第11話 餓死した幽霊の悩みを聞け!
解体業者を追い出して、つかの間の平穏…はすぐに壊れた。
「てんちょー!お客さんです!」
お客さん。普通は来ると嬉しいのだが、この店では違う。今日はどんな幽霊か、それとも店を壊しに来る業者か?どちらであっても嬉しくない。俺は厨房の丸椅子から立ち上がり、ちび助の声の方へ向かう。
ホールに出るとガリガリでやせ細った男が倒れている。
「ちび助、これは何だ?」
「お客さんです」
お客というより死体?幽霊だから死体ではないのか…いや死んでるから死体であってるか。そんなことよりも何で店の中で倒れているんだ。
「何で倒れてるんだ?」
ちび助は首をかしげる。
「さぁ?よろよろしながら入ってきて、倒れました」
「そうか」
俺はやせ細った幽霊の肩を叩き、声をかける。
「大丈夫か?」
・・・返事はない。やっぱり死体なんじゃないのか?死体の幽霊もいるかもしれない。とか考えていると、やせ細った幽霊はふらふらしながら立ち上がる。
「おいおい、無理すんな」
「いえ、大丈夫です…」
やせ細った幽霊の声はかすれている。
「どうしたんだ?」
「いえ、お腹がすいただけです…お気になさらず…」
「いや、気になるわ。なんか作ってやるから食べて行けよ」
「あ、ありがとうございます…」
「何が食いたい?」
「白い…ごはん…」
それだけ言うとやせ細った幽霊は倒れて動かなくなった。
「てんちょー、どうします?」
「ほっとけ、料理が出来たら起き上がるだろ。もう死んで幽霊なんだからもう死なん」
白米だけでは味気ないので、俺は厨房に戻り、献立を考える。
「ちび助、白米以外に何があったらいいと思う?」
「うーん、卵焼きとか、みそ汁!ですかね?」
「いいね。マッチョ君は何かあるか?」
「プロテインっすね。タンパク質が取れます」
うーん、こいつに聞いたのが間違いだった。
「白米に合うやつ考えてくれよ」
「プロテインっすね!白米にかけるとうまいっす」
だめだ、コイツ舌も筋肉で出来ているんだろうか。無視して自分で考えよう。
米、卵焼き、みそ汁。バランスも考えて野菜炒めでも作るか。飲み物は…まぁプロテインでいいか。
料理が完成し、机の上に並べる。
「ほら出来たぞ」
またふらふらしながら立ち上がり椅子に座る。
「ありがとうございます…」
「たらふく食え」
こういう幽霊は食わせたら消えるだろう。そう思っていた。やせ細った幽霊は箸を取り…取れない。そうだった物に触れない幽霊が大半だった。
「御馳走が目の前にあるのに…食べることが出来ません…」
「それはすまん…」
俺は幽霊だが、物に触れることも、なんなら物を食べることすら出来る。なので作っても食べられないことを失念していた。
「いえ、お気持ちだけでうれしいです」
「そうか。それはそうと、あんたなんでそんなにガリガリなんだ?」
入ってきた時から疑問だったことを投げかける。
「私ですか、私は餓死したのです」
幽霊は基本死んだときのまま幽霊になる。念じたら服を着替えられるやつも居るが、着の身着のまま、死んだ姿で幽霊になる。
「そうか、だが現代日本でそうそう餓死することなんてないだろ?」
「そうですね、私の場合、少し事情がありました」
「ま、人は何かしら抱えてるもんだしな。もし話したくなったら話してくれ。ここは幽霊お悩み相談室ってことになってるからな。居酒屋なんだけども」
やせ細った幽霊は数秒黙った後、死んだ経緯を話し始めた。
「私は生前そこまで大きくない会社で働いておりました。
家族も恋人もおらず、仕事して帰って家で寝るだけ。そんなつまらない生活を続けておりました。
ある日、私は会社をクビになりました。理由は業績不振です。職を失った私は抜け殻のように何もしなくなりました。
家族もおりませんから、私が働かなくても誰も困りません。
趣味も無かったものですから貯金はありました。
何もしない生活を一年続けた頃でしょうか、徐々に動けなくなりました。
冷蔵庫の食べ物は減り続け、そのうち底を尽きました。
そんな状況でも買い物に行く気力すらなく二週間後私は死にました。」
「孤独な私を生かしていたのは仕事だったんですよね」
皮肉な話だ。
「あんたの未練はなんだ?」
「私の未練…ですか」
「そうだ。ここに来たってことは悩みを解決しに来たんじゃないのか?」
「いいえ、私はいい匂いのする楽しそうなお店を見つけたから入っただけです」
「そうか」
意外と自分のことは自分では分からない。自分の未練が分からない幽霊は多い。そんな幽霊をたくさん見てきたから分かる。やせ細った幽霊が何を欲しているのかも。
「ちび助!マッチョ君!食べたいものを言え!今日は俺が作ってやる」
「てんちょー!いいんですか!?」
「おう、いいぞ。だがなるべくパッと作れるものにしてくれよ」
「じゃあ私はカレーが食べたいです!」
「んーまぁ何とかすぐ作れるか、マッチョ君は?」
「もちろんプロテインっす!」
うん、もうこいつには何も聞かん。
「んじゃ、二人とも待っててくれ、あんたもそこで大人しく待っとけ」
「えっ、はい…」
やせ細った幽霊は困惑しつつも大人しく席で待っている。
リクエストされた料理を作り終え、机に並べる。カレーからは湯気が立ち、食欲をそそられるいい匂いがする。プロテインはいつもの量の二倍。メガ盛りプロテインを作った。
「これは…」
「まぁまぁ、幽霊だから食べられないが、今夜やパーティーと洒落込もうじゃないか。せっかくだしあんたも参加していけ」
「は、はい」
幽霊だから食べることは出来ないが、ごちそうの前で楽しく話す。死んでからでもできるパーティーだ。ちび助は病院生活で楽しかったことを話している。そのうちの一つが病院食だったそうだ。味は薄く質素だったが、カレーだって出てきたらしい。マッチョ君は相変わらず筋肉の話をしている。いわく、マッチョ君は筋肉の声が聞けるのだとか。今日は俺を鍛えてくれといろんな筋肉から聞こえてくるらしい。そんなわけないだろうと思ったが、この場でそんな野暮なことは言わない。
「あんたは楽しかった記憶はないのか?」
やせ細った幽霊は少し考えた後、一粒の涙を流しながら言った。
「食事」
「子供の頃、家族と食べた食事です…」
「どんな味だった?」
「味よりも時間でした。店主さんありがとう…」
やせ細った幽霊の体が光始める。
「私の願いは、これだったんですね…死んでから叶うとは…」
光が強くなる。
「こんなことでいいならいつでもやってやる。来たくなったらまた来いよ」
「いいえ、私はもう満足です」
そう言い残すとやせ細った幽霊は光の粒となり、消えていった。
「てんちょー、成仏、したんですね」
「そうだな。行ってしまったな」
「ところで店長!この料理どうするっすか?俺たち食べれないっす!」
「あっ」
しまった、この店で飯食えるの俺だけじゃん、飲食店従事者なるもの、食品ロスなんて許されない。残った料理を一人で食べたが、もう二度とプロテインは二倍にしないと誓ったのであった。




