19日目の契約
8月分 終わり
ブルっと震えて気を引き締める。
「キアは絶対に攻撃を食らわないように。
あいつはおれが引き付ける」
『光の盾』もだが『性的挑発』にも助けられた、今日たまたま発現しなければここでやられていた可能性は高い。
沈んでいたキアがおれを心配するように駆け寄ってくる。
「リーダーは大丈夫カ? ボクよりずっと喰らってたゾ」
おれからキアのステータスは見えるが逆は見えない。
心配するのももっともだ、攻撃回数分エナジードレインされていたら何十レベル下がってるか分からない。
「ああ、盾が光っているうちは防げている。
おれのことは気にせずにザクザク切り刻んでやれ」
「おうッ」
キアが狙われた時は全力で逃げるように言い含めて館の探索を続ける。
「地下があると思うんだけどなぁ」
床板をガンガン叩きながら地下への階段を探すのだが、どうにも見つからない。
「上なのカ?」
吸血鬼なのに?
とはいっても他に手が借りもないので上の階も探すことにした。
上の階では生活臭のする部屋にロープや鎖が散らばっている。
片側が柱に結び付けられていることから、ここには人が監禁されていたのだろう。
「タカオたちの犠牲になった冒険者だろうな」
「ええ、その後被害者も加害者もバンパイアにされてしまったのでしょうね」
空き家だと思っていたらとんでもない主がいたわけだ。
2階の探索で床をドンドンと叩いてもしょうがないので、隠し部屋を探すために壁を叩きながら音の反響を聞き分けていると、どうやら空洞になっているらしい場所を見つけた。
「でかい柱だと思ったら、そういうことか」
館の中央に伸びている柱、その中は空洞になっており梯子が取り付けられている。
梯子の長さから見て1階を通り過ぎて地下まで伸びているようだ。
やっぱり地下がいいんだな。日差しがあっても当たり前のように外に出てきていたが、本来は地下の住人。
地下や夜で本領を発揮するのだろう。
「気を引き締めていこう」
防御手段のあるおれが先頭で潜っていく。
すぐ構えられるように盾は手に持ったまま、その盾には『光の盾』がかかっている。
これが唯一の出入り口だとしたら不便でしょうがないが、バンパイアロードは霧になって移動できるから普段は梯子を使ったりはしないのだろう。
狭い穴を不安定な姿勢で下り続け、一階を越えて地下一階、地下二階ぐらいまで降りた所で竪穴が終わる。
盾にかけられた『光の盾』が周りを照らし、広い空間にポツンポツンといくつかの棺が見える。
「下は大丈夫だ、降りてきていいぞ」
盾を構えたまま二人を待つ。
3人そろってからその場所を探索する。
棺のいくつかは蓋が開いていて空っぽなのが近づく前から分かる。
「残りは3つか」
重そうな蓋は持ち上げるなら二人掛りになる。
中にバンパイアロードがいたらその二人が狙われてまたエナジードレインの餌食になるだろう。
「出てこなければ棺ごと燃やすぞ」
脅しの言葉に返事はない、言ってはみたものの黒塗りの棺はなかなか燃えそうもない見た目をしている。
少し相談して端の棺で試してみることにした。
これ見よがしに頭の上で火を起こし、わざわざパチパチ音が鳴るような生木の枝をたき火にくべた。
『収納』に眠っていたゴミでたき火を作ると、それに気を取られている隙を期待して一気にふたを開けた。
「ひっ」
棺の中には年端も行かない少女がうずくまってふるえている。
見た目14,5歳くらいで淡い緑のワンピースで飾り気も化粧っ気もない。
先ほどの美女バンパイアとは印象が違うがこちらも美少女だ。
「罠を張っていたわけでもないみたいだな」
「さらわれてきた子なのかナ」
「いや、本人でしょう」
男から女に変わるくらいだ若返るくらい何の不思議もない。
少なくても棺に入っていたわけだからバンパイアの関係者だろう。
だとしてもどうするか。
「なら、やっちゃうカ?」
それもどうなんだろう、本気で震えてるみたいだし一方的に攻撃するのも後味が悪い。
「やはり、放置はできませんよね」
おれたちに復讐しないことを誓わせても他の人を襲うかもしれないし、時間をかければ配下を増やして力を取り戻すだろう。
「助けて、悪いことしてないの」
バンパイアの少女は蹲ったまま命乞いをする。
悪いことの基準をどこに置くかにもよるが、彼女からしたら家宅侵入された賊を討ち取っただけのことで、それは門番を倒したおれたちに対しても言える。
