16日目にオーガ討伐
3月分 2つ目(最後)
その日も街を2つ越えて宿に泊まる。
この辺りは街というには少し小さい、村が発展した宿場町のようなものだ。
「おやすみ」
「おはよう」
『遊佐 蕗魔法使い
レベル 99+16=115
SP 201+16=217』
『ニア 術師
レベル 93+5=98
SP 18+5=23』
『キア 剣士
レベル 105+6=111
SP 41+6=47』
キアの固有スキル習得まであと1日。
ニアも100レベルを超えて上級職への転職条件を満たすことになる。
もちろんおれもだ。
ちゃんとステータスの職業欄がほんのり光っている。
「次の次ででかい街に着くから今日中にそこまで行って、明日からはそこを拠点にするってことで良かったんだよね」
「はい、ニールスヘルグです。街というより城塞都市という規模になっていますから何をするにも不便はありませんし、納品の限界もありませんから冒険者の拠点としては最適かと」
「敵も強いゾ」
オークの上のランクであるオーガやフォレストジャイアント、夜には吸血鬼やレイスが徘徊するという。
足を伸ばせば深いダンジョンもあり、100レベルを目指すもの、それを越えて自らを高め続ける冒険者にとっては骨をうずめるような街だ。
実際にこの街で家を買う熟練冒険者も多い。
「やっと落ち着けるな、着いたら何日か休むか」
「いいナ、でも一日でいいゾ」
「何かしてないと落ち着かないですから」
それもそうかな、ただ休んでいるだけでレベルが上がっていくのも落ち着かないものだし。
宿を出て冒険者ギルドを少し覗いてから街をでる。
この辺りになるともうクラスメイトを見かけることもない。
ほとんどが学園都市か闘技場都市を拠点にしているのだろう。
「いるゾ、初めてのオーガダ」
偵察からトテトテと戻ってきたキアが森の中を指さし報告をくれる。
「二人はオーガとは戦ったことあるのか?」
「ないゾ」
「ありません。オーガ相手には人数を集めなくてはいけないので実力のあるパーティー同士で報酬を決めてから挑むことになりますね」
二人の場合あまり自由に動けるわけでもなかったし、レベル的にもキャリーされる側だったから報酬をもらうどころか謝礼を払わなければいけないということだった。
「勝てるよね?」
「いけるゾ」
「レベルも能力も足りています、それもリーダーのおかげです」
ニアのスキルの術者10人分というのは本当に頼もしい。
キアが先行、接敵したらニアが拘束してキアとおれで削り倒す作戦を立てる。
作戦ともいえないようなものだがこういうのは単純な方がいい。
キアが森の中をそろそろと進む。
キアの進む延長線上に索敵を伸ばし続けていると、見つけた。
魔法はまだ届かない、キアが見つかるのが先か魔法の射程内に入って不意打ちを仕掛けるのが先か。
ニアは索敵を持っていないためオーガの気配は捕らえられていない、おれが指さしてオーガがいることを伝えるとそちらに目を凝らしている。
戦術的にはニアが拘束しておれとキアでボコボコにするのが効率的だ、魔法が届く距離まで近づけばニアもオークを視認できるだろう。
森の中は木々が密集しており視線が通らない、おれの索敵が敵のオーガが魔法の射程範囲に入ったことを知らせたが視認できず魔法の射線も通らないので先制攻撃できない。
そのせいで近づいたキアがオーガに見つかった音を先に聞くことになった。
オーガはバキバキと下ばえや枝を折りながらキアに向かっていく。
キアには魔法の援護が受けやすい場所に位置どるように言ってあるので向かって行かずにおれたちとの位置関係を確認しながらジリジリと後退する。
「見えた」
おれは『光の槍』を投げつけ、ニアは『風蛇』で手足を拘束しようとする。
ニアの拘束の気配を感じたキアはオーガに向けて突撃する。
『光の槍』はオーガが横っ腹に平手打ちし首を振って避けたことで手のひらと側頭部に軽い傷をつけるにとどまった。
『風蛇』は軽く引きちぎられたが、二本絡まった所は動きが鈍っている、右手右足に2本づつ絡まっているようなのでキアも戦いやすくなるだろう。
キアは挑発しつつ後ろをとろうと回り込む。
動きの鈍った手をくぐり抜け足を切りつける、オーク程度なら深い傷が出来て血が噴き出すがオーガに対しては致命的な傷にはならない。
はね返されてノーダメージというわけでもないだろうが薄皮1枚だけで太い血管までは届かないと言ったところだろう。
オーガもキアを無視するわけにはいかないからおれたちに対しては横を向く形になる、『風蛇』を引きちぎろうとしながらまずキアを倒そうとしている。
ニアと目配せし追加の『風蛇』を巻き付けるタイミングに合わせて『光の槍』を胴体めがけて撃ち出す。
警戒していたオーガは腕の筋肉を固めて『光の槍』を受け止める、ザクッと音がして腕にピンポン玉大の傷ができる。
肉をえぐった『光の槍』は消滅し、一瞬遅れて血が噴き出し始めた。
