20日目の確認
9月分 これだけ
「おいっ、おいって」
翌日の朝はベッドから転げ落ちそうになりながら目が覚める。
目を開けるとベッドの揺れは収まり、揺らしていた張本人はおれに縋りつくように、それでいて決して触れないように謝罪を始めた。
「わざとじゃないんだって。そりゃ今までにない感じだったのは認めるけど、こういうことはおれだって気を付けているんだから」
おれをベッドごと揺らしていたのはユズでそのすぐ後ろにはニアとキアもいた。
「何の話だ?」
起き抜けのぼけた頭でユズに聞く。
昨日は従魔になることを受け入れて落ち着いていたのにこの変わりよう。
やはり、手を出したのは失敗だったのか?
「吸ってしまったみたいなんだ。わざとじゃないんだ。必ず別の形で返すから許してくれ」
おれに縋りつくように、それでいて決して触れないようにユズが言う。
どういうことなのかとニアを見るが途方に暮れたように首を振るだけ。
キアに目を向けるとユズの肩に手を置いて心配そうだ。
「ユズは起きた後ステータスを見てたゾ」
それが原因かとおれもステータスを見る。
『ユズ 闇術師
レベル 370+15=385
HP 430+15=445
MP 1170+45=1215
攻撃 400+15=415
防御 400+15=415
知性 770+30=800
精神 770+30=800
敏捷 400+15=415
SP 170+15=185
EXP 184560+7572=192132
NEXT 192500
スキル(+)』
スキル(ー)
闇魔法4
変身
不死
吸収
未収得スキル(+)』
「ぶっ」
エア牛乳を吹き出した。
15レベル上昇?
経験値増加の割り振りを間違えたのかとパーティー画面に戻って確認する。
いや、2割だよな。
恐る恐るユズのステータス我慢に戻り目の端に映った信じられない数字を見る。
レベル385?! 経験値19万?!!
「なんだそれ?」
吸われてる? おれたちの元の経験値を合わせたより多いぞ?
あわてて自分のステータスを確認する。
『遊佐 蕗 魔法使い
レベル 184+30=214
HP 244+30=274
MP 612+90=702
攻撃 214+30=244
防御 214+30=244
知性 398+60=458
精神 398+60=458
敏捷 214+30=244
SP 245+30=275
EXP 91552+15143=106695
NEXT 107000
スキル(+)』
「は?」
『ニア 術師
レベル 134+16=150
HP 194+16=210
MP 462+48=510
攻撃 164+16=180
防御 164+16=180
知性 298+32=330
精神 298+32=330
敏捷 164+16=180
SP 59+16=75
EXP 66993+7572=74564
NEXT 75000
スキル(+)』
「うぇ?」
『キア 剣士
レベル 141+15=156
HP 483+45=528
MP 201+15=216
攻撃 312+30=342
防御 312+30=342
知性 171+15=186
精神 171+15=186
敏捷 171+15=186
SP 19+15=34
EXP 70362+7572=77934
NEXT 78000
スキル(+)』
「わァ」
三者三様の声が漏れる。
30レベルアップ??
記憶していたレベルと違うのはバンパイアを倒した経験値が入ったからか、そういえばキアが食事の時に喜んでたな。
「減ったレベルがそれ以上に戻ったゾ」って
その後もみくちゃにされたせいで確認を忘れていた。
3人の合計より多いって言うのは言いすぎたが、それに匹敵するほどの経験値をユズが一人で持っていたということか。
母数が増大して経験値の増加量が爆上がりしたということだろう。
「減ってない、ユズに吸われたわけじゃないな」
「そうか? よかったー」
ベッドの横でへたり込むユズ。
「でもどうして経験値が増えたんだ? 眷属は止まってるし動いていたとしても15レベルなんて正気じゃない量だよ」
動揺が隠せないユズ、『所有経験値増加』の恩恵は詳しく説明もしないままに寝てしまったから何が起こっているのかわからないようだ。
それもこれも異世界コミュニケーションが悪い。
ニアが「彼女は信用できます」とか言うから平等に増加量を振り分けたけどその前に説明するのは必須だったな。
どう説明したものかと頭を悩ませていると、ニアがユズを連れて行って説明をしてくれるようす。
従魔同士立場的な考え方もあるだろうし任せるか。
あらためてユズのステータスを見て驚く、300レベルを超えて400近いなんてまともに魔物を倒していたら到底到達できない。
取得する経験値が減衰しないように同レベル帯と戦うにしても、300越えの魔物なんてまともな相手じゃない。
ダンジョンのボスとか成体のドラゴンとかになるんじゃないか?