「困りましたね、従魔にするわけにもいきませんし」
「ん? なんでダメなんダ?}
「我々のように自ら望んで従魔になるわけでもないですからね。
望まない相手には従魔のスキルと入念な下準備が必要なんです」
ニアが自分たちとバンパイアロードの違いを説明する。
「それでもいいの、連れて行って」
おれたちの会話にバンパイアロードの少女はそれでもいいと言ってくる。
「おかしいですね、バンパイアのそれも上位種が人の従魔になることを受け入れるなんて」
不思議そうに首をかしげるニア。
「そうなのカ?」
「ええ、バンパイアは滅びませんから。
うちらの行動範囲がこの辺りにある期間だけおとなしくしてもらうのが精一杯です」
キアの疑問にニアが答える。
そういうことなら数か月死ぬことより数年単位で従属する方がリスクは高いしプライドも傷つくだろう。
「生き返るからって死にたいわけがあるか!」
バンパイアロードの言い分も一理ある。
その気になれば従魔契約などは破棄できると思っているのだろう。
それはそれでやだな。
「なに? 変なこと考えてないよ」
疑わし気な視線になったおれにバンパイアロードが潔白を主張する。
「二人も従魔でしょ、関係性が良さそうに見えたから
従魔としては形ばかりの、な。
従魔の証である首輪型の魔法道具は留め具も外れてネックレスのようにぶら下がっているだけだ。
人前や街中ではちゃんとしているがそれ以外では緩めていいと言ってある。
当然魔法道具としての機能はしていないので逃亡したとしてもおれからは何もできない。
ではあるが、主人のいない獣人がふらふらしていれば不審な目を向けられたりもするし、単独では買い物もままならない。
二人にとってもメリットのある関係なんだ。
バンパイアロードという魔物に対してそんな緩い関係にできるわけもなくて、そのことはバンパイアロード側もわかってはいるのだろうがそれでも従魔になりたいのだろうか?
「わかってるよ、それでも滅ぼされるよりましなんだって」
先ほどまでやっていた体の入れ替えと違って、滅ぼされた後の復活は相応のペナルティを支払うことになるそうだ。
それに比べれば冒険者に使役されるくらいは数十年不自由するくらいで済むと考えているらしい。
「それでいいなら」
使役されてくれるなら危険性はなくなるし、元々それほどは敵対していたわけでもない。
不法侵入も不正使用もタカオたちがやっていたことで、おれたちは門番のオーガをやっただけ。
迷惑をかけるつもりはなかった。
獣人の二人と違い純粋な魔物を使役するのかこれが初めてで、恐る恐る首に従属の首輪をはめ、おれはバンパイアロードを使役することになった。
「名前はなんて言うんだ?」
「ユーザ、ユーザセアル。ユザでもユズでも好きに呼んでいいよ」
呼びやすいのはユズかな、柚子って名前は日本にもあるし。
「じゃあユズ、これからよろしくな」
ユズは着の身着のままでおれたちと一緒に街に帰った。
棺を運べるならその方がいいけど、宿屋暮らしではそうもいかない。
万が一復活が必要な時は館まで戻るか、簡易シェルターのような避難場所がいくつか用意してあるそうだ。
不滅で不老不死、そんな相手が本気で逃げようと思ったら従属の首輪ひとつで拘束できるものでもないだろう。
ユズが不満を訴え始めたら開放することも考えてやらないとな。
冒険者ギルドでユズの従魔登録を済ませて宿に戻り、その夜におれは自分が捕食される側だと知った。
従魔に手を出していることを指摘されては断ることもできずなし崩し的にずるずると・・
前の世界の倫理観がぶっ壊されていることは感じている。
気を強く持たねば。
一通り仲良くなるとニアたちもユズに対する警戒感も溶けたようだ。
なんだろう、飲み会で酔っ払ったところを見ることで本音を探れた気になるのと同じ気持ちだろうか?
パーティーメンバーからの信頼も得たことでユズも経験値取得の輪に入ることが許された。
実は夕食後にその話をしたら、体の関係を持つまでは信用できないとニアたちに言われていたのだ。
どういう価値基準だ?
割り振りはニアとキアは2割のまま、おれの6割から2割分をユズに受け持ってもらう。
パーティーメンバーがもう一人増えれば全員2割で平等になるなと思うが、そうなったらみんなが1割で残りがおれになると言われた。
どうやらリーダーは特別にしないと気が済まないようだ。
リーダーというかスキル所有者の尊重か。




