9日目の遠慮
12月分 2つ目
「リーダー嬉しそうだナ」
「学園があることもあって魔法の研究は盛んなようですね。
うちたちにも何か得るものがあるかもしれません」
魔法の応用は術者しだいって言うし、優れた魔法使いを見れば何か参考になるかもしれない。
「少し滞在するかもしれないな、学園に通うことはないけど」
「いいと思います、街の名前はイリステラというようですね。
魔法使いの街とか学園都市と言った方が通りは良いようですが」
「そうカ」
魔法を持っていないキアは少し残念そうだ。
剣術を伸ばすことを決めているから魔法に割り振るスキルポイントの余裕などなさそうだ。
ただでさえ要求されるスキルポイントが2倍になるから、火魔法を1スキルレベルにして『着火』を覚えるだけでも2+2で4ポイントもかかる。
高レベルにもなれば1レベル上げるのにも血のにじむ努力が必要でスキルポイントの無駄使いなんてとてもできないだろう。
今なら少しくらいは使えるんじゃないかとも思うが、キアとしては一刻も早く自身の固有スキルである『2刀4爪1牙流』を覚えたいと言っていたしな。
「固有スキルは習得するのに何ポイントかかるんだ?」
現実的な数字であればいいのだけれど、今まで取れていないのだから簡単なわけでもないことが予想できる。
「うちは50ポイント。もう少しで届きます」
長かったーと胸に手を当て嘆息するニア。
「ボクは剣術を取っちゃったから、しばらく後だナ。
50ポイントだゾ」
キアもどちらを取るか迷ったという。
固有スキルの説明欄には攻撃力が7倍に増えるということだ。
破格の性能で剣術のスキルレベル2と組み合わせれば、素の攻撃力から70倍になる。
「剣術のスキルレベル3もぶっ壊れだからなー」
こっちは100倍だ桁が違う。
「壊れてないゾ」
「バランス的な意味でね」
ゲーム用語だったか、日本語が普通に通じるからいろいろ変な言葉使っちゃうな。
「バランスというのは他のスキルに比べてということですね」
まあでも、通じちゃうんだよな、ニアはやっぱり地頭がいいんだろうな。
街を2つも進んだので1日中ジョギングをしていたようなものだがそれほどの疲れはない。
レベルが上がって身体能力の向上が目に見えて現れているようだ。
「じゃおやすみ」
疲れてはいないがそれなりに眠気はある、特にレベルアップ前後は体を作り替えるために眠気が増すようだ。
おれの場合こっちに来てから毎日のようにレベルアップしてるから違いは判らないが。
「朝だゾ」
「ん、おはよう」
「おはようございます」
キアとニアは朝日が昇る前には起きていておれの目覚めを待っていたようだ。
床に正座してそわそわしている、何を待ってるのかと思ったらステータスの確認がしたいのか?
キアが自分の目の前に指を構えておれの挙動をうかがっている。
「ステータス」
声に出してステータスを呼び出す。
声を出さなくても開けるけど2人に対してわかりやすい方がいいだろう。
おれがステータスを開いたのを見てキアたちも自分のステータスを開く。
『キア 剣士
レベル 65+2=67
HP 255+6=261
MP 125+2=127
攻撃 160+4=164
防御 160+4=164
知性 95+2=97
精神 95+2=97
敏捷 95+2=97
SP 9+2=11
EXP 32398+729=33127
NEXT 33500
スキル(+)』
「アワワワ、2レベル上がるなんテ、ハジメテ」
キアの語尾の片言感が増している。
低レベルのころならまだしも、高レベルになってからの2レベルアップは格上のやばい奴との1対1に勝つとか、同レベル帯で味方の5倍とか10倍の相手と戦った時しか得られないだろう。
普通だったら99%死ぬだろう。
『遊佐 蕗
レベル 37+12=49
HP 81+24=105
MP 81+24=105
攻撃 39+12=51
防御 39+12=51
知性 39+12=51
精神 39+12=51
敏捷 39+12=51
SP 339+12=351
EXP 18492+5834=24326
NEXT 24500
スキル(+)』
(じゃあ、おれの12レベルは何なんだ?)
