10日目の金欠
12月分 3つ目
朝食を終えたら魔法使いの街に行くことにする。
ちょっと出遅れたので急ぎ気味だ。
魔法使いの街までも間に一つ町があるので、本来なら二日がかりの道のりだけど、何もしない予定の街で半日時間を潰すのもバカらしくて強行軍にしてしまった。
魔法使いの街に着いたのは門が閉まるギリギリの夕方。
昼間に街に入るだけなら通行料も何もないのだが門が閉まってからでは門を開けてもらう手間賃を払わなければならない。
とっとと転職もしたいが神殿も閉まる時間だ。
転職は明日にして宿屋を確保して泊まることにした。
「やっと転職だな」
「リーダーはそのままでも強いゾ」
「ペナルティーを解消なさるんですよね?
お辛かったでしょうね」
属性の大弱点なんか特殊な環境にすんでいる魔物ぐらいしか持っていないものな。
魚に陸上で暮らせと言っているようなものだ。
とはいっても光魔法の『祝福』を覚えてからはそれほど辛いわけではない。
陸上でおぼれるようなことはなくなったが、弱点であることには変わりないので敵から魔法の攻撃を受けたら致命傷にもなるだろう。
やっぱり解消できるのは嬉しいな。
「リーダー嬉しそうダ」
キアにからかわれる、ニアもほほえましそうにやわらかい笑顔だ。
大弱点であることは実戦的なペナルティーよりも内面的なトラウマとして残っていたのかもな。
「まあな、寝るぞ」
照れくさくてベッドにもぐりこむ。
翌朝目覚めると予想通り隣のベッドの上で正座して待てをしているキアの姿がある。
「勝手に見てていいよ」
おれから与えられたもののようにレベルを確認するキア。
「おおォー」と感心し感動が薄れない様子だ。
「ニアは見ないのか?」
キアの後ろで正座してお腹の上で手を組んだままのニアに聞く。
「うちはもう少し慣れてからにします」
落ち着いた様子のニア。
見なければ動揺することはないということか
「いいのカ? まとめて何レベル分も見ることになるゾ」
キアの言葉に目を見開くニア。
「それは、その・・・
! お昼ごろに見ることにします」
まとめてみるのは精神衛生上悪いと気付いて、先送りにするのは1日未満にすることにしたようだ。
「おれもさらっとでいいか」
『遊佐 蕗
レベル 49+13=62
ーーーー
SP 351+13=364
EXP 24326+6359=30685』
薄目でちらっと見たが心臓に悪い数字が見えていた。
毎回上がる数値増えてないか?
いやっ、まあそうなんだけど。
複利というものは前回の利息分にも利息が乗っかるから10レベル上がっているということは10レベル分の利息が上乗せされているわけで・・・・
10レベル分の利息の利息は1レベル分はあるよなあ。
「あうっ、また2レベル上がっている」
好奇心に勝てずにステータスをのぞいてしまったニアがダメージを受けた様に胸を押さえている。
2レベル? 余裕じゃないですか?
おれの経験値を分けてやりたい。
・・・おれも慣れなくちゃな。
『キア 剣士
レベル 67+1=68
ーーーー
SP 11+1=12
EXP 33127+795=33922』
『ニア 術師
レベル 62+2=64
ーーーー
SP 37+2=39
EXP 30869+795=31664』
ステータスの上がり方は相変わらずで、おれは最低限、キアは物理系にプラス1、ニアは魔法系にプラス1だ。
「おれも魔法系が伸びるようになるんだな」
正直ステータスの伸びはスキルのようにドーンと強くなるわけでもないのでわかりにくいが、コツコツと育て続ければいつの間にか強くなっていたという楽しみ方もある。
スキルが掛け算なら、ステータスは足し算のようなもので掛け算のベースになる数値が大きくなれば結果も大きく変わっていく。
朝食を済ませて早速魔法使いに転職のため神殿へと赴く。
神殿では並んだ席の前が一段高くなっていて机があり演説のようなことができるようになっている。
その奥では神父やシスターのような出で立ちの職員が働いている役所やギルドのような場所だ。
奥まで行って受付のような場所で職務をしているシスターに転職をしたいと話しかけた。
「はい、魔法使いへの転職でしたら施設の使用料と事務手数料で1500エルになります」
金がいるのか。
おれの手持ちは装備を買ったことで空っぽだし、今まで宿屋やこまごまとしたものはニアに出してもらっていた。
青ざめた顔で後ろのニアに振りかえると、焦った顔で首を振っている。
そうだよな、野宿をしていた前は誰かの従魔だったんだしな、そんな相手に今まで生活費を払わせていたおれがおかしいんだよな。
1500エルとなると大体15万円くらいの価値か、冒険者として稼いだら数日はかかる。
