13日目の失望
2月分 3つ目
「こっちかナ」
かすかな匂いと踏まれた草を頼りに魔物を探すキア。
おれも『索敵』取ったから同じようなことはできるはずだな。
短時間しか持たないが魔法の『嗅覚強化』を発動。
前回発動した時とは違って『索敵』と連動したのか匂いの情報が視覚上に現れる。
色の付いた靄のようなものがあちこちに漂っていて匂いの元を指し示している。
それぞれの靄は細い線でおれの鼻とつながっており、近いものほど線が太くなっている感じだ。
キアの向かっている方向に魔物がいることを確認したのでそのまま見守る。
おれが出しゃばってもしょうがない、10分しかもたない魔法では常時鼻がいいキアの仕事をとるほどではない
おれの『嗅覚強化』付きの『索敵』は時々発動して、キアの警戒していない後方や側面を調べる程度だ。
前回つけられていたことに気付かずにひどい目にあったからな。
「近いゾ」
キアが敵への接近を告げる、おれも前に注意をするとオークらしき敵が2体。
以前であれば複数体がいる集団は狙わなかったそうだがニアの『風蛇』による拘束が格段に進歩したため複数体であっても積極的に狙うことにしたようだ。
「2体か」
「うちが2体とも拘束します」
「頼むゾ」
キアが忍び寄りおれたちもその後に続く。
2体のオークが視認できるようになり、キアも十分に近づいた。
短い詠唱の後でニアの『風蛇』がオークたちに襲い掛かり2体の足を拘束する。
1体はその場にとどまり『風蛇』の拘束に抵抗しもう1体は周りを見回しておれたちを見つけた。
「フゴオー」
鼻息も荒く『風蛇』の拘束を引きちぎってこちらに向かってくるがそこに2発目の『風蛇』。
10回行使可能な魔法を時間差で与え続けるニア、リキャストタイムを無視した連続攻撃は『風蛇』程度なら数秒程度しか拘束できないオークを数秒おきに拘束し続ける。
こちらに向かおうとしたオークはバランスを崩して転倒、立ち上がろうともがいても手足のどこかが常に拘束されているためじたばたするだけで起き上がれそうにない。
そんなオークにすり抜けざまの一撃を加えたキアが通り抜けていく。
太ももあたりをざっくりと斬られたオークはもう立ち上がれない、近づかなければ危険はないだろう。
もう一体のオークも『風蛇』の時間差拘束に身動きが取れず、キアに間合いを詰められている。
「そっちをやるつもりだったんだけどなあ」
おれは『光の槍』の標的を変えて倒れているほうのオークの頭に攻撃、頭蓋骨をものともせずに貫通した『光の槍』は地面にもぐり込むように消えていった。
キアと向き合ったオークは腕まで体に貼り付けられてハムのように縛り上げられている。
不可視の『風蛇』に縄のように締め付けられて少しでも自由になろうと指を体の外側にピンと伸ばして、足はつま先立ち、何の意味があるのか唇はタコのようにとがらせている。
せっかくやる気だったキアも肩を落とす、ここまで拘束したら瀕死のゴブリンよりも手ごたえがないだろう。
後ろに回ったキアはひざの裏を切りつけ、膝をついたオークの延髄を切り裂く。
確実に絶命させつつ頸動脈を残すことで無駄な出血も抑える余裕ぶりだ。
「終わりましたね」
「本来ならこんなに楽な相手じゃないんだろうけどな」
手数10倍がそのまま戦力10倍になっている感じだ、『風蛇』が使える熟練の風魔法使いが10人いるようなものだからそりゃあ同等の敵は手も足も出ないよな。文字通りに。
そのまま持ち帰るなら血抜きは必須だが、『収納』持ちであれば肉が劣化する前に持ち運べるので処理は売却先に任せてしまおうと回収した。
「手ごたえないゾ」
「経験値はともかく金にはなるからな、もう少しだけやっておこうか」
寄り道の様な狩りなのでそれほど時間はかけられない。その後5体のオークを倒してからおれたちは次の街にたどり着いた。
冒険者ギルドで依頼の報告とオークの買取を済ませたが経験値の少なさに目を疑った。 レベル差が10ある事で経験値が10分の1になるのだが、30レベル前後のオークとのレベル差は30以上。
おれとの差が37レベルで、37分の1かー、と思っていたら詳細内訳で1000分の1にされていた。
「は?」
『取得経験値内訳
名称オークL30×7
基本経験値150×7
対象人数1.5/1
レベル係数1/1000
人数割り1/3
初回撃破0』
基本経験値で1050、対象人数はペアが2組ソロが3体で多数と戦った時の経験値が上乗せされている。
そこまではいいがレベル係数が1000分の1?
