第8話 着ぐるみの幽霊の悩みを聞け!
クマの着ぐるみが店の椅子に座っている。最近は意味不明な出来事にも慣れた。多少の事では驚かなくなったが、やはり気になるので聞いてみる。
「ちび助、この着ぐるみの人はなんだ?」
「先ほどお店に来た着ぐるみです!困ってるぽいです!」
「はぁ…」
戸惑っていると着ぐるみの幽霊(?)が立ち上がる。
「すみません、私ここなら悩みを聞いてもらえると聞いてきたんですけど、聞いていただけますでしょうか…」
どうやら腰の低い幽霊のようだ。幽霊と言えば、勝手に店に居座ったり、勝手に働いたり、勝手に店の備品で筋トレするような幽霊ばかりなので話が通じそうで良かった。
「まぁ、話だけなら聞くよ」
「ありがとうございます」
「それで悩みってなんだ?」
「私、クマの着ぐるみに見えますよね?」
「クマの着ぐるみに見えるな」
見たままを答える。どこかのテーマパークのキャラクターに見えるが、そういうのに俺は疎いので詳しくは分からない。
「私、あるデパートの屋上にある、小さな遊園地みたいなところで着ぐるみを着て働いていたんですけど、熱中症で死んでしまったんですよ。そしたら着ぐるみのまま幽霊になってしまって困ってるんです」
なるほど、死んだときのまま幽霊になってしまったのか。
「具体的に何に困っているんですか?」
一瞬の沈黙の後、着ぐるみは口を開く。着ぐるみなので口は見えないが。
「今思えば、困ることってなかったです…」
こいつは何をしに来たんだ。
「えっと、僕らはどうしたらいいかな?」
「話を聞いてもらっただけでなんか気持ちが楽になったので、何もしなくて大丈夫です。ありがとうございました」
そう言って着ぐるみは立ち上がり、こちらに向かって礼をして帰っていった。
「てんちょー、あの人何しに来たんですかね?」
「分からん…」
「着ぐるみのまま幽霊になってもあんまり困ることってないですよね」
「まぁ、死んで目覚めたら着ぐるみの姿でパニックになったんだろう。俺も幼少期、布団のシーツカバーに入って、チャックを閉めたら出れなくなってパニックになって叫びまくったことがある。」
若き日の黒歴史だ。
「それはとてもダサいですね。結局どうやって出たんですか?」
「母親にチャックを開けてもらって出た。まぁこんな話はいいんだ。人間パニックになったら予想できない行動をすることがあるってことだ。困った困ったって思ったけど、一度立ち止まって考えてみると、そんなたいしたことじゃなかったなって思いなおすこともあるんだ。」
「周りの幽霊を見てパニックになってしまったんですかね?」
「どうだろうな、俺にはわからんまた来たら詳しく話を聞こうか」
「そうですね。ところでてんちょー、話は変わるんですけど、てんちょーって家族は居るんですか?」
「・・・」
「あれっ、これ聞いちゃ駄目なヤツかな…」
「いや、そういえば話していなかったっけか」
家族、あまり家族仲は良好ではなかったが、俺は息子を愛していた。息子が16歳の時、妻は病気で死んだ。妻が病気で入院した時から息子と二人で暮らしたが、料理はすきだったから良くやっていたが、そのほかの家事は妻に頼りきりだったために、息子との二人生活はあまりうまくいってはいなかった。息子も気を使ってくれてはいたが、男二人喧嘩もした。
その日も些細なことだった。仕事から帰って来て、散らかってる家を見て俺は何でこんなに汚れているんだと息子を責めてしまった。息子は息子で勉強が忙しかったり、就職の時期だったため、いろいろ忙しかっただろう。そして口論になった。俺は弾みで「出ていけ」と言ってしまった。息子は一瞬固まった後、売り言葉に買い言葉だ。「こんな家就職したら出て行ってやるよクソ親父」
それから一度も会話することなく、息子は出て行った。二度と帰ってくることも無かった。
「ダメパパですね」
ちび助の言葉にドキッとする。
「うん…そう…だな…」
「これは息子さんに謝りに行かないといけないですね」
その通りである。出ていく前に謝ろうとは思っていたが言えなかった。言えないうちに俺自身も死んでしまった。きっと俺の未練はこれなんだろうと思う。
「息子の居場所もわからん。会いに行って謝りたいとは思っている」
そんな話をしていると、着ぐるみの幽霊が戻ってきた。
「店主さんすみません、何度も」
「いえ、構いませんよ」
「悩みを思い出したので戻ってきました」
「伺いましょう」
「この着ぐるみを脱がせてください」
「ふむ、自分では脱げないと」
「はい、何度か試したんですけど自分だけではダメみたいです」
着ぐるみを脱がす前に、自分が着ている服が脱げるか試してみる。自分のサロンのひもに手をかけほどく。するするっとサロンは外れて床に落ちる。どうやら幽霊でも服は脱げるらしい。
着ぐるみに近づき、頭に掴む。しっかりと着ぐるみのフワフワとした感触がある。
「では引っ張りますよ」
「はい、お願いします」
1、2の3で頭を引っぱる。
びくともしない。力いっぱい引っ張っても全く動かない。
「脱げないですね。着ぐるみって頭外れますよね?」
「はい、この着ぐるみは頭は外れるようになってます」
15分ほどいろいろ試したが全く脱げなかったので、俺たちは諦めた。
「無理ですね、何をしても外れません」
「だめですか…」
もしかすると幽霊は、死んだときの姿のままで彷徨うのかもしれない。
「ちび助は服着替えられるか?」
「着替えられますよ」
へー、着替えられるのか。なぜ着ぐるみの幽霊は着替えられないのだろう。
「じゃあちょっと着替えてきて」
「分かりました。リクエストはありますか?」
リクエスト?そんな簡単に服って用意できるのだろうか。その辺に幽霊専門の服屋さんでも存在するのだろうか。とりあえず学校の制服をリクエストした。
「オッケーです!じゃあ着替えますね!」
そういうとちび助は一瞬でセーラー服に変身した。
「!?」
「どうですか?似合いますか?」
「うん、似合ってる…じゃなくて、どうやったの」
「服をイメージして念じたら着替えられますよ」
へっ、そんな簡単に?俺もできるか気になったのでスーツをイメージして念じてみる。次の瞬間、俺はスーツ姿になっていた。
「スーツ似合いますね」
「ありがとう…そうじゃなくて、着ぐるみももしかしたらこれで着替えられるんじゃないか?」
「そうですね、試してみます」
5秒、10秒、30秒待てども着ぐるみ姿から変わらない。
「ダメみたいです…」
どうやら着替えられない幽霊もいるようだ。
「着ぐるみで生きていきます…」
幽霊なので生きてはいないが。
着ぐるみの幽霊はしょんぼりしながら帰っていった。幽霊お悩み相談室始めて以来、初めてお悩み解決できなかった事件である。
「解決できませんでしたね」
「そうだな。でもうちはあくまで話を聞くだけだから…」
「でも、あの人の未練って何なんでしょうね?」
「悩みは分かったけど、未練はいまいちわからなかったな」
次来ることがあれば未練を聞いてあげることにしよう。
もうすぐ夜が明ける。明日もおかしな幽霊が来るのだろうと思いながら俺はのれんを外して店じまいした。




