幕間① マッチョくんのジム巡り
ある日の事。俺は無性に筋トレをしたくなっていた。毎日毎日ポルターガイストで筋トレ…。筋肉に負荷がかかっている気がしない…。
よし!今日は筋肉を追い込むためにジムに行くっす!
「店長!今日休みをもらっていいっすか?」
「え?休み?」
「はい!一日出かけるっす!」
「いや、まぁいいけど、そもそも君何もしてない…」
むっ。
「店で筋トレしてるっす」
「それは仕事じゃないし、そもそも雇ってないから好きにしていいよ」
「ならさっそく行ってくるっす」
「行ってらっしゃい」
俺は店を出てランニングを開始する。幽霊になってなお、ランニングは気持ちいいものではあるが、幽霊なので風を感じることは出来ない。しかもランニングとは言うものの、実際は宙に浮いているので走ってすらいない。足をパタパタ動かしているだけだ。
そんなこんなで走っていると、居酒屋に居つく前に居たジムの前に着く。照明は消えているし、窓ガラスから中を覗いても何もない。空っぽである。おまけに看板にテナント募集の張り紙がされている。
自分が居たことによって潰れてしまったジムを見て、申し訳ないと思った。
「次行くっす…」
次に向かうのは、隣町のジムである。そこでよく友人と一緒に筋トレしていたのを思い出す。もしかしたら友人に会えるかもしれない。足は動いていた。
隣町のジムまでは幽霊の速力で大体30分くらいだ。生前も同じ道を行き返りでランニングしていたのを思い出す。通いなれた道ではあるが、生きている時と少し違って見えた気がした。
隣町のジムに着いたが、あまり中に入れる気がしなかった。わざとじゃないとはいえ、ジムを一つ潰してしまっている。自分が筋トレをしてしまったら、他のトレーニーに迷惑が掛かってしまう。
「見学だけなら…いいっすよね…」
中に入ると見慣れた景色、ぐるっとジムの中を一周する。器具の配置だって全く変わっていない。見慣れた景色の中に見慣れた人物が居た。見慣れた人物は必死にベンチプレスを上げている。一緒に筋トレをした友人だった。懐かしさがこみ上げる。
俺は少し、ベンチプレスを上げる友人を眺める。
「100キロ上げられるようになったんっすね。でもまだまだっす」
俺なら120キロ上げられる。対抗したいが対抗しては友人にも迷惑をかけてしまう。俺は頑張れよと呟き、そっとジムを出た。
次はどこへ行こうか。せっかく休みをもらったので鍛えようと思ってジムに行ったが、幽霊なので鍛えられないし…。そんなことを考えながらあてもなく歩いた。
気が付いたら事故現場にいた。そう、俺がトラックに轢かれて死んだ場所だ。道路のわきに花が置いてある。
「そういえばここでトラックに轢かれて死んだっすね」
死んだときのことを思い出す。あの日はジム帰りにプロテインを飲みながら歩いていたっけか、青信号の交差点を歩いていたら、運悪くトラックが突っ込んできた。咄嗟に近くにいた女の子を突き飛ばした。俺の生前の記憶はここまでだ。
突き飛ばした女の子にケガはなかっただろうか?元気に生きてくれてたらそれでいいか。次はトラックが突っ込んできても勝てる筋肉を作っておこう。ここに居てもしんみりしていけない。そろそろ帰るとしよう。俺は帰路についた。
「ただいまっす」
「お、マッチョ君おかえり。リフレッシュできた?」
「いや、できなかったっす」
「そうか、まぁいつでも休みとっていいから」
「うっす」
俺の生前の未練は何だったんだろう。筋トレをしたい、今ではそれは少し違うような気がする。考えていても仕方が無いので俺は店で筋トレをすることにした。
「おいおいマッチョ君、ジムで筋トレしてきたんじゃないのか」
「いつでもどこでも筋トレするっす」
次の休みはどこで筋トレをしようか、どこの筋肉を鍛えようか。マッチョの休日は忙しいのだ。




