10日目の再会
12月分 4つ目
「あれ? 遊佐くん」
街の外に出ようとしたところで声をかけられる。
「え?」
振り返ると今となっては少し懐かしい日本人の顔、クラスメイトの君塚さんだった。
接点はあまりなかったが、顔くらいは覚えている。
「君塚さん」
「元気? 結婚したって聞いたけどその人がお嫁さん?」
「え?」
してないよ!
「なにを聞いたの? 2人はパーティーメンバーだよ、冒険者の」
突然何を言うのかとあわてて紹介する。
従魔と言ったらまた誤解が生じるだろうし、2人とも見た目は普通の人だ。
街中なので首輪は付けているが、こちらの世界に長くないクラスメイトには従魔だということはすぐにはわからないはずだ。
「そうなの? 『主人がお世話になっています』ってあいさつされたとか言ってたよ」
あ! ご主人様呼びが抜けてない頃だ。
段階的に『ご』と『様』を外していったが『主人』呼びはそう言われてみれば夫婦にも見える。
「一時的に。そう一時的に雇っていたから『ご主人』って呼ばれてたんだよ。
結婚とかそういうんじゃないけど・・・ そんな話になってるの?」
「みんな知ってるよ、一部の男子はどんどん先に進んじゃったからその時は聞いてないかもしれないけど、たぶんすぐに伝わるんじゃないかな」
なんでそうなるかな、悪い噂と誤解ばっかりが広がっている。
悪い噂は事実ではあるんだけど、誤解は解いておきたいな。
「結婚だなんて滅相もない。
うちのことは所有物と思っていただければ」
ニア! 誤解がひどくなるから!
「誤解を招くゾ」
キアだってわかってるじゃないか。
ニアの両肩をガシッとつかんで後ろを向かせる。
2人に弁明を補助してもらうのは危険な気がしてきた。
ニアはキアにあずけるように君塚さんから離して言い訳を考える。
「冗談だよ、ほら彼女異世界の人だから、異世界ジョークというやつなんじゃない?」
言い訳が上滑りする。
こっちの世界だと奴隷とか普通にいるから、逆に冗談にならないというか。
「そうなんだ?」
君塚さんがニアたちを見て首に手を当てる。
やばい、首輪に言及されたら言い訳どころか確定してしまう。
「おれそろそろ行くから。
君塚さんも頑張ってね」
ニアの肩を押して、その先にいるキアごと街の外に連れていく。
これだったら結婚の方がましだったんじゃないかというような悪いうわさが広がる気がする。
しかも誤解じゃなくて事実という。
街の外では街道沿いに薬草が生えていそうな草むらがある。
しかし黄色い薬草は見当たらないし普通の薬草もまばらだ。
以前に結構な量の薬草が取れた時があったが、あれはたまたま時期がよかったのだろうか。
薬草の採取は10レベルを超えると経験値が得られなくなる。
買取はしてもらえるのでお金にはなるが、高レベル帯になると薬草の採取は低レベル帯の冒険者に譲るべきという暗黙の了解があって買取の際にやんわりと注意されることがあるそうだ。
黄薬草になると生息地の魔物のレベルも高いため高レベル帯でも納品できるが。
「数が少ないらしいな」
受注はしてみたもののたまたま見つけたらラッキーくらいに思っていたほうがいいのだろう。
他の依頼と並行してやるものなのかもしれない、ギルドでは他の依頼の時期が悪かったためやむなく勧められたということなのだろう。
「そうですね、森の中に入ってみますか?」
「そうするか」
街道沿いを見ても無駄なんだが、森の中も薬草にあふれているわけではない。
でかい木に栄養を取られるせいか下生えは雑草やきのこくらいしかない。
「森の中に草地があると理想的なんだよな」
それも他の冒険者に見つかっていないとさらにいい。
「なかなかありませんね」
ここにきて急に金稼ぎが難しくなってきた。
強くなったというのにありがたみがないな。
「薬草とか匂いも弱いからナ」
匂いが強ければ生息場所も見つけるのにとキアが残念そうに言う。
「匂いあるのか?」
「弱いけどナ」
キアは犬系の獣人で他よりは嗅覚が鋭い、それでも他の人に比べれば程度で本物のけものほどではないということだ。
「ステータスに嗅覚強化とかあったけどスキルポイントを使うほどではないんだよな」
おれはペナルティー側の経験者だが、ペナルティーを2段階つけても日常生活に支障をきたすことはなかった。
スキルの説明欄では1段階で1%、2段階で10%。
増加も減少もスキルポイント当たりの増減が1%だから増加側に振っても大した効果は望めないだろう。
「もうちょっとなんだよナ」
そのもうちょっとがどのくらいなのか気になるが1%で急に変わることもないだろう、10%は可能性はあるがコストが高すぎる、キアは固有スキルの取得のために頑張っている所だし気軽にスキルポイントを使えるわけじゃない。
「おれだったら10ポイントくらいは使ってもいいんだけど・・・」
1日で10ポイント以上取得できるし、ペナルティーの解除という大目標も達成できそうだしな。
「リーダーが上げても意味ないゾ」
そうなんだよな、もうちょっとだって言っているキアが上げれば匂いを捉えられるかもしれないけど、その感覚に達していないおれがスキルレベルを上げてもキアに追いつくかどうか程度だろう。
ステータスを眺めて考える、もう一段回上がればなと。
その指が光魔法で止まった、光魔法の『祝福』は『感謝』のカスタマイズ版であり効果はどちらも自己バフ。
魔法は大まかな効果対象が違うだけで専門の魔法使いになればそれぞれが使いやすいようにカスタマイズされていくという。
「バフで嗅覚を上げられる?」
光魔法の『感謝』は運勢を上げられるという漠然としたもので、それを戦闘に特化させたものが『祝福』だ。
かなり性能がよくてもういじる所なんかないと思っていたが感覚的なものの上乗せ特化にカスタマイズすることができるかもしれない。
「ちょっと集中するから待ってて」
2人に断わって目を閉じてから『感謝』の魔法を思い浮かべる。
発動を待機させたまま魔法の仕組みを探るとパラメーターをいじれそうな文字列が見つかる。
『感謝』は運勢と持続時間が最大値に振られている状態だ。
変化のさせ方がよくわからないのでもう一つの2レベル光魔法の『祝福』を呼び出す。 するとパラメーターがグインと変化して攻撃力や属性の耐性が上がり持続時間がそこそこになる。
「わかるようなわからないような」
変化したことでここが攻撃力かな? 減ったのは持続時間なんだろうなということはわかるが、肝心の嗅覚がどの場所なのかがわからない。




