19日目の不本意な挑発
7月分二つ目
二人と仲良くしていたからか? オーガは関係ないのか?
性的接触が多数ある事や、相手から魅力を感じてもらえたことが取得条件か?
好意を感じてもらえることは嬉しいが内容が性的なものだった?
「内容は関係ないか?」
好意は好意だし利害が一致していたのであれば罪悪感を感じる必要はない。
従魔と契約者という不公平な関係でいやいやされていたわけではない事だけがわかればそれでいい。
「戦闘に使えるんだろうか?」
オーガを引き付けたのがこのスキルの効果なら利き目はあるだろう。
欲しかった挑発スキルでもあるし、細かい所は考えないでおこう。
薄暗くなっている文字をタップしてスキルを有効化、そのためにスキルポイントを10払った。
『SP 260-10=250』
「次の敵はすぐに倒していいからな」
「瞬殺だゾ」
キアの手加減なしの不意打ちはサイクロプスでも一撃で倒しそうだな。
楽勝気分で2体目のオーガを探した。
依頼票の場所にオーガがいなかったので周辺を探し回る。
すると古びた邸宅が廃墟になっているのを見つけた。
その門の近くに一体、さらに目が届く範囲にもう一体オーガがいるのだった。
「門番みたいだな」
門の横に気を付けして立っているわけではないが、門を通るものは確実に2体のオーガに見つかる。
そんな位置取りだ。
相談してキアが一体を不意打ちしている間もう一体をおれが引き受けることになった。
一体では物足りないと思っていたところだ、ちょうどいい。
ニアはおれのサポートをしてもらう。
準備に時間がかかりそうなおれたちがまず仕掛けて、それに合わせてキアも襲撃することになった。
キアの方はすぐに片付きそうだからおれたちは基本的に足止めだけしていればいい。
遠い方のオーガの方に回り込んで近づく。
不意打ち直前に『光の槍』を発動した。
手に持った鋼鉄の槍の周りに『光の槍』が重なる。
その発光でオーガに気付かれてしまい身じろぎをするオーガの首を狙い損ねて肩をかすめるだけに終わる。
『光の槍』は奇襲には向いていないか、でも槍だけで攻撃するよりはダメージが入った気がする。
オーガが叫び、もう一体のオーガも呼応するようにうなる。
その後絶叫して静かになったからキアの襲撃は成功したのだろう。
おれたちの方は奇襲後にすぐニアの『風蛇』がビシバシと決まって、片足は地面に縫い取られ右手も封じられている。
左手は動かせるものの随分と不自由な感じで攻撃を避けるのも危なげなくできる。
掴みかかろうとする左手を盾で払って胴体に光の槍を纏った槍を撃ち込む。
「アオオン」
オーガが痛みだけではない声を漏らして後ずさり、傷口をかばうように手を当てる。
それがまるで胸を隠しているような仕草でおれがセクハラしているみたいになっていたのだが『性的挑発』のスキルが常時発動しているからなのか?
なんか嫌なんだけど。
『光の槍』を纏わせたおれの槍攻撃はオーガにもちゃんと効いていて着実に傷口を増やしている。
このまま続ければ近いうちに倒していたが一体目を片付けたキアが後ろに忍び寄ってさっくりと倒してくれたのだった。
楽勝気分で帰ろうとしていたところに館から不機嫌そうな声が聞こえてくる。
「侵入者よただで帰すと思うな」
館には用はないので倒したオーガを収納したらすぐに帰るつもりだったのに、突然館から響いた声におれたちは手を止めた。
あたりを暗闇が包み周囲の地面からボコボコと腐ったゾンビやスケルトンが現れる。
一体一体は強くもない魔物だが突然のことで数に圧倒されてしまう。
迎撃するため唯一魔物の現れていない門の中に入ってしまったのが致命的な失敗だった。
結界のように非実体の門が閉じておれたちを閉じ込めてしまったのだ。
「しまった!」
「閉まったナ」
強行突破できる敵だったのに対多数が苦手なせいで怯んでしまった。
館からは壊れかけの扉を開いて新手が現れる。
「人間どもよ、お前たちも我が館を無断使用したものの仲間か?」
門番らしきオーガは倒したが無断使用なんて知らない、何を言っているんだ?
