12日目の二股
2月分 1つ目
「移動するか」
転職に時間を使ってしまったが、まだ半日もたっていない。
街を移動するくらいの時間は残っている。
手早くフード付きの外套を買って目立たないようにしたおれたちは街の外に向かう。
盗賊たちから手に入れたフードと靴はキアが使った方がいいとは思ったが、絶対におれが使うべきだと2人に押し切られておれが身に着けている。
そこそこ良い剣はおれが『剣術』を外したこともあって2本ともキアが持っている。
今回は誰からも話しかけられることもなく街の外に出られた。
クラスメイトに合うことの気まずさもあるが、おれが襲われたことから考えてもどこかおかしくなった奴がまだ何人かいてもおかしくない。
この街と闘技場があるっていう街はしばらく避けた方がいいだろう。
転職に時間を使ったこともあり、今日の移動は街一つ分だけだ。
なんてことはない街で通り過ぎるだけのつもりだがだからといって何もないわけじゃなかった。
「フーッフーツ」
食事の時からキアの息が荒い。
熱でもあるのかと話しかけても首を振るだけでなぜ息が荒いのかもわからない。
ニアも気が付いているはずだが、気を使う様子もないので病気というわけでもなさそうだ。
食事が終わって部屋に戻るとキアは自分のベッドにもぐり込んでしまう。
やっぱり調子が悪かったのかな?
明日は休みにしてもいいかな。
そう思っていた。
おれもベッドに入って目をつぶる。
これからどうしたらいいのか、昨日のようなことが常態化するなら不健康な爛れた生活に溺れてしまうことにはならないか。
恐れもあるし期待もあるが、おれの方から求めるのはやめておこうと自分を戒める。
「リーダー、寝たのカ?」
枕元からキアの声がする。
「起きてるよ」
目を開けてキアを見る。
思ったより近くてびっくりした、目を潤ませ顔を赤らめたキアが膝立ちになっておれの顔を覗き込んでいたからだ。
「どうした?」
「ダって、ボクの番・・・」
もじもじして目をそらすキア、ネグリジェのような薄着の肩ひもがはらりと落ちる。
「無理しなくていいぞ、義務じゃないんだから」
ニアに何か吹き込まれたんだろうけど、おれはそういうんじゃないから。
「無理じゃないゾ、ボクはリーダーがす、きだと思う」
吹っ切れたのかおれと目を合わせおれの頬に両手をそえる。
柔らかく包み込んでいるが、もう目をそらすこともできない
「リーダーはいやカ? 嫌われていないのはわかっても、そういうことはしたくないカ?」
したくないと言えばうそになる。
子供っぽかったキアが急に色っぽくなって、顔はかわいいし体は引き締まっている。
「嫌じゃないよ」
だけど2晩連続で女の子をとっかえひっかえするというのは・・・
「やった」
嬉しそうな顔のキアが近づいてきておれの口をふさぐ。
抵抗は無駄だ、おれがおれ自身に抵抗できない。
「やってしまった」
男子高校生にこの手の誘惑を振り切れるわけもなく、布団の中でおれの腹に顔を当てて眠っているキアを感じながら目を覚ます。
「お楽しみでしたね」
起きていたニアにからかわれる。
ニアの方は押しが強かったから押し切られたけど、キアは本気で拒んだら引いてくれただろう。
「ニアが見てるから」という最後の言い訳を使えないようにあえて2人きりにしたニアの戦略勝ちと言えるのかもしれない?
「いいのかよ?」
「もちろんです、うちたちが望んだことですから」
異世界の貞操観念おそるべし。
そうはいっても命が軽い世界で貞操観念が重いわけがないんだよな。
変則的な一夫多妻だと思って誠実に責任を取っていくしかないか。
キアを起こして服を着る。
キアはステータスを確認することも忘れてニコニコしている。
「ステータス」
声に出してステータスを開くとキアがビクッとしておれの方をチラ見した。
『遊佐 蕗 魔法使い
レベル 64+3=67
HP 124+3=127
MP 252+9=261
攻撃 94+3=97
防御 94+3=97
知性 158+6=164
精神 158+6=164
敏捷 94+3=97
SP 175+3=178
EXP 31551+1889=33440
NEXT 33500
スキル(+)』
3レベル上がってステータスの伸びもいい感じに偏り始めた。
無職と比べた時HPの伸びが悪くなっているが、魔法関係はすべてが大幅増加だ。
『ニア 術師
レベル 78+2=80
HP 138+2=140
MP 294+6=300
攻撃 108+2=110
防御 108+2=110
知性 186+4=190
精神 186+4=190
敏捷 108+2=110
SP 3+2=5
EXP 38596+944=39540
NEXT 40000
スキル(+)』
ニアも順調だ、2レベル上がったからと言って騒ぐこともなく落ち着いた様子で何かに祈りを捧げている。
一度大量のレベルアップを経験することで耐性が付いたのだろう。
その時の動揺は激しかったが、よし、計画通りだな。
『キア 剣士
レベル 70+13=83
HP 270+39=309
MP 130+13=143
攻撃 170+26=196
防御 170+26=196
知性 100+13=113
精神 100+13=113
敏捷 100+13=113
SP 6+13=19
EXP 34788+6611=41399
NEXT 41500
スキル(+)』
キアはまだステータスを開かない。
顔の前で指を上げたり下げたりしてステータスを呼び出すことを迷っている様子だ。
おれとニアはそんなキアを急かすこともなく見守る。
意を決したように気合を入れた指の動きがステータスを呼び出したことをおれたちに伝える。
キアは一瞬固まり、パタッと横に倒れてベッドに顔を押し付ける。
目の動きからしてレベルは見ずにスキルポイントだけを確認したようだ。
13スキルポイントを入手しているのだから13レベル上がっているのはわかっているだろうが、その結果何レベルになったのかを確認するのが怖かったのだろう。
ニアがキアを着替えさせるのを横目に出発の準備を整える。
今日も移動だ、ニアたちの本来のレベルを考えるとレベル適性のある敵がいるような街はまだまだ遠くて10か所以上は街を超えることになる。
レベル適性があるからと言って倒せるとは限らず、きっちり訓練を受け連携の取れた10人前後のパーティーで行動することになるらしい。
それだけ強い敵じゃないとまともに経験値が得られずに成長を止めてしまう冒険者がほとんどだということだ。
「今日も移動だ」
「戦いたいゾ」
キアの気持ちはわかる、何もしてないのに経験値だけ得るのは何となくモヤッとする。 盗賊におそわれた時なんかはそれなりに苦戦したし、その日に増加した経験値は戦果以上に貰ったが、普段ただでもらうよりはすっきりした気持ちでもらえた。
あれ? 盗賊って経験値貰ったっけ?
「薬草は低レベル帯でしか経験値がもらえないのは知ってるけど、盗賊たちの経験値ってどうなってるの?」
「ホントにそうですよね、人族同士では経験値のやり取りはできないことになっていますが、盗賊相手なら苦労しただけの経験値は欲しいです」
「そうすればもっと盗賊も減るのにナ」
ニアが憤ってる、が人族同士で経験値を取り合うことはないというのは常識らしい。
一般人から経験値が得られたら盗賊や辻斬りが高レベルになってしまい手が付けられなくなる恐れがあるのでそのシステムは正しいのだろう。
たしかに盗賊や犯罪者から経験値がもらえないのはもどかしいものがあるが、その分賞金の支払いはきっちりされているから納得するしかないだろう。




