第14話 夢の続き
夢を見る。幽霊になった今でも眠ることは出来るし、寝ていれば夢を見ることもある。今日見ていたのは息子が小さい頃の夢だ。妻も生きていて、三人で公園に居る。小さなゴムボールを息子と投げ合っている。妻は椅子に座ってニコニコしながらその様子を眺めている。
夢は自分視点ではなく、天から眺めているように見えている。息子も俺も何かを話しているようだが会話は聞こえない。動くこともできないのでこのまま眺めることしかできない。
「ああ、もう一度あの頃に戻りたい」
後悔が募る。
息子と喧嘩した時、居酒屋を始めたばかりの時期で、お客も来ず、自暴自棄になっていた。言い訳と言われればそれまでだが、もう少し心に余裕があれば違ったかもしれない。
夢の中で遊んでいるが、どうやら喧嘩をして息子を泣かせてしまったらしい。なぜ泣いているのかはここからでは分からないが、俺は慌てている。妻が息子に駆け寄ったところで目が覚めた。
店の客席で、膝にネコを抱えながら寝てしまっていたらしい。時間は12時の針を少し回ったくらいで、外は明るかった。
俺はネコの背中をそっと撫でた。寝ていたネコも不意に背中を触られたことで目を覚まし、眠そうな顔をしながらびよーんとのびをしている。
「すまん、起こしたな」
「にゃー」
起こしてしまったことを謝ると、ネコは膝から飛び降りて、どこかへ行ってしまった。
ガラガラガラ。店のドアが開く音がした。人間の来客である。そもそも人間目線では営業していないのでお客ではないが。
ドアの方向に目をやると、この前追い返した、解体業者の親方が立っている。
「邪魔するぞ」
「今日は一人なんだな」
「そうだ。今日は別にこの店を壊しに来たわけではない。少し話をしに来たのだ」
そう言うと、親方は店の椅子に腰かける。
「この店は客が来たというのに、水も出んのか?」
やかましい客だ。幽霊の居酒屋で水が出るわけがない。
「今は営業時間外だ。水が欲しけりゃ夜に来るんだな」
「そうか。じゃあ用件だけ話してとっとと帰るわ」
「そうしてくれ」
「この店の解体を依頼してきた依頼人と話した。ここであった事を話したら、大層驚かれたがね」
それはそうだ。人間目線で見れば扉が開かなくなったり、物が浮いたり飛んできたり…信じろって方が無理がある。
「その出来事には信じてもらえたのか」
「最初は信じてはくれなんだが、部下たちが必死になって説明するもんで、最終的には信じてくれたよ。依頼人自らこの店に来るとも言っていた」
「そうか。それをわざわざ伝えに来てくれたのか」
「ああ、それだけだな。今のところすぐに解体するという話は出ておらん」
「ありがとう。あと依頼人の名前を教えてくれないか?」
「ふむ。良いだろう。名前は清水武久。お主の息子であっとったか?」
「何で知ってるんだ」
「おぬしの息子から聞いたからな」
「そうか。じゃあ息子に伝えてくれ。店で待っていると」
「確かに伝えておこう。次は営業時間内に来るとする。美味い酒と料理を楽しみにしておる」
そう言うと、親方は出て行ってしまった。
「幽霊に何を求めているんだよ…」
それはともかく、依頼人は息子で確定した。店に来いとは言ったものの、どんな顔をして会えばいいのか分からない。何を話せというのだ。息子だって幽霊になった俺から話を聞いてどう思う?今更謝られたところで過去の溝は消えない。俺が成仏するための自己満足じゃないだろうか。俺はずっと自分の事ばかり。
「店長!おはようございますっす」
「ああ、マッチョ君おはよう」
いつの間にかマッチョ君が後ろに居た。考えていて全く気が付かなかった。
「いい朝っすね!筋トレ日和っす」
朝も何も、もう昼を過ぎている。
「今日もやるのか?筋トレ」
「もちろんっす。継続が命なんすよ」
筋肉のことはあまり詳しくは無いが、一日やったら休息を取った方が良いと聞いたことがあるが…まぁこういうのは釈迦に説法だな。
「まぁ、店の物は壊すなよ」
「うっす。ところで店長悩み事ですか?」
「うん?なんでわかったんだ」
「いつもより、顔が暗いっす」
おっと、顔に出てしまっていたか。
「まぁ、実はそうなんだ。さっき解体業者の親方さんが来てね」
「ムッ!俺はいつでも戦えます!どこっすか!やるっすよ!!!」
「待て待て!別に壊しに来たんじゃないんだって、話をしただけだよ」
マッチョ君はビビりなのか血の気が多いのか分からないな。
「そうっすか、良かったっす。なら何に悩んでるっすか?」
「親方さんと話をしたんだけど、依頼主が俺の息子だったよ。今度来るそうだ。だけど、何を話したらいいのか、謝ったとしても自己満足で息子に寄り添えてないんじゃないかって思って、悩んでいたんだよ」
「なるほどっす。つまり息子に会いたくないって事っすね」
うん、違うっすね。
「違う、会いたいことには会いたいけど合わせる顔を持ってないというか、何と言うか・・・」
「うじうじしてても仕方ないっすよ。会いたいなら当たって砕けろっす。恋と一緒っす」
確かに一理ある。幽霊の俺にできることなんて話すことしかない。話すことから逃げたら、一生後悔するだろう。まさかマッチョ君に背中を押されるとは…
「そうだな、その通りだ。ところでマッチョ君は恋人は居たのかい?」
「うっす。筋肉が恋人っす。」
「そうか…」
マッチョ君らしいなと思った。
夜、また夢を見た。朝見た夢の続き。視点も状況も変わらない。妻が息子に駆け寄ったところから始まった。妻は泣いている息子から話を聞いている。一通り聞いたのだろうか、今度は俺と話をしている。妻は両方の話を聞いたあと、俺を叱っているように見えた。叱られた俺は膝をついて息子と同じ目線になる。そして息子に何か話してから頭を下げていた。
息子は泣き止み、俺に右手を出している。俺も右手を出し、息子の手と合わせる。仲直りの握手をした。
夢はここで終わっていた。実際に夢にあった出来事の記憶は無いが、よく仲直りの握手はしていた。親方の計らいで息子が来てくれるのだから、誠心誠意謝ろうと、俺は思った。