グルオオオと雄たけびをを上げて無事な方の手でまとわりついてくるキアを追い払う。
「削り倒すぞ」
「オーガにあんなに大きな傷入るんですね」
『風蛇』を絶え間なく操るニアが感心したように言う、貫通させられないことをふがいなく思ったがオーガ相手なら傷を付けられただけ大したものだということか。
左手の二の腕に大けがを負ったオーガは手をぶらりと下げてこちらに憎々しげな顔を向ける、キアを放置してこちらに向かって来ようとするが『風蛇』にまとわりつかれた足は思うように動かない。
一本や二本の『風蛇』であれば振り払い引きちぎって自由になれるのだろうが、全身に10本もの魔法が纏わりつけばそうもいかない、糸がより合わさって丈夫な紐になるように。
片手が傷つきもう一方の手と片足を拘束されてオーガはもうキアの敵ではない。
自由な方の足で何とか蹴りつけようとするが、目まぐるしく位置を変えるキアに追いつけていない、バランスを崩すたびに膝の裏を切りつけられている。
ギインと石を切りつけたような音が響く、キアの剣術はスキルレベルが3で一般人の100倍の攻撃力があるのに効果的なダメージがなかなか与えられない。
「光の槍」
おれの魔法がオーガの肩に着弾する。
力を入れて防御しなかったせいか先ほどより大きいソフトボール大の傷を与えることができた。
「いけるぞ」
「はい」
落ち着いて魔法が当てられるのもニアの拘束のおかげだ、固有スキル『九尾の狐』がなかったらこんな風に余裕を持って戦えなかっただろう。
ニアが拘束してキアが挑発したところにおれが『光の槍』を当てることでオーガの体に大小の傷を作り出し、傷が20にせまるころやっとオーガが膝をついて前のめりに倒れた。
体中傷だらけで生きているのが不思議なほどだ。
「とどめを刺すまで拘束頼むよ」
けた外れの耐久力にビビり散らかしながらオーガの後ろに回り首の後ろに『光の槍』を打ち込む。
抵抗力をなくしたオーガは首の後ろ半分を失いようやくおれたちは力を抜いたのだった。
「とっとと撤退するぞ」
オーガの体を収納して2人を急かす。
MPも心もとなく新しいオーガに遭遇したらまともに戦える気がしない。
相当に強くなったつもりだったがそれ以上に敵が強くなっている。
「はい」
「強かったナ」
周りを警戒しつつ街道まで戻る、途中にはあれほど探していた黄薬草もちらほらあったが警戒に忙しくて摘んでいる暇はなかった。
オーガがいたせいかオークやゴブリンのような弱い魔物は全然見かけなくて魔物の空白地帯になっていたから警戒は無駄になったけど、無駄になってよかったと本気で思わせるほどオーガとの戦いで消耗していたようだ。
冒険者ギルドで依頼の掲示板を見るとオーガの討伐が確かに載っていた。
報酬は1万エル、日本円換算で100万円になる。
「時給どれくらいだ?」
苦労はしたものの実働時間は30分程度、連戦すれば時給200万円だ!
「いやいや」
MPは使い切ったし精神的な疲れもあるから1日一回が限度だろう、それでも日給が100万円で3人で分けても30万を超える。
ウキウキで受付の列に並ぶ。
込み合っている時間帯でもなかったのですぐにおれたちの番だ。
「はい、承ります。
こちらオーガの討伐ですね、戦力は十分でしょうか?
合同パーティーを組むのであればギルドからも適したパーティーを紹介できますが」
受付のお姉さんはパーティーのマッチングまでしてくれると至れり尽くせりだ。
「紹介はいいんです、実はもう討伐してあるので報告するために受注がしたかったんです」
「えっ、討伐済みなんですか? この近くですと東南の森に森の主がいますけど」
「ああ、たぶんそれです」
ヌシだったのかどうりで強いわけだ。
「それはこちらも助かります、確認のためこちらに来ていただけますか」
受付のお姉さんは後ろの人に業務を代わってもらいおれたちを案内した。
ドアを開けた先は広めの部屋で刃物や拘束する道具が揃っている。
素材の受け渡しや解体をする部屋のようだ。
指示された台にオーガの体をのせると受付のお姉さんは腕を持ち上げたりひっくり返したりしてオーガの体を調べ始めた。
「確かに、確認しました。
広範囲に傷がありますので買取価格は落ちますが依頼は達成です、ありがとうございました」
素材が痛むのは仕方ない、オーガほどになると抵抗力が弱る前に致命傷を与えることは難しいからだ。
受付の人も残念そうなわけでもなく当然のような口調だ。
「依頼の達成に1万エル、素材の使える部分に2000エルが報酬になりますがよろしいですか?」
「はい、それで」
素材なんかは細かく見ていったら端数は出そうだけど、どんぶり勘定も悪いことばかりではない。
手間を省くことによる時間の節約、その場で査定する手数料の節約により本来の買取価格より上乗せされていることがほとんどだ。
査定を要求した挙句に手数料が上乗せされて提示額が下がったなんて話も聞く。