1レベルの時に50レベルのオークと戦うとか、同レベル帯で100人組手に勝ち切った時か?
あらためて『所有経験値増加』のスキルのすさまじさを実感する。
『ニア 術師
レベル 61+1=62
HP 121+1=122
MP 243+3=246
攻撃 91+1=92
防御 91+1=92
知性 152+2=154
精神 152+2=154
敏捷 91+1=92
SP 36+1=37
EXP 30140+729=30869
NEXT 31000
スキル(+)』
「キア、落ち着きなさい。
こんな時は神に感謝するといいですよ」
落ち着いているように見えるニアもキアの肩に置いた手がブルブル震えているし、目はぐるぐると回っている。
「やはり、これほどの物はいただけません。
うちが片手片足を差し出しても釣り合わないほどです」
ニアが物騒なことを言ってきた、いくら何でも片手片足をなくしたらどれだけレベルが上がっても釣り合わないだろう。
全く逆の価値観だ。
「そう思うならおれのステータス見せようか?」
おれはステータス画面が見せられるようにニアたちの間に座る。
「49レベル!? おとといは27とかでしたよね?」
その時見せたステータス画面でも10レベルくらいは上がっていたけど、低レベルが高レベルに付き添ってもらって一気にレベルを上げることもめずらしくないため、ニアたちにとっては受け入れられるものだったのだろうが、そこからペースを落とさずにレベルが上がり続けるのは理解が追い付かなくなっている様子だ。
「リーダーすぐに追いつくゾ」
キアも興奮しておれの腕にしがみつく。
いたいいたい、レベル差が縮まっていなかったら痣になっていたぞ。
「おれのレベルが上がっているのも2人のおかげなんだって。
あまり聞き分けのないことを言っていると均等に分けるぞ」
脅しになっていない脅し。
均等に分けるとそれぞれが毎日5レベルくらいは上がっていく。
追いついてからでも良かったけど、なんだかんだでスキルの比重が高いからレベルで多少負けていても足手まといになることはない。
当初の目的であったペナルティーの全解除も達成しそうだし。
「お許しください! これ以上は耐えられません」
ニアにとっては結構な脅しになったようで、ズザザザとあとじさって頭を下げかけたが、土下座禁止に気付いて体が固まっている。
土下座したくてしょうがないが、命令も絶対的なものなのでどうすることもできていないようだ。
「ニア受け入れようナ。
そうだ、祈るといいゾ」
キアがニアの肩を抱いてなぐさめる。
なんか申し訳ないことをしてしまった、ここはキアに任せて落ち着かせてもらおう。
席を外した方がいいかな?
先に朝食にでも行ってくるか。
「リーダー、現状維持で頼むゾ」
部屋を出る時にキアに念押しをされる。
勝手に均等割りにされてはニアがプレッシャーに押しつぶされると心配しているようだ。
「ああ、そうするよ」
部屋を出て、ためていた息を吐く。
経験値の扱いに困っているのはおれの方もおんなじだ。
使いもしない金が転がり込んできたようで、小市民のおれにはどうしていいのかわからない。
こうなることを予想していたおれでさえ戸惑っているのだから、従魔として扱われてきた二人にはそれ以上の重圧だろう。
だとするとしばらくの間は8対1対1でいいんだろうな。
重圧はリーダーのおれが引き受けなくてはな。
下の階の食堂で朝食をとっていると落ち着いた様子のニアがキアに連れられてやってきた。
「申し訳ありません、取り乱しました」
「いいんだ、おれも悪かった」
「リーダーが悪いゾ」
おれの意見に乗っかるなキア、本気で悪いとは思ってないからな。
「キア、やめなさい。
リーダー、キアがごめんなさい。うちのことを心配していただけなんです」
「わかってるよ、多過ぎる施しは精神的にも負担だもんな。
だからせめて今まで通りにしてくれると助かるよ」
「心得ます」
「うん」
口には出さなかったが助かるよ、と言ったことでおれにも負担があったことに気付いたようにハッとするニア。
キアも神妙だ。
そのうちおれがレベル差をつけ始めたら2割くらいは負担してもらおう。
「レベルが低いままだと足手まといになるぞ」とかひどいことを言うことになるかもしれないが。




