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幕間② ネコの朝は早い

 ネコの朝はとても早い。猫は夜行性と言われているが、実は違うこともある。飼い猫は人間の生活に合わせて夜に寝る猫もいる。ネコはそのタイプだった。


 ネコは寝床で目を覚ます。人間の幽霊たちが作ってくれたネコ専用の寝床だ。ふわふわのクッションがピンク色のかごの中に入っている。これが寝床だ。


 人間の幽霊たちはまだ寝ているので、ネコは外に出る。まだ朝日も出てはいないので、外は薄暗い。ネコはいつもの散歩コースを歩く。建物の隙間の道を通って商店街に入る。魚屋の前で、魚が捨てられていないかチェックする。


 ・・・残念。今日は魚は捨てられていなかった。たまに捨てられている時もあるが、幽霊なので食べることは出来ない。ネコにとっては生前のルーティーンを続けているに過ぎない。


 ネコは生前飼い猫だったが、外にも自由に行き来できる飼い猫だった。朝早くに出て昼過ぎに帰って来て、家で寝る。野良猫と喧嘩することもあったが、逃げ足は速いので、喧嘩しても負けそうになったらすぐに逃げていた。


 次に向かうのは公園だ。商店街を抜けて、住宅街に入る。少し進んだ先に小さな公園があるのだ。公園はネコの水分補給スポットである。朝早くに行くと、おじいさんが鳩にパンくずをあげている。そのパンくずを食べている鳩に襲い掛かるのが大好きだった。鳩を捕まえても食べるわけではなく、ただ遊びたいだけなので捕まえたらすぐ放していた。


 今日も鳩にパンくずをあげているおじいさんが居た。たくさんの鳩が寄ってきている。ネコは近くの一羽めがけて突っ込む。ネコの爪は鳩に刺さることなくすり抜ける。何度叩いてもすり抜けるし、鳩もこちらには気づかないので面白くない。興味が失せたので別の場所に向かおうと歩き出す。すると視界の端に幽霊をとらえる。


 幽霊は人間の幽霊だった。気まぐれに近寄ってみる。


「あら、猫ちゃんの幽霊なんて珍しいわね。少し撫でさせてくれるかしら?」


 人間の幽霊は優しく話しかけてくる。ネコは猫なので人間の言葉なんて分からないが、敵意はなさそうなので人間の幽霊の足にすりすりしてみる。


「あら、嬉しいわね。今はお散歩中なのかにゃー?」


 猫なで声で話を続ける幽霊。意味など分からないが返事だけはしておく。


「にゃー」


「ふふふ、いい子ね」


 人間の幽霊は三分くらい撫でてくれた。


「にゃーん」


 満足したので挨拶だけして公園を出る。


「あら、気まぐれな子ね」


 次に向かうのはとある路地裏である。そこでは何匹かの猫が集まって集会をしているのだ。生前から猫のコミュニティがある。集会と言っても猫同士で漫画みたいに話したりはしない。集まって寝たり、じゃれあったりしているだけのものだ。


 住宅街に戻り、集会が行われる路地裏に入る。路地裏には人間が捨てたごみが散乱している。踏んでケガをしないように気を付けながら歩く。集会場所に着くと6匹くらいの猫が集まっていた。


「にゃーん」


 近づいて挨拶をしてみるも無反応。全く自分に気づいてはくれない。一匹の猫が体をすり抜けていったが、驚きすらしなかった。


 ネコは自分自身が幽霊になったことに気が付いていた。普通の人間と幽霊の違いも分かる。生きている猫たちが反応してくれないことも分かっていた。だが毎日集会場所に来るのをやめられなかった。


 日は登り、お昼前になった。そろそろおうちに帰る時間になった。ネコは猫の集会を眺めながらぼーっとしていたが、立ち上がり、かつて飼われていた家に向かう。


 集会場所から五分歩いた先に家はあった。小さい庭がある一軒家だ。ネコが出入りできるように窓が少し開いている。エアコンの室外機に登り、窓から家に侵入する。中では人間が料理を作っている。


「にゃー」


 ご飯が欲しいので鳴いてみるが返事はない。生前なら、「あんたまたどっか行ってきて、ほんとにも~困った猫だ事!」なんて言いながら、お皿にご飯を置いてくれていた。


 二階に上がる階段の脇にネコ用のベッドがあったが、今はもうない。自分の居場所はここじゃない。寂しさを覚えながら、家を出る。散歩も満足したので、今の居場所に帰ろう。


 今の居場所はこの居酒屋である。店に入ると男の幽霊が椅子に座って寝ている。そっと膝の上に乗り自分も眠る。


 男の幽霊が起きる。ひとしきり撫でた後、何か言っているが意味が分からないので膝から飛び降りて二階に向かう。二階には遊んでくれる女の子と、こっちを見ては逃げるでかい男が居る。


 でかい男は逃げるが、逃げる獲物は追いかけたくなるのは猫のさだめ。とびかかり、でかい男が焦っているのを楽しんだ後、自分専用の寝床に帰る。


 夜になると何やら幽霊の人間が集まってくる。自分を撫でるやつも居るが、基本的には無視を決め込む。


 幽霊たちが帰り、店の暖簾が下ろされる。お散歩の時間がやってくる。


今日もまた、ネコの朝は早い。


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