急転
若いアナウンサーがテレビ局の屋上から空を指差して懸命に話しをしていた。
『現在月が見えない状態になっています』
『もちろん雲ではありません。快晴です』
『しかし太陽と月の間に地球が入っている訳ではありません…つまり月食でもなく月が消えたと言った方が良いかもしれません!』
優はテレビを見て
「月が消えちゃったんだって」
凄いねー
と告げた。
リリアは麻婆豆腐を魔法の火で炒めながら
「さようでございますね」
と告げた。
優は取り皿と箸とおくと
「早く、兄帰ってこないかなぁ」
真っ暗で危ないよなぁ
と呟いた。
秀美も同じように考えながら家路を急いでいた。
何時もよりも闇は深く見上げた空に月の輝きはなかった。
「また、月食か」
秀美はそう呟き、リリアがやってきた日のことを思い出していた。
考えれば、リリアがやってきたときも月食であった。
秀美はふっと
「そう言えば」
と言いかけて、足を止めた。
通りを照らす街灯。
その直ぐ側の闇に人の気配を感じたのである。
しかも、それは『ただの通行人』ではない気配である。
秀美は目を凝らしてその気配を見つめた。
「誰だ?」と言いそうになる思いを堪え、相手が一歩踏み出すのに合わせて避けるように斜めへと足を進めた。
距離を保ちながらゆっくりと前へ進み、すれ違ったと感じた時に小さく安堵の息を吐き出した。
その瞬間であった。
真後ろから声が響いた。
「なるほど…そう言うことでしたか」
…わが師、リリア・ノルド・マギは愚かな人なのに何処まで行ってもノルド・マギという事でしたか…
秀美は距離を保っていたはずなのに真後ろに立たれていたことに驚き
「おい!」
と振り向きかけて目を見開いた。
煌めく刃先が走ったのである。
秀美は咄嗟に避けると後ろに距離を取り
「お前、誰だ?」
と街灯の光の中に現れた人物を睨んだ。
長い剣を手にサラリとしたブラウンの髪が夜の闇を走る風に揺れていた。
「申し遅れました」
俺の名前はランスロット・フォン・ウインダリア
「いや、ランスロット・ノルド・マギ」
豪華な甲冑のようなものを纏ったその姿はまるで中世騎士のようであった。
秀美はそれを見て
「おいおい…なんだ?」
コスプレイヤーかよ
と思わず現実逃避しそうにハハハと心の中で笑った。
最後までお読みいただきありがとうございます。
続編があると思います。
ゆっくりお待ちいただけると嬉しいです。




