↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪徳子爵は裁かれない  作者: 空っぽの零時
第5章:潔癖な共犯者
PR
63/77

第12話「潔癖な共犯者」

 司法庁の小会議室には、三人分の椅子だけが用意されていた。

長机の中央に置かれた茶葉缶の封蝋は切られていない。

窓辺の秤は、二つの皿を同じ高さに保っている。


 最高司法審判官の正面にルシアン、その横に独立司法軍の将軍が座った。


 審判官は補給事件の判決文を閉じ、未使用の羊皮紙を開いた。


「補給大臣は職を失った。だが、補給省も倉庫も残る」


「人を一人交換しても、同じ仕組みなら同じ不正が起きます」


 ルシアンは持参した三枚の羊皮紙を長机へ並べ、審判官と将軍の前へ押し出した。


「変えるべきは後任人事ではありません。受領確認、契約の照合、業者の選定です」


 将軍は一枚目の羊皮紙を開いた。


「受領確認を二重にする、とあるな」


「補給省は納品数を記録し、受け取った部隊は実数を別に記録する。国庫は二つが一致してから代金を支払います」


「前線では、荷が届くたびに将校を帳簿仕事へ回せん」


 将軍は羊皮紙の「全品目」と書かれた箇所へ爪を立てた。


「保存食、軍靴、武器、防具、修繕材に絞れ。その他は、毎月いくつかを選んで確認すれば十分だ」


「緊急時の搬入は、照合を待たずに認める必要があります」


 ルシアンが言うと、最高司法審判官は羊皮紙の余白へ短い線を引いた。


「搬入は止めない。ただし、定められた期日までに二つの記録が揃わなければ、次の支払いを止める」


「それなら現場は回る」


 将軍は「全品目」に線を引き、五つの対象品を書き込んだ。


 二枚目には、国庫、補給省、受領部隊の三箇所で、契約数、納品数、受領数を照合できる手順が記されていた。


 三枚目には、一社だけと契約せず、複数の業者から価格と納期を提示させる方法が書かれている。


「安い業者が、必ず良い物を納めるわけではない」


 将軍は自分の軍靴を持ち上げ、擦り減った靴底をルシアンへ向けた。


「安値でも、一月で底が抜ければ高くつく。価格だけで選ぶな」


「入札時に、価格、納期、品質の検査結果を並べます。契約と異なる物が届いた場合は、受領部隊が受け取りを拒否できるようにしましょう」


「拒否理由は、国庫と司法庁にも残せ。補給省と業者だけで書き換えさせるな」


 ルシアンは三枚目の余白に、受領拒否の記録先を書き加えた。


「契約の閲覧は、司法庁にも認めるのか」


 審判官の問いに、ルシアンは羊皮紙の閲覧者欄を指した。


「国庫、補給省、受領部隊、司法庁。四者が同じ契約番号を照合できるようにします」


「…オーリ家は」


「制度を利用する一貴族家にすぎません。特別な閲覧権限は求めません」


 最高司法審判官は三枚の羊皮紙を重ねたが、印章は手に取らなかった。


「補給制度の協議と、事件情報の取り扱いは別だ」


 審判官は新しい羊皮紙の上段に、「事件情報の受理条件」と記した。


「君から届いた情報を、捜査命令としては扱わない。案件ごとに、公式記録や証言から独立した捜査根拠が成立するかを審査する」


「異議はありません」


「違法に取得した物は持ち込むな。情報源を秘匿する場合も、証拠基準は下げない」


「情報は調べるきっかけ、証拠は裁く根拠として分ける。それでよろしいのでしょう」


「口頭で直接持ち込むことも認めない。情報は正式窓口で受理し、日付と受理者を記録する」


「私が審判官室で囁いただけで、司法は動かないと」


「動かさない」


「それだけではない」


 将軍が低い声で割って入り、机上の羊皮紙をルシアンの方へ押し返した。


「お前の部下であろうと、私の兵であろうと、人を使い潰す策には協力しない。兵を犯罪の餌にするな。守れなければ、その時点で手を切る」


「独立司法軍の指揮権は、あなたにあります」


「提案の出し方でも、人は死ぬ。忘れるな」


 ルシアンは、将軍が押し返した羊皮紙を自分の前へ戻した。


「承知しました」


 最高司法審判官は受理条件の末尾に、「免責なし」と書き加えた。


「君が犯した罪の証拠を得た場合、改革の途中でも逮捕する。家臣も同様だ」


 ルシアンは「免責なし」の文字を読み、審判官へ顔を上げた。


「それでこそ、あなたと組む価値がある」


「これは同盟ではない。君の派閥へ加わる協定でもない」


 審判官が新しい羊皮紙へ書き入れた表題は、「制度改正案および事件情報に関する協議手順」だった。


 提案と情報は、司法庁の正式窓口で受理する。案件ごとに審査し、審判官と将軍はそれぞれの権限で拒否できる。相互の命令権と忠誠義務は生じない。免責も認めない。


 三人が署名した後、最高司法審判官が司法庁の印を押した。


 握手は交わされなかった。


 ルシアンが羊皮紙の写しを持って退室すると、将軍は扉が閉まるまで廊下へ顔を向けていた。


「あの男は役に立つ」


 長机の中央で、茶葉缶の封蝋は切られないままだった。


「役に立つ。だから危険だ」


 将軍が退室した後、審判官は案件管理簿を開いた。


 「補給事件」の欄には終結の日付がある。その下にある「オーリ子爵領鉱山監査」の欄には、「未解決」と記されたままだった。


 審判官はその文字を消さなかった。新たに作られた「制度改正協議」の欄へ受理番号を記し、「開始」の文字の上に司法庁の印を押した。



ここまでお読み頂きありがとうございます!


「面白い」「次話も読みたい」と思って頂きましたら、


・画面下部の「☆設定」(ポイント)

・画面下部の「リアクション」

・ブックマークへの追加


ぜひ!どうか!なにとぞ!ご支援よろしくお願いいたしますm(_ _m)

※毎日朝6時20分に更新です

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。