薔薇をください
改めてウォードを見れば、お客様としているだけあって、これまで見たなかで一番お洒落な服を着ている。黒の上着は肩から腰にかけてシュッとしていて、細身のパンツも真っ直ぐな足の形が分かっていい。
「ウォード、足長い。腕はレイより細いけど、それくらいが一番カッコいいと思う。ね、私はどう?」
レイは見ようによってはゴツい。真面目に褒めたクリスティナを、ウォードが無言のまま上から下までざっと見る。
もっとちゃんと、どうぞ。その場でひと回りして背中側も見せる。
「今日は腹が出ていなくて、なによりだ」
「ちょっとちょっと」
前の服を覚えていてくれたのは嬉しいけれど、そういうのじゃなくて。
ナニースクールの面接用に、よい布地で紺色のデイドレスを作ってもらったのを、着てきた。白衿白カフスが清楚さを醸し出す、誰からも好感を持たれること確実な一枚。
それを「腹が出てない」と評価して終わりなんて、許さない。
「共布ベルトのリボンだって可愛いのに、もっとちゃんと褒めて」
もう一度回ろうとしたら、止められた。
「見た、見たからもう回らなくていい」
「そう?」
「服はよく分からないが、似合っているんじゃないか」
余計な「じゃないか」がついた。どうしてくれようと鼻に皺を寄せるクリスティナ。
「顔立ちが綺麗で垢抜けていたら、何を着ても映えるだろう。クリスティナに似合わない服があるのか?」
ウォード、今なんて言った?
思わず二度三度と見直してしまうのに、ウォードは平然としたもの。
え、今のって、ものすごく褒められた気がしたけれど、私間違って理解した?
「もう一回言ってください」とお願いしたら、言ってくれるかな。
いや、警戒して言い回しを変えてくる、きっと。
これ、私達将来結婚したほうがいいと思う。ウォードには他の娘さんより私をお勧めする。以上の気持ちを込めまして。
「ウォード、今日も薔薇をちょうだい。三本か十二本」
十二本は求婚。ウォードの瞳に警戒の色が浮かぶ。
「本数を指定してくるあたり、深い意図を感じる」
「そんなことないよ。多ければ多いほどいいよ」
あ、またダー君みたいになっちゃった。この言い方では微笑が薄笑いに見えてしまうことだろう。
「花は用意していない」
「そのへんに、いっぱい植わってる」
「主家の薔薇を勝手に刈り取れるか」
そうですか、ダメですか。では、と次の案を繰り出そうとするクリスティナとウォードの間に、なにかが割り込んだ。
「クリスティナ! ダーのあげた薔薇を山猫のからもらうのは、おかしいのよ」
目を三角にして怒るのはダー君。フレイヤお姉さんのところへのお使いから戻って来たらしい。
全身で抗議する。
「あげた薔薇?」
いつの間にか少し距離を取ったウォードの問いに、ダー君がすっと目を細める。
「ここはダーの城よ。薔薇をどうしようとダーの勝手なの」
そんなの急に聞かされて、ウォードが分かるはずはない。これだから子供は困るのよね。クリスティナが急ぎ添える。
「蔓薔薇城はダー君のお城でウィストン伯は庭の管理人なんだって。ね?」
そう言いたいのでしょ。と、確かめる視線の先でダー君が大きく頷き、ウォードはなんとも言い難い表情を浮かべた。




