第15話 ギャルの幽霊を追い出せ!
今日は暇な日だった。幽霊のお客も来ず、何のイベントも起きない。たまにはこんな日もあっていいだろう。俺はネコを抱えながらぼーっとしていた。
「てんちょー、今日暇ですね」
「そうだな。たまには暇な日があったっていいじゃないか。今日はこのまま何も起きないでくれ」
「あー、今のでフラグが立ちましたよ!」
「フラグってなんだ?」
「フラグって言うのは…」
ちび助が説明しようとしたとき、一体の幽霊が店に入ってくる。
「こんちわーっす!」
「あっ、こんにちは」
「ここに来たら、悩み聞いてもらえるって聞いたんだけど、合ってる?てか店長めっちゃおっさんじゃん。わら」
おっと、今日も濃いのが来たな。
「ああ、お悩み相談室的なのをやってるよ」
「えー、おっさんに話すのやだー」
「そうか、おっさんですまんな」
「てか、店薄暗くない?もっと派手な方が良いよ!」
なんだこいつ。いきなり来て失礼にもほどがあるぞ。一言言ってやろうと前に出る。自分が言葉を発する前に隣から怒りの声が聞こえる。
「いい加減にしてください。いきなり来てその態度はおかしくないですか」
ちび助がキレている。
「ちょっ、冗談じゃん!」
「人に相談をするときはそれなりの態度があると思います。今日はおかえりください」
「そんな、マジになんないでよ!」
「大マジです」
そう言うと、ちび助はギャルの幽霊を追い出してしまった。
「てんちょー、ごめんなさい、やっちゃいました…」
「うん、まぁしゃーない」
「これクレームとか来ますよね?どうしましょう…」
「幽霊の居酒屋にクレームなんて来ないよ」
「あっ、そういえばそうでした」
本物の居酒屋なら大問題だが、こちらもあちらも幽霊。問題にはならないだろう。
「怒ってくれて嬉しいよ。またあの幽霊が来たら頼むわ。どうもギャルは苦手でなぁ…」
「任せてください!」
ちび助の元気な返事に少し安心しつつ、店の暖簾を外しに外に出る。
「ひぐっ、ひっく・・・」
近くですすり泣いている声が聞こえる…しらんぷりもできるが、どうにも放っておけなかった。
「まぁ、その…なんだ。ちょっとゆっくりしていけ」
座り込んでいたギャルの幽霊は頷き、おどおどしながら店に入ってくる。
「ちび助、そこでギャル拾ってきた」
「そうですか…」
じーっとギャルを見つめるちび助。いたたまれなくなり、
「ごめんなさい…」
かすかな声を発するギャル。先ほどとは別人だ。
「まぁ、謝ってるし、許してやってくれ」
「てんちょーが言うなら…」
ちび助は聞き分けのいい子である。多少わがままなところはあるが、言って聞かせれば理解してくれる。
「まぁ座れや」
「はい…」
ギャルは姿勢よく椅子に座る。
「悩みがあって来たんだろ?おっさんに話してみてくれないか?」
「はい…あーしには好きピが居たんだけど告る前に死んじゃったっぽい。起きたら場所も分かんないし、帰れないし、なんかあーしは浮いてるし、人に話しかけてもシカトされるし困ってた」
「なるほどな。好きピ?はわかんないけど、起きたら知らない場所で困ってたって事か」
「てんちょー、好きピは好きな人って意味です」
「おう、ありがとう。それでこれからどうしたいんだ?未練は告白できなかったことのように思うけど」
「そうなんだけど、とりま家に帰りたい」
「そうか、住所はどの辺だ?」
「大阪」
「大阪!?ここ東京だけど…」
「え、ここ東京?ウケるんだけど…」
全然ウケては居なさそうだが…
「ちび助、大阪まで歩いたら何日くらいかかるかな?」
「分かんないですけど、幽霊なので疲れることも死ぬことも無いので歩いていればそのうち着きますが…」
「ギャルの幽霊さんよ。帰りたいのは分かるが、帰ってどうするんだ?家族はお前を認識できないし、好きピとやらと話すのも難しい。言っちゃ悪いが辛い思いをすると思うぞ」
「そう…だよね…」
この幽霊がこの残酷な現実に耐えられるとは思えない。
「でもてんちょー、帰るだけ帰ってみてもいいのでは?」
「ほう、」
「私も、死んだあとお母さんに会いに行ったんですけど、気づいてもらえなくて悲しかったですが、どうせ死んでるんだしやりたいことやって成仏してやろうって逆に前向きになれました」
「それも一理あるな。ギャルの幽霊さんどうする?」
「うーん、一回あーしは帰ってみようかな。好きピに伝わらなくても一言いいたいし、ママにもありがとうって言いたい」
「そうか」
根はいい子みたいだ。
「でもてんちょー、どうやって大阪まで行くんですか…歩いてって言っても道わかんないでしょ」
「そんなんあれよ、幽霊なんだから、新幹線か、夜行バス辺りにでも乗れば大阪なら行けるさ」
「あっ、その手が!」
「あーし、お金持ってない」
「いや、幽霊なんだからお金払わなくてもこっそり乗ればいいんだよ。真面目か」
「あっ」
「ま、今日は遅いし、出発は明日にしたらどうだ?」
「そうする」
「んじゃ、店じまいするか」
「はーい!」
「何も無いけど、今日は泊っていきな。ちび助案内してやってくれ」
「了解ですてんちょー!」
「ありがとう」
女子二人が階段を駆け上がっていく。普通なら夜中だから足音気をつけろって怒るところだが、幽霊なので足音はしない。幽霊の体も悪い事ばかりではないみたいだ。
夜も更け、女子二人が楽しそうに話している。これはちび助が求めている青春なのだろうか。
「もう夜遅いから早く寝ろよ」
「はーい」
元気な声が二つ返ってくる。これは寝そうにないな。幽霊だから寝る必要も無いのだが。
俺はネコを呼び、膝に抱えながら眠りについた。
窓から朝日が入り込んでいる。膝の上のネコはもういなかった。寝ているちび助たちを起こして支度をさせる。
「んじゃ、大阪に行っても元気でな」
「車で送ってくれないの?」
「おっさんが車に乗ると、周りからは誰も乗っていないのに動く幽霊車になってしまうから…」
「そっか、残念。おっさんありがとね!じゃーねー」
少し騒がしめのギャルの幽霊は走って行った。
「最後まで失礼でしたね」
「そうだな。だけど悪い子じゃなさそうだ」
「また会えそうな気がします」
「俺もそう思う」
幽霊の世界は一期一会。昨日会った幽霊が次の日には成仏していることもよくある。それだけ不安定な存在なのだ。
ギャルの幽霊とはまた会える気がした。




