クリスティナは今日もウォードが好き
ウォードが左右に目を配り「どこからでも見えるな」と呟く。
庭がよく見えるということは、庭からもこちらがよく見えるということ。
今いるテラスには、庭に直接降りることのできる広い階段がついている。
夏の宵など、篝火をたいてちょっとした催しをしたら幻想的だろう。
王都に帰ったらイヴリンさんに教えてあげようと思う。興行先探しに余念がないので、きっと喜んでくれるはず。
「見られると困るの?」
私といるところ。
クリスティナの率直な質問に、ウォードは顎で室内を示す。
「困るのは俺よりクリスティナかもしれない」
ウォードについて室内に入りつつ、何に困るのかが分からないクリスティナ。
考えるうちに、ひらめいた。
「後で私がひとりになった時に、ウォードのことを好きな娘さん達に囲まれて『ウォード様の隣に並ぼうなんて百年早いですわ! この身のほど知らずのちんちくりんが』とか、扇でパシッとされたり、突き飛ばされて転んで泥だらけになったりするってこと?」
目を見開いた直後に胡散臭そうにしないで欲しいですよ、ウォード。
外から来ると室内が少し薄暗く感じたけれど、表情ははっきりと見える。
「どこからくるんだ、その発想は。想像力が豊か過ぎるだろう。まず俺にそんな人気はない」
「またまた。ウォードが気がついてないだけでしょ」
クリスティナがうふんと笑うと、さらに眉をひそめるウォード。それも格好いいので、もっとしてくれていいけれど、嫌われるのは嫌。加減が難しい。
「ご令嬢が振り上げた扇くらい、避けられるな」
「たぶん」
「押されて簡単に転びもしない。あの高さから飛び降りて平気なクリスティナだ」
おっしゃる通り。それに。
「雨上がりじゃないから泥だらけもないね」
地面は気持ちよく乾いていて、靴も汚れない。「泥だらけ」を持ち出したのは、話を盛りすぎたと反省する。
ウォードは気を取り直すように、ひとつ頷いた。
「クリスティナが来ているということは、レイ・マードック様がご一緒だろうが、どうしてこの会に」
「フレイヤお姉さんも一緒。レイの山荘に避暑に来てるの。それで、はうるちゃんが『田舎にずっといるとくすんでくるから、晴れがましい場所へも行っとけ』って。レイんちにいる聖王様がこの会を勧めてくれたの。ウィストン伯の警備はハートリーさんの担当でしょ、なのにウォード招待者名簿見てないの?」
あ、短い言葉のやり取りが流行りなのに、とても長くなっちゃった。
ダー君の不満顔「むう」の真似をするクリスティナの前で、ウォードの頬がひくっとする。
「俺は他に命じられたことがあって、今日は担当から外れている」
なんだか遠回しな言い方に思えるけれど、警備のことは部外者には言えないものなのかも。と、クリスティナは納得した。
「なぜ、ひとりでいる」
「ひとりじゃない。さっきまでダー君がいたから」
「聖王家の守護様まで来てるとは……」
微妙にウォードが嫌そうなのは、うん、分かるような気がする。