そのレベルにすごい勢いで追いつこうとしているおれ。
自分のステータスを見直して何かを忘れていたことに気付く。
「あれ? レベルって制限があったような・・・」
おれが疑問を感じた時、部屋のドアがコンコンとノックされた。
「えっ? 誰だ?」
今まで宿に尋ねてくる人なんていなかったし、服はちゃんと着ているもののスキルやステータスに関しては機密の状態だ、自然と警戒した口調で答える。
「女神ですよ、フキさんたちをこの世界に送り込んだ先生と言った方がいいでしょうか?」
知っている人ではあったが全然予想外だった。
もし会うとしたら死んだ時か向こうの世界に帰る時だと思っていた。
「はい、今開けます」
ドアの閂を空けて先生を迎え入れる。
部屋に入る時スンと匂いを嗅ぐ仕草をしたのでこの部屋を換気していないことに気付き気まずくなった。
窓を開けて換気する。
「下で話しますか?」
食堂なら飲み物も出せるし朝食をとることもできる。
「いえ、こちらで。人に聞かせていい話ではないので」
にっこりと微笑んで先生が言う、匂いを嗅いだことを申し訳なさそうにしているように見えるのはおれの考え過ぎだろうか。
だとしたらパーティーメンバーも外した方がいいのだろうか?
ニアたちに部屋を出ていってもらうか悩んだが、核心に迫るまではいてもらっても問題ないだろう。
「主様、こちらの方は?」
リーダー呼びが定着していないユズが先生のことを尋ねる。
ニアたちは部屋を出るべきかとそわそわしていたが手で押さえるしぐさをして座ってもらった。
「この人はこちらの世界、国に来るきっかけになった人なんだ」
女神だとかは異世界がらみの突っ込んだ話になってからでいいだろう。
「へー、故郷の人なんだ?」
「まあ、そんなもんかな」
「今日はフキさんのレベル限界突破のお祝いと今後の方針について相談にきたんです」
向こうの人だということを否定することもなく話を進める先生。
「レベルの限界突破は何かしてくれたんですか?」
レベルの上昇には制限があってそれを解放するためにレベル上限解放のスキルがあったはずだ。
たしか最初にスキルポイントを稼ぐためにスキルレベルをマイナス2にした覚えがある。
あれ? マイナスのスキルレベルは解消したはずだけどそれ以上にレベル上限解放のスキルを上げた覚えがない。
レベルの上限が解放されていないなら100レベルかそのあたりでレベルの上昇が止まるはずなんだが、何の抵抗もなくするすると上がっていったので今の今まで忘れていた。
「レベル上限の制限はわたしの方で外しました、こうなることは分かっていたので」
わかっていたというのは所有経験値増加の可能性か、複利で9%増加はさすがにぶっ壊れだもんな。
だとしても何でそこまで便宜を図ってくれるんだ?
