18日目の被害届
5月分2話目おわり
構わず部屋を出ようとするがタカオにガッと肩を掴まれた。
こいつにとってはおれもNPC扱いか。
「まてよ」
待たねえよ。
ニアとキアを目で促して部屋を退出させてからおれも手を振り払って部屋から出た。
「あっ、待ってください」
ギルド職員までおれを引き留めようとしたので「手続きがあるなら明日やります」と言い捨ててそのまま宿に帰った。
尾行にも気を付けて宿に帰ったのだが、おれが手続きを明日にすると言った時タカオがゆがんだ笑みを隠しきれていないように見えたのは気のせいだったのだろうか。
気になってステータスのパーティー編成を確認するとタカオたちが入っている。
気分が悪いのですぐにでも解消したいが、時間も時間だし冒険者ギルドの通常受付も閉まっている。
夜間受付もあるにはあるけど追加料金がかかる上に事情を知っている職員がいなければ共同パーティーの解消ができるかもわからない。
タカオたちの『所有経験値増加』の割り振りが0になっている事だけ確認してこの日は床についた。
「キャァァーー!!!」
翌朝まどろんでいた意識が一瞬で覚醒した。
飛び起きたおれが見たのはベッドに突っ伏したニアと呆然とそれを見つめるキアだった。
「なにがあった?」
周りを警戒しつつ武器を手元に引き寄せる。
近接戦闘のスキルがないことが急に心細くなってきた。
「レベルが、レ、レベルが減っています」
「エ?」
よくわからない事を言うニアにキアも首をかしげる。
レベルって減るものなのかとステータスを呼び出した。
『遊佐 蕗 魔法使い
レベル 152+5=157
HP 212+5=217
MP 516+15=531
攻撃 182+5=187
防御 182+5=187
知性 334+10=344
精神 334+10=344
敏捷 182+5=187
SP 254+5=259
EXP 75708+2361=78069
NEXT 78500
スキル(+)』
減ってはいない、が、想定していた経験値の増加量ではない。
昨日の時点で10レベル以上は上がっている増加量だった。
『ニア 術師
レベル 123-6=117
HP 183-6=177
MP 429-18=411
攻撃 153-6=147
防御 153-6=147
知性 276-12=264
精神 276-12=264
敏捷 153-6=147
SP 48-6=42
EXP 61292-2819=58473
NEXT 58500
スキル(+)』
『キア 剣士
レベル 135-7=128
HP 465-21=444
MP 195-7=188
攻撃 300-14=286
防御 300-14=286
知性 165-7=158
精神 165-7=158
敏捷 165-7=158
SP 21-7=14
EXP 67354-3425=63929
NEXT 64000
スキル(+)』
ニアたち二人ははっきりと減っている。
ニアよりキアの方が減りが多いのはレベルが高いからか?
5%くらい、いや、おれは増加はしているわけだから増加した後で減少したのか。
「揺り返しとか聞いてないんだが」
『所有経験値増加』のスキルが今まで増加させていた分を減少させるとか、そんなことあるのか?
「天罰が下ったんです! お許しください、お許しください」
「ウウウ」
ニアとキアが抱き合いながらガクガクとふるえている。
他の人が動揺していると不思議と自分は落ち着いてくるようで。
「大丈夫だ、二人ともおおお、落ち着け」
冷静な頭脳が状況を分析する。
『所有経験値増加』の副作用なら増えてから減るのはおかしい。
「犯人はこいつらだ」
ステータスウインドウの共有パーティー、タカオともう一人を指す。
二人は震えたままだし、ウインドウは他者への可視化もしていないから自分の思考を整理するためなのだが、そうとしか思えない。
「今すぐ冒険者ギルドに行って共有パーティーを解散するぞ」
昨日やっておけばよかった。
おそらくこれが狙いだろうから共有パーティーの解散は渋っただろうけど、おれの許可なく勝手に共有パーティーにしたのだから、冒険者ギルド相手にごねるまでもなく解散はできただろう。
「くそっ、やられた」
共有パーティーの相手に『所有経験値増加』の効果がのせられることがわかった時に向こうからの影響力を考慮すべきだった。
冒険者ギルドの夜間受付に駆け込んでごねるべきだったんだ。
身支度を40秒で済ませて朝の冒険者ギルドに突入する。
割と早めの朝でもそれなりに人はいて列に並ぶ時間がジリジリと過ぎていく
「あら、フキさん」
「共有パーティーの解除をお願いします」
語尾を食い気味にパーティーの解除を伝える。
元々事情を知っている職員さんの所に並んだのですんなりと手続きは進み、タカオたちとの共有パーティーは解消される。
