第9話 解体業者を追い出せ!前編
珍しく平和な日だった。扉が開くまでは。
その日はちび助とマッチョ君と軽い雑談をしながら過ごしていた。生前どんなことが好きだったとか、好きな人は居たのかとか、そんな他愛のない話だ。
いきなり店の扉がガラガラと音を立てて開く。俺が出入りするとき以外、扉が開くことは無い。異常事態だ。
開いた扉から作業員らしき人とスーツを着た人がぞろぞろと入ってくる。
「てんちょー!人間です!」
「店長さん、投げ飛ばしますか!」
投げ飛ばすも何も、あなたこの世のものに触れないでしょう…。二人が慌てているが、あわてている人を見るとかえって冷静になる。
「いったん落ち着け!何をしているのか観察するぞ」
「はい!」
「うっす!」
俺たちは作業員たちを観察し始めた。作業員たちは店の中をいろいろ見て回っているようだ。
「ここが幽霊居酒屋ねぇ、思ったより綺麗ですね」
「ああ、でもでも結構な頻度で出るらしいぞ」
「ひえーっ、怖いっすね。解体っていつでしたっけ?」
「今日と明日現場見て、来月の三日からだ」
「そっすか、呪われたらいやっすね」
作業員たちは軽い雑談をしながら見て回っている。
「てんちょー…このお店解体されるんですか…」
「みたいだな」
現状この店は店主が亡くなって空き家状態だ。この店は俺の持ち家だったので息子が引き継いだのだろうか?
「店長さん、俺この店無くなるのいやっす」
「私もいやです。何とかしてください」
「そういわれてもなぁ…」
無力。そう言わざるほかない。俺も最近は居心地がいいなと思っているし、なんだかんだ幽霊の悩みを聞きつつ楽しく過ごしている。無くしたくはない。だが、幽霊である自分には何もできない。
「もしこの店が無くなったらお前たちはどこに行くんだ?」
「私は行く場所は無いので適当にその辺ぶらぶらします」
「俺はジム巡りっすね。またジムが潰れるかもしれないっすけど」
「なるほど…」
ん?ジムが潰れる…たしか前マッチョ君はジムに住み着いて、ポルターガイストで筋トレしてジムをジムをつぶしてたな…いけるかもしれない…!
「お前ら、人間どもを追い出せるかもしれないぞ」
「ほんとですか!」
「マッチョ君」
「はいっす」
「お前前居たジムどうなった?」
「潰れたっす」
「そうだろ。お前が筋トレすることによって人が気味悪がって来なくなった。そうだな?」
「あっ」
「てんちょー!それいけますよ!」
「ではさっそく!」
「待てマッチョ君。無暗にやってもダメだ。あいつら明日もくるって言ってたな。それまで作戦を立てるぞ」
「うっす!」
俺たちは作業員が帰るまでの間に少し作戦を話し合った。作業員たちは二時間くらい何かを見ていたので作戦会議する時間は十分にあった。
「とりあえず今日は軽めの攻撃で済ませるけど本番は明日な」
「了解っす」
「おーい、そろそろひきあげるぞー」
親方らしき人が全員に声をかける。
「よしマッチョ君作戦開始だ!」
「うっす」
まず俺は物に触れることが出来るので、扉を全力で閉める。
「開かないのぉ」
親方らしき人は扉を開こうとするが全く動かない。
「マッチョ君今だ!」
「うっす!」
ポルターガイストで椅子と机を浮かせ、空中で回転させる。
「ひいぃ、親方!やばいっす」
「おいおい…」
作業員に向かって椅子と机を飛ばす。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ」
ぶつかる直前で椅子と机が止まる。俺は閉じていたドアを勢いよく開ける。ドアにもたれかかっていた作業員たちは急にドアが開いたので外に投げ出される。全員しりもちをついてしまった。
若い作業員たちは走って逃げ出してしまったが、親方だけが残り、外から店の中を黙って見つめている。
「今日はこのくらいにしといてやるっす」
俺は勢いよく扉を閉めた。
「さて、お疲れ様!いい感じにビビってくれたね」
「そうっすね!ポルターガイスト筋が役に立ってよかったっす」
そんな筋肉は無い。
「私も何かお手伝いできればよかったのですが…」
「仕方ないよ、ここは俺とマッチョ君で何とかするから」
「そうだぞ新入り!筋トレを怠っているからいけないんだ!もっと筋肉を鍛えろ!」
「はいっ!」
たぶん筋肉関係ないのは置いといて、本番は明日だ。
「明日が本番だけどいけるか?」
「いけるっす」
「ここに大量の幽霊が居るってなったら不気味だし、取り壊そうという気が起きないくらいに暴れるぞ!」
「はい!」
「だが、作業員にけがをさせてはいけないぞ。あの人たちも依頼されてきてるわけだからな」
「うっす」
そう。作業員たちも依頼されて来ているのだ。邪魔をし続ければ、きっと依頼人自ら来てくれるかもしれない。そうすれば息子に会えるかもしれない、俺の未練もきっと。
「じゃあ私は協力してくれそうな幽霊を明日までに探してきます!」
「ちび助!頼んだ!」
ちび助はドアをすり抜けていった。
「俺は明日に備えて筋肉を鍛えます」
「筋肉痛になったら意味ないぞー」
「超回復っ!」
訳が分からないが、たまには頼りになりそうなマッチョ君だ。
明日に備えて俺は寝ることにした。