「レベルの上限を100上げるためにスキルポイントが100必要なのはどう考えてもおかしいですからね」
そうだよな、スキルポイント全部吸われてるよな。
稼いだスキルポイントが無駄になるのもぼったくりだし、レベルが上限で上がらなくなるのはスキルポイントを稼ぐ手段がなくなってしまう。
八方ふさがりの詰みだ。
「なんでそんな仕組みに?」
そう聞くと先生は眉を曇らせた。
「人の成長を望まない神がいるんですよ、自分の立場が大事な小物です。
なにしろ人の可能性は神にすら届きますからね」
なんか随分とぶっちゃけてきたな。
「そうなのか、普通にやってたらなかなかレベルも上がらないもんな。
ずいぶん辛らつだけど、神同士で対立とかしているの?」
「対立というか立場の違いですね、担当している任期が終われば後はどうなってもいいと思っている神もいれば、世界そのものをよくしようと思っている神もいます」
先生は後者だと言いたいんだろうな。
「熱心な神もいるんですがそれが魔物の神だったりするのでままなりません」
おいおい、人の神も頑張ってくれよ。
「あなた方の世界から人を集めて経験値という世界のリソースを人側に集めてもらうのがわたしの使命なんです」
「いいのか? そんなことばらして」
神々の裏事情なんて知りたくないんだが。
「利害は一致しているはずなんです。潜在的に異世界で冒険したい人たちを集めていますから」
そういわれると反論できない。おれたちのクラスでも一人拒否していたから選択肢はあったわけで。
「ならもっと稼ぎやすくしても・・・ あれ?」
おれのスキル『所有経験値増加』なんかはかなり経験値を稼ぎやすいし、もっと取得を推奨してもいいはずなのにそんなことは言わなかったな。
それにスキルをマイナスにしてスキルポイントを増やすこともこの女神先生に広まらないようにされたはずだぞ。
先生はすべてわかっているとばかりに微笑んでおれの頭に浮かんだ疑問に答える。
「まずあの教室は監視されていました、わたしの上司に当たる運営者です。
『所有経験値増加』もスキルの払い戻しもバグ認定されてもおかしくないものなので見つかったら修正されてしまうでしょう」
言ってることはわかるが随分と緩い監視だな、おれのステータスや先生との会話までは覗くことができないのか。
「それにスキルの払い戻しはリスクも高いですから、開始時点で詰んでしまうこともあり得ますからね」
耳が痛い。
あの教室でスキルの払い戻しや『所有経験値増加』の利点をどや顔で主張してたら初期のおれみたいな戦えないやつを量産していたかもしれないのか。
「正直それほど期待はしていませんでした」
この先生は初期のおれの醜態も見ていたんだろうか。
「『所有経験値増加』を見つける人もちらほらいますし、スキルの払い戻しは2人に1人はやっていますからね」
それはそうか、おれも手が滑って見つけたわけだし、スキルの払い戻しは基本的な仕様と言ってもいいくらいの小技だ。
そこから所有スキルポイントを1000まで増やす奴はそれほど多くないのかもしれないけどいないわけではないだろう。
先生の口ぶりではおれたちのクラスが最初ってわけでもないんだろうし。
「最初にある程度の経験値を貯めることが出来なくてみんなリタイアしました。
フキさんはお友達が優しくてよかったですね」
「やさしい? ああ、まあ」
煽られてる? 皮肉を言われているような気もしなくもないが、おれがあの時のパーティーメンバーだったら気持ちは分からなくもない。
何もしないどころか足手まといにしかならないおれは命を賭けて戦ってるものにとっては憎しみの対象でしかないだろう。
殺されずに追放されただけで済んだのはまだましだったのだろう。
「その後も順調でしたね、自分よりレベルの高い仲間を見つける事ってなかなかないですよ」
そう言われてニアとキアを見る。
本当にいくら感謝してもしきれない『所有経験値増加』のスキルがパーティー全体に効果がある事に気付けたのもパーティーメンバーを信用することができたからというのが大きい。
「それにしても一番困っていた時に放置してたのに今になってなんで来たんですか?」
多少非難めいた口調になってしまったが、おれが苦労したのは自業自得だという自覚はある。
「序盤を助けることはできませんよ、わたしが来たのは200レベルの達成、そして成長率の高さに注目したからです」
「注目されたといってもな」
何かくれるわけでもないだろうし。
「何か持ってきてもよかったですね、でもこれもきっと気に入ると思いますよ」
だから心を読むなって、物じゃないならスキルでもくれるのかな?
「もったいぶってもしょうがありませんね、わたしが来たのは・・・」
もったいぶらないと言いつつもったいぶるように間を空ける女神先生。
「あなたの仲間になるためです」
へー、へっ?
ステータス修正しました




