まてまて、話は終わってないし、どこに行くんだよ? 冒険者ギルドに行って依頼でもこなすのか?」
女神ともあろうものが場末のモンスターを狩る意味が解らない。
「そうですけど」
きょとんと答えるシトラス。
本人はそのつもりらしい。
「いきなり? 装備揃えたりフォーメーションを決めたりで今日は討伐はいかないよ」
昨日ユズが参加したばかりでそこにシトラスまで加わったんだ、準備に2日くらいは欲しい。
「そう? そっか、わたし強いから雑に扱っても平気だよ」
女神を雑に扱うやつがどこにいるんだ?
「ワシもええぞ」
誰だ? と振り返るとユズが照れたように胸を張っていた。
ワシとか自分の事そんな呼び方してたっけ?
「なんでワシ?」
指摘すると真っ赤になって弁解するユズ。
「ええじゃろ、口調は戻すつもりだったんじゃ」
昨日はよそ行きの口調だったのか、敬語的な?
「うん、いいよ。それが普段通りなら」
「そうか」
「ならば我もそうしようかの」
口調を改めると女神先生から神々しさが漏れ出る。
「いいけど、人前ではそのオーラ出さないでね」
すると女神の威厳がシュンと消えて元通りの若い先生に戻る。
「威厳なしに我とか言ったら大物ぶってるみたいじゃないですか、やっぱり私にしておきますね」
威厳がどうこうの話を受けてユズが自分自身を見下ろしたが自分なりに納得したらしい。
若くはあるが威厳はあるぞ、ということか。
本物の神の威厳を見た後だと吸血鬼程度の威厳はかわいく見えてしまうがそれは言わない方がいいだろう。
「リーダー、朝ご飯」
おっと、下で話すつもりの所を引き留められたから朝食がまだだった。
キアに言われ自分も腹を空かせていたことを思い出す。
腹がキュルキュル言ってきた。
「話の続きは食べた後にしよう」
周りに聞かせられない話なんてシトラスの正体くらいだから、食べた後は装備品を買いに行きながら戦闘中のポジションの確認をしておこう。
朝食をとりながら話を聞いた所、ユズは中途半端な武器も鎧もいらないということだった。
武器は拳や爪、牙で十分。
鎧は闇のような衣をまとうことができ、多少の傷でも自力で回復できるということだ。
店で売っているような装備品にはレベル適性があり、レベルがころころ変わる吸血鬼には無駄が多いという。
それはおれたちも同じか、あまり魅力的な装備が見つからずに安物でつないでいる状態だ。
シトラスも同様で光を纏ったような衣に、光を集めたような錫杖を戦闘時に呼び出せるそうだ。
二人とも前衛を任せてもらっていいと言い、おれたちのパーティーの戦力不足、特にタンク不足は一気に解決した。
「ヤアッ、ハッ」
装備品で金を使うこともなくおれたちは冒険者ギルドの訓練場で模擬戦をすることになった。
キアがユズを攻め立てるが思うように当たらなくて苦戦しているようだ。
まだ本気を出していないのか『2刀4爪1牙流』は使っていないようだが剣士のスキルレベル3を受けきるだけでも相当に技量が高いのがわかる。
シトラスは前衛ではあるが見学している。
ユズが纏う闇とは違いシトラスが光を纏うと訓練場中の注目を浴びてしまうからだ。
ユズにしても攻撃が当たる所だけ闇を纏えばいいので避けている間は普段着のままだ。
大物感漂う光の装備品と女神という肩書の大きさもあって能力そのものに不安は感じていない。
なにしろパーティーリーダーの権限としてパーティーメンバーのステータスが見れるのだが、シトラスのステータスがすべて?で埋め尽くされていたのだ。
?の数はそれぞれ一個なので桁数を推測することもできない。
訓練を見ているとニアがすすッと近づいてきておれに言う。
「シトラス、さまは神様であられるのですよね?」
「ああ、そうだな」
「リーダーをこの世界に連れてこられたということは・・・送り返すこともできるのでしょうけど・・・」
頷いて先をうながす。
「リーダーは元の世界に帰ってしまうのですか?」
服を掴みそうなほど近づいてきて、おれより背の高いニアが上目遣いでおれを見るさまは捨てられた子犬を思わせるしぐさだった。
「そのことはちゃんと話してなかったな」
おれ自身決めかねているというか。
「今は帰るつもりはないよ、やっと楽しくなってきたところだし」
ニアたちに出会う前は自分の手で終わらせようとしたこともあったけど。
「そう、ですか」
ホッとしたようにキュッと口をつぐむニア。
目元に力を入れて涙をこらえているようにも見える。
泣くほどか? 冒険者のつながりってもっとさばさばしたものかと思っていた。
しかし、おれたちは主従関係を結んでしまったのでそう簡単にはいかない。
従魔の首輪もいつでも外せるようにしてあるから、おれの側としては自由にしてもらってもいいのだがこの国にいるうちは従魔として人族に仕えているほうが暮らしやすいのもあるだろう。
訓練を終わらせたキアたちも帰ってきて合流したおれたちは明日からの方針を冒険者ギルドの依頼票を見ながら相談することにした。
「レベルが」
「レベル帯が貧弱ですね」
しばらくいるつもりだったこの街もパーティーメンバーの連続加入によって物足りない難易度になってしまっている。
「まずは移動か、道中で適当な敵がいたら倒しながら進むことになるのかな?」
「今から出たら間に合わないカ?」
訓練が終わったばかりとは思えないほど元気が有り余っているキアが言う。
昼も過ぎているので馬車はもちろんとっくに出発している、歩きでは夜になってしまうだろう。
「走りになるけどいいか?」
キアはもちろんそのつもりだろうけど、同様に訓練の終わったばかりのユズ、積極的に走りたがらないであろうニアとシトラスにも尋ねる。