「そんなに急いでどうしたのですか?」
職員に無邪気に尋ねられる。
こいつがタカオたちの言うことを信用しなければこんなことにはならなかったのに。
恨みがましい目を向けながら何があったかを説明する。
「経験値を盗まれたですって!?」
説明の途中で深刻さを感じ取った職員は個室に移動して話の続きを聞いた。
そして今朝ステータスの確認をしたところで声を荒げたのだ。
「どっ、どのくらい?」
「ボクは7レベルダ」
「うちもそのくらいです」
おれは上がっていたけど同じくらいは奪われているだろう。
キアたちにしても増加分と相殺されているだろうから、実際の被害額は12レベルとかそのくらいになるはずだ。
「たいへんじゃないですか!?」
大変なんですよ。
「よく落ち着いていられますね、今すぐギルド長を呼んできますからお待ちください」
バタバタと椅子を転がす勢いで部屋を出ていくギルド職員。
落ち着いてはいないのだけど、取りあえず共有パーティーからタカオたちがいなくなったことでひと段落はした。
なんか共有パーティーの欄が汚れた気がして忌々しい。
「ひどい話だったけど、おれたちだったら取り返しは付くからもう落ち着きなよ」
キアとニアは宿を出る前からお互いにあざが付きそうなくらい強く手を握り合っている。
人目がなければおれに抱き着いてきそうなくらい距離が近い。
「リーダぁー」
椅子に座ってるおれの後ろから覆いかぶさってくる二人。今はいいけどギルド長が来たら離れてくれよ。
お茶を飲んで待っていると5分程度でギルド長を連れて職員が戻ってくる。
「君らか?被害者は。
タカオとマスミの二人は顔を出したら引き留めるように手配した、経験値の強奪は前例がないが重罪だ。
おそらく経験値を稼ぐのに必要な時間の数倍重労働させることになるだろう。
実質奴隷化だな」
ギルド長は仇は取ってやるみたいに言うけど、それで経験値が戻ってくるわけでもないし、あいつらは転移してきたクラスメイトだから向こうに戻ろうと思えば戻れるんだよな。
まあいいか、一日で取り返せるなんてことはわざわざ言ったりする必要はない、向こうに戻った時に恨まれるのもいやだが、罪を軽くする義理もない。
おれたちの報告だけで指名手配までしてくれるのはなんでかと尋ねたら、犯罪の疑いがあるものは過去にさかのぼってステータスの開示がされるそうだ。
タカオとマスミは不自然なレベルの上昇とタカオの『経験値強奪』、マスミの『スキル効果上昇』のスキルが決め手になったということだ。
「不自然なレベルの上昇?」
心当たりのある現象に背筋が冷える。
スキルまで見られたうえでのことだから、人に迷惑をかけない『所有経験値増加』は犯罪にはならないだろうけど、疑われるだけでも怖いな。
目立ったことはしないようにしよう。
「フキさんは落ち着いていますね」
ギルド職員に言われて自分の態度が不自然だったことに気付く。
「現実味がないんですよ、それに昨日は一気にレベルが上がったばっかりだったんで今のレベルに違和感がないというか」
「サイクロプスを初回撃破したんですよね、おめでとうございます。
レベルが複数上がる機会なんてなかなかないですからね」
一生に数回しかない初回撃破特典を台無しにされたとも言える。
おれからしたら大したことはないんだが、あいつら本当にひどいことをするな。
聞き取り調査を進めていると別のギルド職員が書類をギルド長に渡す。
それを見たギルド長が渋い顔をした。
「タカオたちとパーティーを組んで経験値の減少を訴えたものはいないが、前回のように死んだ者、ほかの街に行ったものは何人かいるな」
ギルド長がうなると書類を持ってきたギルド職員が補足する。
「ほかの街へ行ったという話もタカオたちから聞いただけですからどうなっているかは分かりませんね」
毎回死に別れていたら怪しまれるが、ほかの街で別れてその時にパーティーを解消したと言ってしまえば死亡した時と区別がつかないのだろう。
「最後は殺してパーティーを解消するでしょうけど、それまでの間は監禁しているかもしれません」
経験値の強奪は一度にすべては奪えない。
キアたちは5%くらいだったが増加分と相殺しているなら10%は奪われているだろう。
10%づつなら10日間。おそらく母数が変化するからなかなか奪いきれないだろうがそれでも10日もあれば半分以上奪えることになる。
「何されているかわからんな」
ギルド長は奥歯をギリッと噛み怒りをこらえる。
おれたちもそんな目にあっていたかもしれない、今までの犠牲者の中には女性の冒険者もいただろう。
監禁したまま生かしてある可能性は絶望的だ、新しい犠牲者とパーティーを組むためには今までのパーティーを解散しなければいけないが冒険者ギルドで手続きをするときに犠牲者が受付で助けを求めてしまう。
そんな危険は冒さないだろう。