「リーダーあいつダ」
キアが指さす先にタカオの姿、目はうつろで口は半開き、よだれまで垂らしている。
近くには同様の姿のマスミもいる。
「やはりこいつらの仲間なのだな」
タカオたちを従えた館の主人はタキシードのような正装に地面にとどくマント。
黒いマントの裏地は真っ赤でステッキまで持っている。
まるで吸血鬼、アンデッドの貴族のようだった。
「そいつらが何をした? そいつらになにをしたんだ?」
だいたい想像は付くが、それはそれとして仲間だと思われているのは訂正しておきたいな。
「白々しい、人間同士で牧場など作っておったから全員家畜にしてやったまでのことよ」
やはりこの場所でタカオたちが冒険者たちを監禁していたんだ。
経験値を吸い取るために生かしておいたのを牧場のようだと表現し、気に入らないから全員アンデッドにしてやったということだろう。
「そいつらとは無関係だ、門を開けてくれるなら敵対するつもりはない」
ダメもとで交渉してみる、ただでさえ吸血鬼とは戦いたくなかったのに、なんだか雰囲気がその上位の存在のようにも見えるし、ちょっと勝ち目が見えない。
「門番を殺されてはいそうですかと言えるものか、お前らが代わりに働け」
ダメか、オーガを倒したことですでに手遅れだったらしい。
門の外のゾンビたちは不可視の門があるため相手にしなくていい。
館の主であるバンパイア上位種、バンパイアロードとタカオたちと拉致された冒険者たちの変わり果てた姿、これがバンパイアで10数体。
サイズこそ小さいものの強さ的にはサイクロプス一体にオーガの群れを相手にするようなものだ。
つまり逃げられるなら逃げ一択。
そんな状況だ。
「しゃべっている奴はおれが相手する。キアはその間に数を減らしてくれ、ニアは任せる」
ニアのサポートはおれの方に欲しい、それこそ喉から手が出るほどに。
ただ対象を限定してしまうとバンパイアロードを抑えている間にバンパイアに襲われてしまうこともあるし、ニア自身の防御も必要だ。
「ほう、わたしと一対一をするのかね。随分と自信があるようだ」
バンパイアロードは他のバンパイアに手出しをしないような身振りをする。
マジかラッキー、おれに向かってくるバンパイアの足止めをニアにやってもらいたかったが、その分の負担がなくなった。
ニアは自分の防御以外はバンパイアロードの拘束というか妨害に集中できる。
一対一? そんなこと言いましたっけ?
まるで試合をするかのように周りのバンパイアがおとなしくなり、おれとバンパイアロードだけが前に出る。
「さすがに全力か?」
視線の操作でステータス画面から盾に90,槍にも90スキルポイントをつぎ込み、それぞれスキルレベルを2レベルと3レベルにした。
『SP 250-180=70』
構えるおれに対してバンパイアロードがせせら笑う。
「そんな貧相な武器でわたしに傷を残せると思うなよ」
くっ、最低でも魔法の武器が必要ということか。
武器も盾も店売りの安物、鎧に至っては最初の町で買った革鎧だ。
おれ恥ずかしいよ。
「ニア、口を狙え、キアは後ろだ!」
駆け出して槍に『光の槍』を纏わせる。
「なっ、卑怯だぞグムッ」
口を封じられたバンパイアロードはガチンと歯を閉じてニアの『風蛇』を噛み千切る。
「このような魔グムッ」
ニアの『風蛇』は一つじゃない、猿轡のように口の中、顎を固定するように顔を縦に、視界を完全にふさげるわけではないが目の上にも、絞め殺せないながらも首にまで。
それぞれが破られるたびにタイムラグなしで再装填される。
バンパイアロードはじたばたと両手で顔の拘束を取り払おうとする。
駆け込んだおれは隙だらけの胴体に『光の槍』を纏ったまま攻撃。
「クゥゥ」
猿轡から声が漏れる、湿度の高いその声はおれの『性的挑発』が効いているためだろうか?
自動で発動するのをやめて欲しい。
不利を悟ったバンパイアロードは足先から霧に変身して逃げようとする。
見る見るうちに非実体化していくバンパイアロードに焦るおれ。
「逃がすか!」
顔の非実体化が進まずもたもたしていたバンパイアロードの顔に槍を撃ち込み、そのまま『光の槍』を解放する。
バチッとはじけた『光の槍』はバンパイアロードの顔に穴をあけ、しかしそのことで拘束を外れたバンパイアロードの顔は最後まで霧に変化して館の方に漂い消えていった。
振り返り門を見るが非実体の門は健在のようでゾンビたちがなだれ込んでくる様子はない。
「今のうちに数を減らすぞ!」
「やるゾ」
ニアの拘束とおれの挑発で残ったバンパイアの大部分を足止めし、キアがサクサクと首を刈っていく。
おれの攻撃力もだいぶ上がっていて、キアが4体仕留める間におれも一体倒せるようになっていた。
「きーさあーまーらー!」
残りのバンパイアが2体になった所で館の壊れかけの扉がバタンと開き先ほどのバンパイアロード? が姿を現した。
扉を開ける前は同一人物の気配がしていたのだが見た目と声が一変している。
赤いタイトなドレスに黒髪のロングヘア、切れ長の目と赤い瞳はさっきの面影を残している。
まだ距離があるので無視して残りのバンパイアにとどめを刺す。
彼女が現れたとたんにバンパイアたちが強化されたように見えたのだ。
「眷属よ・・・眷属は?」
今倒されたのが最後の2体だと気付き絶句するバンパイアロード。
一瞬呆然としすぐにパチンと指を鳴らした。
ゾンビたちの声が大きくなったので振り返るとゾンビたちを締め出していた不可視の扉が解除されていたのだった。




