盗み聞き? いいえ待機です
クリスティナひとりになった部屋。窓の外にはバルコニー。
ウォードはたぶんひとつ下の階にいる。
バルコニーに出ればもっとお話が聞きやすい。だって私の目的は、お話の終わりを知ること。ただそれだけだ。
盗み聞きではない、断じて。
クリスティナはなるだけ音を立てないように体の通る分だけ窓を開けた。掛け金が手の届く位置でよかった。
バルコニーに滑りでるのはいい、でもあまり身を乗り出してはダメだ。下から見えてしまう。
ウォードが誰に向けてその声を紡いでいるのか。それを知りたくて、クリスティナはこれまでの人生にないくらい意識を聴覚に集中した。人の境界を越え動物の域に達しようとしたその時――。
「……おい」
低く、地を這うような響きが、真下から鼓膜を叩いた。
クリスティナの心臓が、一度だけ大きく跳ねて止まる。
「そこにいるのは分かっている」
「……」
「降りてこい」
――えっ。行っていいの? いつの間にお話が終わったの?
それでウォード、ここに私がいるって知ってたの、すごい。
一拍の沈黙。ウォードは、吐息とともに言葉を継いだ。
「早く」
早く、早く会いたいですって? 私に。それは大変、すぐ行きます。ときめくクリスティナ。
でも、ダー君がお留守の今、走って階段を降りるのはいいとして、下の階にまたずらりと並んだ同じ扉のなかからウォードのいるお部屋を当てる自信がないですよ。
ウォードがもう一歩二歩前へ出てくれると、上の階にいる私が見えると思うのに。
それとも、これくらいの高さなら私にとって飛び降りるのは容易いと知っていての「早く降りてこい」。
そういうことなら、ご期待に応えるのがそれなりに人気のある子役というもの。
クリスティナは思い切りよくバルコニーから二階のテラスへと身を躍らせた。伸身の前転もできたけれど控えたのは、着地場所が石だから。
「こんちには、ウォード。クリスティナだよ」
ピタリと着地を決めて、淑女らしいご挨拶をするつもりが、なんとダー君風になってしまった……痛恨。
「クリスティナ!?」
「そう」
そんなに驚かれるのが不思議。知ってて「降りてこい」だったんじゃなくて?
「……何の真似だ」
「なにって……」
ただ、射抜くような瞳で見据えるウォード。私だと思わずに盗み聞きされていると思い娘さんとの会話を切り上げたことに、腹を立てているのだろうか。
圧力に耐えかねて真実を告げる。
「順番待ち」
「……」
「誰かと話し終わるのを、そこで待ってただけ。盗み聞きじゃなくて待機」
「順番待ち、だと……?」
低く、反芻するように呟いたその声は、呆れを含む。
私そんなに悪くないと思うな。だってちゃんとお話の終わりを待つつもりだったので。勘違いしたのはウォードでしょ。
ウォードは乱暴に前髪をかき上げ、隠しきれない困惑を吐き出すように空を仰いだ。
「……さすがに、それはない」
「そう? でも本当にそうなの。順番待ち」
クリスティナはありったけの真実味を込めた。
「だから信じてもらうしかない」
ウォードの瞳に疑惑が宿る。
「いつものクリスティナと違うようだが?」
そこも潔く認めよう。ウォードに隠すことなんて、なにひとつ、ない。
「最近の本は、短い会話のやりとりがお客さんに人気なの。『テンポがいい』とか『分かりやすい』とか『感情が伝わる』って。真似してみた。どうかな?」
イヴリンさんみたいに長いのは、最新の流行じゃない。私は好きなんだけど。
ウォードが一気に疲れた顔になったのは、気のせい。
「今まで通りでいい」
「……ウォードがそう言うなら」
「話す前のタメもいらない」
「分かった」
渋々承るのは、ふり。続けたくても難しくて続かないの、本当はね。
お休みで気持ちに余裕があったので、異世界恋愛ランキング上位作の作風に寄せてみましたこの回・笑
いや、難しい!
私の限界がこれです。
読者様が読みやすいと感じられるなら「アリ」だと思ったのですが、無理はできませんね。
というわけで、次から元の感じに戻ります。
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楽しみであり励みにもしております。
引き続きお目にかかれますように✩




