第10話 解体業者を追い出せ!後編
朝が来る。もうすぐ作業員たちがやってくるだろう。となりではずっとマッチョ君が筋トレをしている。
「もうそろそろ筋トレはいいんじゃないか?」
「まだっす、追い込めるときに追い込んでおきます」
「そうか」
間違いなく今は追い込む時ではない。
すーっとちび助がドアをすり抜けてくる。
「てんちょー!お待たせしましたっ!」
ちび助の両隣に2体の幽霊が立っている。
「あの、店の危機って聞いて来ました。私でよければ力になります」
一度見たら忘れない、クマの着ぐるみの幽霊だ。
「あっ!着ぐるみの幽霊さん!」
「この前は急に帰っちゃってすみません」
「いえいえ、あれから何か変化はありましたか?」
「あるにはあるんですが、着ぐるみに関しては前と変わらず…」
「そうですか…」
まだ着ぐるみは脱げないみたいだ。
「記憶喪失の幽霊さん久しぶりだな」
「そうですね、最近はあんまりここに来れてませんでした」
もう1体は記憶喪失の幽霊だ。自分が何者なのか分からず、いつの間にかこの店に住み着いていた。最近はあまり来ていなかったが。
「最近はどこに居たんだ?」
「いろんなところに散歩してました。自分が何者なのか探しに」
「そうか。まぁ戻ってきて嬉しいよ」
「お力になれるか分かりませんが頑張ります」
記憶喪失の幽霊は初めて見たときは暗いやつだったが、今では少し眩しいくらいに明るくなっている。
俺は改めて作戦の内容を話す。
「これなら私にもできそうです」
着ぐるみの幽霊は予想外の戦力だが、この作戦であればどんな幽霊が増えても戦えるはずだ。
俺たちは作業員が来るのを静かに待った。
外から声が聞こえる。
「俺嫌っすよ親方、もうやめましょうよ」
「何言ってるんだお前。仕事なんだ辞められるわけないだろう」
「いや、親方も見たっすよね?椅子が浮いて飛んできたのを!!」
「あれは夢だ。そう思うことにしろ。今日は調査だけなんだからさっさと調査して帰るぞ」
「はい…」
「じゃあ開けるぞ」
親方が扉に手をかけるが扉は全く動かない。
「クソッ!開かねぇ」
それもそのはず、俺が全力で押さえているからだ。これで帰ってくれるといいんだけどなぁ。
「おい、扉壊せ」
おっと、それはいけねぇ。扉を壊されては困るので、俺はすぐに扉を開ける。
「チッ、開いたか」
「親方やっぱおかしいですって、この店」
ビビりながら数人の作業員たちが入ってくる。
「よしちび助!作戦開始だ!」
ちび助は作業員達に近づいていく。作業員からちび助の姿は見えない。
「いらっしゃいませー!何名様ですか?」
元気よくちび助が接客する。
「ひっ!」
驚く作業員達。何も見えないのに声が聞こえる。これだけでも怖い。すかさずマッチョ君が人数分の椅子を動かし、作業員たちの前に並べる。
「こちらのお席にどうぞ!」
もうこの時点で何人かは腰を抜かしている。
「親方、俺もう帰ってもいいですか…」
「俺ももう無理です…」
次々に音を上げる作業員達、作戦は今のところ順調だ。
「ならん。」
「でも…」
俺はここで勢いよく扉を閉める。バンと大きな音が鳴る。
「ひっ」
涙目になっている奴もいるがまだまだこれからだ。
おしぼりが宙に浮いて机に人数分並べられていく。異様な光景だが作業員たちの視線ははおしぼりよりその奥の席に座っている幽霊二人に吸い寄せられる。記憶喪失の幽霊と着ぐるみの幽霊がただ座っている。
「で、出た…」
ここで一人の作業員が失神した。俺も生きている時にこんな現場に立ち会ったら同じように失神していたと思うくらいには怖い。
「おい、幽霊さんよ、なぜ邪魔をする」
幽霊たちは答えない。
「ちっ、悪いがこっちも仕事なんでね、やらないといけないんですわ」
ダメか、作戦は計画通りに進んだが作業員たちは帰ってくれない。
「店長さん、椅子と机飛ばしますか?」
「いや、それは昨日見せたからあんまり効果ないかも」
本来なら幽霊が見えた時点で全員走って逃げると思っていたが、思ったより親方の肝が据わっている。
