10日目の器用貧乏
1月分 3つ目
厳禁とは言ったが振り切れないスキルポイントが4残ってしまった。
能力値はどれも大切に思えて平均的に割り振ったが、万能型はそのせいで尖った性能が出せない。
器用貧乏と言われるわけだ。
能力値を割り振った時に体が軽くなった気がした。
それは数値だけではなく元々あったマイナス分が消えたのも大きかった。
こっちに来てからずっとペナルティを抱えていたってことだ。
属性の大弱点や、5感の弱体化に紛れて気が付かなかったところもある。
(よし、おれの準備はこれでいい)
キアのステータスを呼び出し本人に無断でスキルポイントを『マヒ耐性』につぎ込む。 他の人が爪に火を点すほどの思いで貯めてきた貯金を勝手に使う罪悪感。
あとで補填できるからとやってしまったが、おれだけ死んで補填が出来なかったら恨まれるだろうな。
『マヒ耐性』は9スキルポイント突っ込まれて2レベルに上がる。
点滅がはげしくなりマヒからの回復も秒読みかと思わせる。
『キア
ーーーーーー
SP 12-9=3
マヒ耐性 1+1=2』
正面の奴はおれが剣で切り伏せる、その前にニアを狙っているであろう伏兵をあぶり出したい。
キアの『マヒ耐性』の点滅が消える。
マヒから回復したことはキアも気づいたはずだ、荒い息遣いと身もだえが止んでいる。 キア一人で飛び出しても連携ができないからおれとニアの動きをうかがっているようだ。
キアの担当が後ろの奴、おれに狙いをつけているのが前の奴としてニアに狙いをつけている奴が必ずいるはずなんだ。
どうせばれたら動くしかないと『祝福』を発動。
大弱点による自然環境からの攻撃が止み体の自由を取り戻す。
どうやら魔法を発動しただけなら気付かれていないようだ。
「おい! 答えろ。言うことを聞くまで指を落としていってもいいんだぞ」
おれに従魔契約の譲渡をさせるため、いら立った声を出す後ろの奴。
「待ってくれ、二人ともおとなしくしてくれ」
「あぁ」
おれの返事に後ろの奴が威嚇するようなうなり声を上げる。
おれが二人と言ったのは指を落とされると聞いた時にニアとキアがぴくッと動いたからだ。
「譲渡の仕方がわからないんだ、全部店でやってもらったから」
「ああ、そんなの簡単だ。
その店で従魔たちに首輪を付けただろう。
お前の手で従属の首輪を外して、おれの手で着けなおせばいいだけだ」
やり方を知らないふりして時間を稼ぐ。
細かい連携は無理だとして、誰がどいつを狙うかは動く前に決めておきたい。
「ニアの首輪を外してあんたに渡せばいいのか」
「そうだ」
「金髪の奴はおれがもらうぞ」
「わかった、キアは後ろの奴だ。ニアは前の奴を頼む」
向こうから誰に殺されたいかを指名してきたのでおれたちの標的が決まった。
おれの標的は隠れてニアを狙っている奴だ。
『光の槍』
立ち上がっておれの頭上に『光の槍』を生み出す。
『灯り』より数段強い光がおれに注目していた盗賊たちの目を焼いた。
キアはバネが解放されるかのように後ろに飛びかかり、ニアは前の奴に『風蛇』で拘束を与える。
二人とも自分の標的を見据えていたために目はつぶれていない。
ニアが動いたことでニアがいる方向の森の中から気配が現れる。
おれも索敵を覚えたことで気配の位置もはっきりとわかる。
「行け!」
頭上に待機していた『光の槍』を森の中の気配に叩き込む。
200倍攻撃だ、多少強くても即死、最低でも目はつぶれるだろう。
後ろではキアが態度の悪いやつをぶちのめしている。
油断している相手に本気のキアだ1分も持たないだろう。
前の奴は『風蛇』に絡みつかれているが集中しておれに狙いを定めようとしている。
いや、おれじゃないニアに狙いを変えようとしているのか。
おれは踏み出して飛び出しかけた矢ごと弓を叩ききった。
勢いあまってリーダー格の奴の両手首まで切り落として腹まで深くえぐっている。
『剣術』のレベル、3でも足りていたか?
いやいや、万が一足りていなかったら後悔では済まなかった。
「キアはっ」
後ろを振り返りキアを確認しようとしたら後ろからどやしつけられて、背中と後頭部の髪が燃えた。
「わわわ」
消火のため転がって地面に背中と後頭部をこすりつける。
「もう一人か」
悪い予想が当たった、だが最悪の結果は回避できた。
火の大弱点が残っていたら死んでいたぞ。
後ろを制圧したキアとニアからは『風蛇』を受けておれに火魔法で攻撃した奴は沈黙する。
手加減できなかったので文字通り沈黙だ。
さらなる伏兵がいないか、逃げ出す奴がいないかを警戒。
どうやらこれで終わったと気が抜けてへたり込む。
その間にキアたちは後ろの奴や隠れていたやつを引きずってきて敵のリーダ格の近くに転がした。
「結局全員殺しちゃったな」
手加減なんかできる状況ではなかったとはいえ、剣術のレベル4の威力はすさまじかったな。
「うちたちに財産としての価値がある事を失念していました」
敵を並べ終わったニアはなぜかおれの前で正座する。
「索敵を怠ったボクの責任だゾ」
キアもその隣にちょこんと正座する。
「主人を危険にさらしたことはうちたちの責任です。
どうか、土下座のお許しをいただけないでしょうか」
斜め45度に頭を下げた姿勢で固まっているニアが土下座の許可を求めてくる。
土下座したい気持ちと命令の順守で頭がパニックになっているように見える。
(土下座好きだな)
「今回だけね」
やりたがっているものを制限するのは横暴かとも思ったが次の瞬間その言葉を後悔した。
ガンッ。勢いよく地面に頭を叩きつけたニアからすごい音がした。
勢いが余ったというよりは傷めつけることを意図してわざとやったようだ。
「わー、禁止禁止。今後一切禁止!」
隣でキアも地面に頭をぐりぐり押し付けている。
「よし、許した。許しました」
二人は微動だにしない。
「あの、許しましたので頭上げてくれませんか?」
大人の世界で土下座が脅迫とも言われるわけだ、これを人前でやられたらどんな要求でものまされてしまうだろう。
それにしてもこの先もこれが続くのか。
土下座を禁止しても、ニアが罪悪感を感じることがまた起こったら何らかの行為が必要になるだろう。
自傷行為はもってのほかだし、尊厳を踏みにじるようなこともしたくない。
「二人ともこれからは謝罪の代わりにおれにハグしろ」
のっそりと頭を上げて不可解な顔をする二人。
「そんな恐れ多い」
「ご褒美だゾ」
まあおれも何言ってんだろうって気はするが。
「試してみろよ、ほら。
あとニアは額を治療しろ」
二人の間に膝をついてふんわりとキアを抱きしめる。
「ふわっ、ご主人いい匂い」
まーたご主人に戻ってる。
「あれ? あるじ怒ってない」
「だろ?」
ハグはコミュニケーションの潤滑油だと聞いたことがある。
日本ではよっぽど親しくないとすることはないが、海外では口で攻撃しあって最後にはハグで和解するという乱暴なコミュニケーションが行われているという。
問題そのものの解決にはならなくてもお互いが怒ってない事、少なくても殺意がないことは確認できる。