でも十日はかからないだろう。
「すみません、お金を用意したらまた来ます」
シスターに断わって神殿を後にする。
「申し訳・・・」
「いや、いいんだ。
もちろん自分で払うべきだし、今まで生活費を払ってもらってたのがおかしいんだから」
神殿を出て、お金がなかったことを謝ろうとするニアをさえぎって謝ることはないと言う。
「冒険者らしいこともしてなかったし、ちょうどいい機会じゃないか、この街でお金を稼ぎながら冒険者ギルドのランクも上げていこう」
「そうだナ」
「何か売れるものがあればよかったんですけど」
袖や袂の中に何かないか探すように自分を見下ろすニア。
文字通り、ない袖は振れないってやつだ。
冒険者ギルドに向けて歩き出す。
「この辺もオーク討伐かな? あれ? オーク討伐って前に受注したままじゃなかったか?」
ゴブリンやオークの討伐はどこにでもいるので受注した街でなくても、どの街で報告してもいい。
なんだったら期限もないくらいだ。
「オークの討伐だと報酬はどのくらいになるかな? 1日300とか?」
肉体労働に危険手当がついて、あと戦闘能力がいるからもっとするか。
「そんな金額では誰もやりませんよ、討伐としては1体で300くらいですけど・・・」
ん? 合ってるんじゃないのか。
「肉が売れるからナ。1体持ち帰れば1000以上だロ」
「へー、そんなするんだ、持ち帰るの大変そうだけどな。
あ、『収納』があるのか」
オークの巨体は持ち帰るだけでも一仕事だが『収納』に放り込んでしまえば重さも感じずに持ち帰れる。
1000エルともなれば10万円前後になる。
2体も持ち帰れば転職の料金には足りるだろう。
オーク討伐の依頼は前回の分でいいとして、生息場所を聞くためにどの道冒険者ギルドには行くことになった。
「オークですか? 今はとても少ないですよ」
受付で尋ねると意外な答えが返ってきた、最初の街の当たりでは低レベルなゴブリンが多かったが街を移動するごとに敵が強くなっていって、この辺りではオークが主力だと思っていたからだ。
「魔法学校で大規模な狩りが行われたのでオークに限らず魔物全般が少なくなっていますね」
そんなことあるのか?
魔物って狩っても狩ってもいなくならない感じだけど一時的にはそんな事にもなるんだ。
「魔物がいないなら街を広げることになったりするのかな?」
「それには人手が足りませんね、魔物が減ったことで食料も足りなくなりますし」
おれの独り言に受付の職員が律儀に答えてくれる。
魔物が減りすぎても困るのか、狩猟から農業に切り替えるにしてもそれこそ広大な土地が必要になるし、魔物も消滅したわけじゃないから少ない人数では広大な土地を守り切れないのか。
「何かいい依頼ないですか?」
拠点としてじっくりこの街で依頼をこなすつもりだったが、拠点としてはこの街はあまりよくなさそうだ。
だからと言ってすぐにほかの街に移動したとしても、転職できるのはこの街だから転職できるだけのお金はここで稼いでおきたい。
「オーク討伐をしているレベルの方には嫌がられるんですけど、薬草など素材の採取がありますよ」
初期の冒険者が通る道の薬草採取か。
収入も低そうに見えるが、強い敵がいる場所では採れる素材も違ってくる。
オークが少ないと言ってもいないわけではないしそれ以外の魔物もいる、ある程度強くないと安全に採取することもできないということだ。
「それでいいか、どう?」
「そうですね」
「いいゾ」
薬草の採取では目標金額まで数日かかるだろうが、ほかの街に往復したら結局同じくらいの時間がかかるだろう。
「ありがとうございます、この辺りの採取依頼では薬効の上がった黄薬草になりますね」
通常の薬草も納品できるし、依頼を受注するのも納品時で構わないということだった。
「黄色い薬草なんて見てすぐわかるんだから採取なんて簡単そうだな。
『鑑定』もいらなそうだし、わざわざ依頼になってるのなんでだろうな。」
冒険者ギルドを出て街の外に向かう時、そんな疑問をニアたちに聞いてみた。
「簡単ですね、道端にぽつっと黄色い薬草が生えていれば見つけるのは簡単です」
「簡単だからみんな摘んで行っちゃうんだナ」
積極的に探さなくても見つかるから通りがかっただけの人が摘んでいってしまって、それを目的とする人には見つかりにくくなってしまっているのか。
「え? それ大変じゃない」
数が集まらなくて普通の薬草よりも稼ぎが悪くなりそうだ。
「人が通りかからない森の奥に入るしかありませんね」
「魔物も出るゾ」
そういうことか。
まあ、元々そのつもりだったし、少なくなったオークでも出てくれればそっちのほうがおいしい。
だとしても50レベル越えのパーティーがやる仕事ではないんだよな。