「リーダーがよければ」
ニアが答え、あとの二人も反論する様子はない。
実力はともかくとして、新人としての立場を貫くようだ。
・・・単に能力が高いから走ることくらい何とも思ってないだけかもしれないが。
「それなら今から行くか」
バタバタと宿屋をチェックアウトして、少ない荷物を収納に放り込んだおれたちは次の街を目指すのだった。
「いくゾ」
街道ではいつものようにキアが先行だ。
まとまって進むなら一番足が遅いペースに合わせるべきだが、キアにとっては物足りないようで偵察も兼ねて一人だけ突出している。
遅いペースと言ってもうちのパーティーに足の遅いものはいない。
おれとニアはキアのペースに合わせるのが精いっぱいだが、新人のユズとシトラスは全然余裕だ。
能力値以外にも移動系の隠しスキルを持っているような雰囲気もある。
「着いたァ」
街の閉門前に余裕をもってたどり着き冒険者ギルドにも寄らず宿にチェックインした。 明日はこの街を拠点に魔物狩りをする予定だ。
寝る前にステータスをチェックするが実はドキドキしている。
シトラスのステータスはすべての数値が?のまま、これが『所有経験値増加』に乗っかるのかそれとも対象外になるのか。
明日起きればわかることだが待ちきれないおれはシトラスに聞いてみた。
「シトラスの経験値は『所有経験値増加』のスキルに乗るのか?」
「そうでうね、どうでしょう?」
わかってないような答えを返すシトラス。
はぐらかしているというよりは本当にわかっていないようだ。
「試してみるしかないか、5人いることだし全員に20%割り振るからな」
これでやっと全員を均等に育てられる。
パーティーメンバーを5人に増やしたかった理由の一つだ。
「試してください」
カーディガンを脱いでネグリジェだけでおれのベッドに入ってくるシトラス。
「なんで?」
「そう言うルールでしょう?」
おれがパーティーメンバー全員に手を出していることがばれている、気まずい。
「そう言うルールは別にないから」
メンバー間の信頼構築のためニアがこだわっているだけでおれが強要したわけじゃない。
そういってしまうといやいややっていたように聞こえて失礼ではあるのだが、それに関してはみんな魅力的でおれとしても好意は感じている。
「だとしてもメンバー間に差別があってはよくありません」
おそらく普通のメンバーの加入だったらニアがそういうお膳立てをしてくるだろう。
断りようのないシチュエーションをおれと新規メンバーの間に作ってしまう。
ユズはその犠牲者だ。
シトラスに対しては見え隠れする女神の威厳がニアの暴走を抑制しているようなのだが・・・
「抵抗しないでください、わたしでも傷つきますから」
本人にそう言われるとどうしようもない。
これを断れる男がいるならそいつは聖人だろう。
きっと歴史に名を残すに違いない。
翌朝になって昨晩の事を思い出す。
やってしまった。
驚くほどに罪悪感はない。
それは他の子たちに公認なこととお互いに楽しめた実感があるからだろう。
この世界にいる限りは咎められることはないのだけど、もとの世界に戻った時にこの壊れた倫理観が残っていたら苦労しそうだ。
「ステータスでも見るか」
今日は大きな変化がある日だ。
そう身構えていたら・・・
『遊佐 蕗 魔法使い
レベル 214+16=230
HP 274+16=290
MP 702+48=750
攻撃 244+16=260
防御 244+16=260
知性 458+32=490
精神 458+32=490
敏捷 244+16=260
SP 275+16=291
EXP 106695+8128=114823
NEXT 115000
スキル(+)』
「ん?」
増えてる? 増えてない。
昨日のおれの配分は4割だったから30レベルも上がるというぶっ飛んだことになっていた。
今日は5人で分けたからおれの配分は2割になって約半分になったことは間違いではない。
シトラスが加わっていなければの話だが。
「神に対しては適応されないのか?」
シトラスを見てシトラスのステータスを確認しようとする。
なんかシトラス固まってないか?
おれのステータス画面のパーティータブからシトラスのステータスを確認するが相変わらず?のままだ。
「いや?}
?のままだが違いがある。
昨日確認した時はレベルもスキルも?が一個だったが今はそれぞれ2つある。
「桁が増えた?」
どういうことだ? レベルもステータスも一桁しかなかったってことか。
その時トサッと音がして誰かがへたり込んだ。
目を向けるとシトラスだった。
どうしたのかと近寄ると「破わわ」「あわわ」と意味をなさない言葉を発していた。
「どうしたんだ? シトラス」
声を掛けても呆然としたまま自分の目の前の虚空を見つめている。
おそらく、というか確実に自身のステータス画面だろう。
声をかけながら肩を揺するとゆっくりと目の焦点が合う。
「フキさん、レベルが上がったんです」
「そうか、おれもだよ」
シトラスはおれの『所有経験値増加』のスキルを知っている、なぜ動揺するんだ?
「初めて上がりました」
「うん?」
初めてってことは初めてなんだよな? どういうこと? 1レベルだったって言うの?
直前に覚えた違和感。
シトラスのレベルやステータスの?が一個から二個に増えた事。
「今まで1レベルだったっていうのか?」
あり得ない、がっつりと模擬戦をやったわけではないが、キアやユズと打ち合っても負けないどころか余裕さえ感じさせていた。
ステータスが一桁なら打ち合うまでもなく吹き飛ばされていたはずだ。
「もちろん。神ですから」




