第16話 赤い幽霊編①
深夜の幽霊居酒屋はいつもとても静かである。今日は幽霊が数人客席に座って雑談を楽しんでいる。最近は幽霊の間でこの店が有名になりすぎて、幽霊のお客が来ない日が無いほどだ。幽霊がいっぱい集まってくるので幽霊の社交場のようになってきている。
「マスター、今日もいいネタ集めてきやしたぜ!」
このネタを集めてきたという男は、最近店に来るようになり、何かと幽霊の情報を持ってきてくれるのだ。
「マスターじゃなくて店長な」
「まぁそうかたい事言うなよ。居酒屋もバーも酒を出す店って点では同じだろ?」
「そうかもしれんが、そんなおしゃれな店じゃねぇ」
小さな居酒屋だが、居酒屋としてのプライドがある。こじゃれた店と同じにしてもらっては困るのだ。
「んで、いいネタってなによ」
「やばい幽霊って知ってるか?」
「やばい幽霊?」
そういえばマッチョ君がこの店に来た時、そんな幽霊が居るって話をしていたような気がする。
「そう、全身真っ赤の幽霊だよ」
「真っ赤だとやばいのか?」
「そうだな、幽霊って恨みとか憎しみにとらわれると全身が赤くなるんだよ。憎しみの度合いによって赤さは違うらしいがな」
「そうなのか、そういや着ぐるみを着た幽霊は急に体が赤くなっていたな。すぐ元に戻ったけど…」
「見たことがあるなら話は早い。この店は幽霊が集まるだろ?そしたら変な奴も来ると思うんだけど、そういうやべぇやつも来るから気をつけろって話だ」
「ふーん、で赤いと何がやばいの?」
「周りの幽霊を喰らうんだよ」
ひえっ、怖い。あの時の着ぐるみの幽霊がすぐ元に戻ってくれて本当に良かった。
「やっぱ食われたら死ぬんだろうか?」
「それは分からん。幽霊の中では有名な噂だ。喰われるところを見たってやつもたくさんいる」
「そうか、忠告ありがとう、あんまり店から出ることは無いけど気を付けておくよ」
「それがいい。マスターが居てこその憩いの場だ」
こう言ってもらえると、素直にうれしい。幽霊というのは基本的に孤独だ。心霊スポットに幽霊が集まるのも、誰かと一緒に居たいからなのかもしれない。
「ところでさ、あんたは生前何やってたの?俺は見ての通り居酒屋の店長だけど、あんたは結構謎なんだよな」
「当てれたら教えてやるぜ!」
「ほう、じゃあ、ゴシップとか好きそうだし、新聞記者か、週刊誌の記者だな!どうだ?い線行ってるんじゃないか?」
「んー外れだな。ゴシップは好きだが、職業は全く関係ない」
「そうか、幽霊を見る目には自信があったんだけど、残念。次回来る時までに考えておくよ」
「楽しみにしてるぜ」
情報屋の幽霊はお代も払わず帰っていった。
「てんちょー、赤い幽霊に食べられてしまったらどうなるんですかね。私ちょっと怖いです」
「そうだなぁ、情報屋の幽霊も分からんって言ってたけど、普通に考えたら死ぬんじゃないかな?」
「幽霊なのに死ぬんですかね?」
「成仏だって、幽霊が死ぬみたいなものだし、喰われても死にそうだな。あんまりいい死に方とは言えないけど」
「私は消えるなら成仏したいですね。消えるとしても怖い思いして死ぬのは嫌です」
「俺もいやだな」
だが、もし成仏できなかったとして、忍びの幽霊のように生き続けるのだろうか、もしかしたら幽霊に喰われて死ぬ方が楽なのかもしれない。
「そうだ、てんちょー、赤い幽霊のことは赤い幽霊に聞けばいいんですよ!」
「?」
「ほら、居たじゃないですか!着ぐるみの!」
「そうだったそうだった、ついさっき思い出していたのに忘れていた」
そうだよ、自衛の為に幽霊のことは知っておいた方がいい。
「ちび助、着ぐるみの幽霊の居場所は分かるのか?最近お店に来てないけど」
「分かります!あの人は大体遊園地のどこかに居るはずなので連れてきます」
「じゃあ、頼んだ」
幽霊というものは生前の行動に縛られるやつのなんと多い事か。そういう俺も生前の居酒屋店長という職にとらわれている。ちび助は逆に生前出来なかったことをやろうとしている。尊敬に値する。
「じゃあ行ってきますね!」
「おう、行ってらっしゃい」
青春を謳歌したい少女は扉をすり抜けて出ていく。入れ替わるように老人の幽霊が扉をすり抜けて入ってくる。老人の幽霊は慌てた様子で、何かを喋っているが、うまく聞き取れない。
「おじいちゃん、一旦落ち着いて」
老人の幽霊は一呼吸置き、ゆっくり話し出す。
「にいちゃん、大変だ、さっき出て行った若い男の幽霊分かるか?」
「情報屋だろ?よく幽霊ネタくれる」
「そうだ、そいつだよ、そいつが赤い幽霊に喰われちまった」
「は?本当か?」
「ああ、ワシはこの目で見た、喰われるところを」
それから老人は見たことをゆっくり、詳しく話してくれた。老人の幽霊が言うには、赤い幽霊と情報屋の幽霊が話しているところをたまたま通りかかったらしい。情報屋の幽霊とは知り合いだったため、話しかけようとしたが、赤い幽霊があまりにも様子が変だったので、老人の幽霊はそのまま通り過ぎた。すると後ろから悲鳴が聞こえてきたため、振り返ると、情報屋の幽霊が喰われていたため、走って逃げてきたらしい。
「ワシは怖くて怖くてたまらん」
「それは怖い、」
赤い幽霊は都市伝説のようなものだと思っていたが、老人のこの怖がりようを見て、本当の事だと確信した。
「ところでにいちゃん、さっき出て行った女の子、危ないんじゃないか?」
「そうだ!」
ちび助が危ないかもしれない、そう思った瞬間、俺は店を出ていた。俺が出せる限りのそくどで、ちび助が向かったであろう遊園地へ走った。
遊園地までは車で10分ほどだが、走ればそれなりにかかる。幸い幽霊はいくら走っても疲れることは無いので全力で走った。住宅街を突っ切る。
「ねぇ」
おぞましく、冷たい声が、後ろから聞こえる。俺は振り返ったことを後悔した。




