第4話「代償の夜」
勝手口の錠へ差し込まれた細い金具が、闇の中でかすかな音を立てた。
扉の内側では、戸棚の陰に身を伏せた実行部が、板戸の隙間から様子を見ていた。
錠が外れ、黒い頭巾と面布で目元だけを残した侵入者が、一人ずつ厨房へ入ってくる。
実行部の男は、四人が階段下の灯を通り過ぎるたび、手元の合図綱を一度引いた。
綱は使用人用の階段の手摺裏を通して二階まで延び、反対の端がギャレットの左手へ巻かれている。
四度目の引きが止まると、ギャレットは執務室の扉を二度叩いた。
「四人入った」
室内で将軍が覆い付きの角灯を取り、庭に面した窓へ寄った。
「外へ合図を送る」
角灯の覆いが三度開閉し、塀から離れた通りで待機していた司法軍が動き出す。
兵士たちは二手に分かれ、一隊が勝手口へ、もう一隊が庭を囲む塀へ回った。
二階へ上がった四人は、廊下の分かれ目で足を止めた。
右手には寝室があり、正面の執務室からは扉の隙間を通して灯りが漏れている。
先頭の侵入者が左右へ指を振ると、四人は二人ずつに分かれた。
執務室側の二人は、扉の三歩手前に立つギャレットへ歩調を緩めず近づいた。
侵入者が短剣を投げる。
ギャレットが壁際へ身をかわした脇を、後ろの侵入者が執務室へ駆け抜けた。
「一人行ったぞ!」
短剣を投げた侵入者は腰の曲刀を抜き、ギャレットの追跡を遮った。
曲刀と短剣が触れ、乾いた音が廊下へ響く。
執務室へと抜けた侵入者は扉の錠前近くへ肩をぶつけ、木枠を軋ませた。
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寝室へ向かった二人が扉を開け、空の寝台を挟んで左右へ散る。
寝室では、戸口の陰に待機していた実行部の二人が侵入者の退路を塞いだ。
窓際の侵入者が腰から素焼きの筒を抜き、穴の開いた栓を外して床へ転がす。
筒の中で燻っていた麻屑から白煙が広がり、寝台の向こう側を覆った。
もう一人が煙を横切り、戸口を塞ぐ実行部へ短剣を振り下ろす。
実行部は短槍の柄で刃を受け、押し合ったまま穂先を侵入者の胸元へ突き込んだ。
侵入者は寝台の脇へ倒れ、手から離れた短剣が床を滑った。
もう一人の実行部が窓へ回ったときには、煙の向こうで鎧戸が開いていた。
侵入者は窓枠を越え、二階から庭の植え込みへ飛び降りる。
着地した足が崩れたところへ、外周から入った司法軍の兵士三人が追いついた。
侵入者は立ち上がる前に盾で地面へ押さえつけられ、両手を後ろで縛られた。
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執務室前では、ギャレットの短剣が曲刀をはね上げ、暗殺者の手から床へ落とした。
執務室の留め金が外れる音に、ギャレットは侵入者の曲刀を蹴り飛ばし背を向けて扉へ駆ける。
侵入者は曲刀を拾わず、反対方向の使用人用階段へ逃れた。
扉が内側へ弾け、抜き身の両刃剣を持つ侵入者が室内へ踏み込む。
机の向こうにルシアンが立ち、壁際には最高司法審判官と司法書記官、窓辺には剣を抜いた将軍がいた。
「時刻を記せ」
最高司法審判官は動かず、司法書記官が膝上の木板へ刻み始めた。
侵入者は机を回り込み、剣先をルシアンへ向ける。
追いついたギャレットが背後から侵入者の右腕をつかみ、剣の向きを机の外へそらした。
侵入者の左手が腰へ下がり、逆手に抜いた短刀がギャレットの脇腹へ食い込んだ。
ギャレットは右腕を離さず、短刀を握る左手首を机へ押しつけた。
将軍が侵入者の左腕をねじ上げ、短刀を石床へ落とす。
「縛れ!」
執務室へ到着した司法軍の兵士二人が侵入者を床へ伏せさせ、両手と両足へ縄を掛けた。
その後ろから、証拠保全を担当する司法官二人が執務室へ入る。
拘束された侵入者の右袖から、細い革紐の端がのぞいていた。
隣室の扉が開き、セレナが救護担当を二人連れて入ってきた。
セレナは床に落ちた武器を指し、二人へ命じる。
「ギャレットを奥へ運んでください。侵入者と武器には触れないで」
救護担当がギャレットの脇腹へ畳んだ布を押し当てる。
ギャレットは差し出された肩を借りず、床へ伏せられた侵入者の右袖を指した。
「中に何かある」
司法官の一人が、侵入者へ近づこうとした実行部を手で止めた。
司法官は将軍と兵士一人を立ち会わせ、袖の裏へ縫い込まれていた割符の半片と、無印の金貨が入った小袋を取り出す。
割符と小袋は別々の布で包まれ、革紐と司法庁の封蝋で閉じられた。
別の司法官が、外れた留め金、抜き身の両刃剣、石床の短刀、廊下に落ちた曲刀と短剣のそばへ木札を置いていく。
寝室を守っていた実行部の一人が、暗殺者一人の死亡を報告した。
続いて庭から戻った兵士が、窓から飛び降りた一人を捕縛し、別の一人が裏塀を越えたと伝える。
「残る一人は、包囲が閉じる前に裏塀を越えました」
将軍は報告を受け、勝手口と裏塀へ司法官を一人ずつ向かわせた。
兵士に押さえられた侵入者が顔を上げる。
「依頼主は誰だ」
司法官の問いに、侵入者は面布の下から答えた。
「顔も名前も知らない」
司法官は質問を重ねず、答えと時刻だけを司法書記官へ記録させた。
ギャレットの両膝が石床へ落ちた。
救護担当が肩を支えたときには、脇腹へ押し当てた布の下から血が広がっていた。
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