「椅子、ぶつけますか?」
「いや、なるべく怪我はさせたくない」
彼らも仕事で来ているだけだ。
「ニンゲンって自分勝手ですよね」
急に着ぐるみの幽霊が話し始める。
「まて、こんなの作戦には無いぞ」
「仕事だからって、バカじゃないですか。こんな状況なら逃げればいいのに」
「そうだな、逃げた方が良いわな。カネ貰っている以上中途半端なことは出来んのだ。まぁ俺以外の作業員には危害を加えんでくれ」
「彼らがここにいる以上それは出来ないわ」
「分かった。ワシ以外は帰れ。そこで眠っている奴もつれて行ってやれ」
「は、はい」
作業員達は親方を残して去って行ってしまった。
「これでええか?」
「あんたも死なないうちにとっとと消えな」
「できん相談だな」
着ぐるみの幽霊は親方に向かって歩き出す。体も少し赤くなっている。
「ちょっと待て!」
俺は慌てて着ぐるみの幽霊の前に立ちはだかる。
「どうしたんだ!」
「私、仕事だからってなんでもするような奴ら、嫌いなの」
「だからって危害を加える必要はないだろう」
「この男を追い出したいのでしょう?止める必要はないと思うけど」
「ダメだ、あいつも仕事できただけだ、それに感情だけで動いても碌なことにならない」
「そ、あなたもそっち側なのね」
そうか、こいつは炎天下の中、碌に水分補給も出来ず、着ぐるみの中で熱中症で亡くなったんだったな。これは仕事だから何でもする人というよりかは、助けも呼べず無念に死んでいった自分への怒りか。
「お前、今まで本音を言えなかったんじゃないか?」
「どういう事よ」
「仕事でも、死ぬまで助けてが言えなかった。違うか?」
「・・・」
「お前の本音を言ってみろ。聞いてやる。ここは幽霊お悩み相談室だ」
「私…は…」
着ぐるみが脱げない理由、それは自分を隠して生きてきたことの現れなのかもしれない。過去に何があったかは知らない。だが、聞いてやることは出来る。
「私はずっと人に言われるがまま生きてきたの。自分の意見なんてほとんど言った記憶も無いわ。無理な労働をしてきた結果、そのまま死んじゃったけどね」
「そうか、それはつらかっただろう」
「あなたに何が分かるの!」
「わからんよ。人の悩みなんて。だがこうやって現世に残ったんだ、自分の未練を人にぶつけるんじゃなく、自分を探したらいいんじゃないか?」
「探す…?」
「そうだ、実は俺も自分探しをしててな、自分探しというより、未練探しだな。思い当たる節はいくつかあるんだけど、この店に関係するから、壊されるわけにはいかないんだけど」
「あなたは見つかりそうなの?」
「分からないけどこの店は守りたい」
「そう、」
「疲れたらこの店に寄っていいから、探してみたらいいと思う」
「見つけたら消えるかもしれないわね」
「それは幽霊だから仕方ない。本来この世にいるべきじゃないからね」
着ぐるみの幽霊の体の色が元の茶色に戻っていく。
「今なら脱げるかもしれない」
そう言うと、着ぐるみの幽霊は頭を外して見せた。
「体は脱げなかったわ」
「一歩前進だな」
「ワシだけ置いてけぼりだな」
親方の存在を完全に忘れていた。
「ま、今日のところは引き上げるわ、お主も、着ぐるみのも自分が見つかるとええな」
「聞こえていたのかよ」
「まぁな、姿は見えないが、声は聞こえとった」
親方は手を振りながらドアから出ていく。
「依頼主にどう説明すりゃええんじゃ。こまったのぉ」
その依頼主とやらが直接来てくれるといいが…
「店主さんありがとうございます」
「ん?何が?」
「私を止めてくれて。あのままだったら悪霊になっていたと思います」
「いいよ。また何かあったら来いよ。今日は手伝ってくれてありがとう」
「いえいえ、また来ます」
そう言うと、着ぐるみの幽霊は消えていった。
「みんなお疲れ様!今後どうなるか分からないけど、一旦何とかなったね」
「そうっすね!打ち上げとかやりますか?」
「いいね!」
作業員を追い出した俺たちは夜までどんちゃん騒ぎをした。この一件で近所で有名な幽霊屋敷になるとは知らずに。