『EXP 35499+14=35513』
ステータスで確認してもたったの14、数値上は1以下になっている所だが7体倒したのでそれぞれ1づつくれたのだろう。
それに加えて討伐達成の経験値も1体ごとに1、合計で14だ。
「わあ、太っ腹」とか思うわけもない、キアたちに至っては確認すらしていない。
おれを温かい目で見守るだけだ。
「こんなに経験値が少ないものなのか」
「同等以上の敵じゃないとまるで話になりませんね」
「無駄だゾ」
ここまでひどいと悪意すら感じる、この世界の運営はどれだけレベル上げが嫌いなんだ?
「人数を集めて同等か少し下の敵を倒すのが一般的ですが、同等ですので犠牲が出ることもあります」
「分け前も少ないしナ」
過酷すぎる、ある程度まで来たら冒険者は引退した方がいいのか?
「だからリーダーのスキルはおかしいんですよ」
「頭おかしいナ」
「そうか? そうかー」
おかしいとは思う、ここまで経験値の取得が制限されなかったとしても時間経過だけでレベルが上がり続けるのはぶっ壊れだ。
キャラメイキングの時の女神の先生もおれが所有経験値増加に気付いたことをわかった上でスキルレベルの上昇をプレゼントしたようなところはある。
「まさかとは思うが」
「なんダ」
「経験値の強制搾取が行なわれているのか?」
荒唐無稽な考えだ、何者かが本来得られるはずの経験値を横からかっさらっていくなんて。
そんなことができたとしたらそいつの権限は魔王なんてものじゃない、魔神いや運営や開発に携わる存在、創造神だ。
おれのつぶやきにキアはピンとこないようだ、ニアも首をかしげている。
それも当然だろう、この世界で生まれてこのシステムしか知らなければこれがどれだけ理不尽で歪なことなのかの想像ができない。
比較対象がないからだ、いわばパソコン黎明期に鬼畜難易度のクソゲーがあったとしても、それしかできない環境なら無理してでもやるしかないだろう。
「いや、気にしないでくれ」
創造神が決めたルールならその世界の住人はそれに従うだけだ。
魔物討伐に対する意欲が下がってくる、オーク狩りは金に困るまではやらなくていいか。
経験値は壊滅したものの、オークを納品したことで20万近い金を手に入れることもができた、手持ちと合わせれば90万円弱、こちらの単位では9千エルで生活をする分にはしばらく困らない。
「それより装備の方は不足しているものはないか?」
「十分だナ」
「うちも不足はありません」
キアの装備は盗賊から奪ったちょっと良い剣が2本、店売りの高い方の剣が攻撃力80でこの剣は攻撃力100だ。
これ以上の品質になると相当の業物か魔法のかかった武器になるため一般の冒険者には手が出ない。
鎧は付けていないが服の下は毛皮並みの強靭さがあり皮鎧程度なら防御力の足しにはならない。
動きも制限されるのでよっぽど性能の良い鎧じゃないとキアは装備しないだろう。
ニアも防御は十分で後衛ながら店売りの剣を持っている。
魔法使いなら杖なのだが魔法の補助や増幅をするような杖はこれまた魔法がかかった品にしかなくて目にすることもない。
何かの伝手があったとしても5000万円は超える金額を用意しなければならないだろう。
おれは店売りの革鎧と剣。十分だな。
あらゆる努力がただ寝て起きるだけの行為に負けていることにもやもやしたものを感じながら、おれたちは宿にチェックインして眠りについた。
夜の運動会の開催希望はされたのだが、連日は無理、連日で複数回とか無理、ということをわかってもらって添い寝だけで許してもらった。




