ウィストン伯爵の城
ウィストン伯爵家の城は、マクギリスの城砦とはまるで違うものだった。
城壁はなく、森を抜けた先に堀と跳ね橋を備えた城が突然現れる感じ。空を突き刺すような尖塔がいくつもある。
「ねえ、こんな幅の狭い堀で敵襲を防ぐのに役に立つの?」
走る馬車の窓におでこをつけたままでクリスティナが聞くと、向かいの席に座ったレイが笑う。
「辛辣だな、クリス。これは防衛目的ではなく美観を重視したものだ。この時代は池や堀を作ることが流行ったらしい」
建物に流行りがあるとは知らなかった。ひとつお利口になりました。
「別名は蔓薔薇城ですって。元は王家の離宮のひとつだったらしいわ」
隣で説明するフレイヤに、疑問をぶつけるクリスティナ。
「薔薇の季節は終わったでしょう?」
「このお城の蔓薔薇は年中城のどこかには咲いているそうよ。ガーデンパーティだから、見られるんじゃないかしら。ティナちゃんはお花好きですもの、楽しみね」
「薔薇は特に好き」
なかでも赤が好き。なぜって、ウォードがくれたから。そこまでは聞かれないので、言わずにおく。自慢になっちゃうもんね。
綺麗にウェーブをつけてアップにした髪に小さな帽子をヘッドアクセサリーがわりに着けたフレイヤが口元をほころばせる。
日中用ドレスは淡いオレンジ色で帽子と靴もお揃い。
袖口と胸元にのぞく白いコットンレースが可愛くて、クリスティナの大好きな装いである。
フレイヤお姉さんに言わせれば「ここだけ外して洗えるから汚れやすい夏にちょうどいい」らしい。
レイの装いは白シャツにタイ、紺色のジャケット、濃いグレーのパンツ。胸元には赤い糸で紋章の縫い取りがされている。
紋章の狼の目に使われた赤い石が角度によってキラリと輝くのが素敵。
レイによく似合い、今日はちゃんと名門騎士家の長男に見える。
はうるちゃんの「客人を自慢する相手」は、新登場の守護様ではなく、ウィストン伯爵だった。
山でクリスティナに話した翌日、ダー君がお手紙と招待状を入れた鞄を斜めがけにして現れたのだ。
「ダー、やっと来られたよ」
両手を広げてうるうるとした瞳で訴える可愛いの塊。
レイとクリスティナ、たぶんフレイヤも「『やっと』ってダー君、私達も一昨日来たばかり。そもそも道中だって何度か来てたじゃない」と思ったけれど、誰も口にしなかった。
「ウィストン伯爵家?」
聞き馴染みのない家名に戸惑うフレイヤ。聖王家の遠縁であり現在はハートリー家の主家と知っていても、ルウェリン家がガーデンパーティの招待を受ける理由が分からなかったのだろう。
「昔から毎年招待はありましたが、俺の知る限り父はそれらしい理由をつけて断っていましたね」
「蔓薔薇城はダーの城よ。夏の終わりに騎士四家を呼びつけて、お庭の集いをするのはお決まり」
ダーの城と言うなら元は聖王家所有の城だったのだろう。そして今はウィストン家に所有権が移っている。なるほどなるほど。
クリスティナの考えを読んだかのように、ダー君がくふっと笑う。
「手入れをする人がいないと薔薇がダメになるから、ウィストンにさせてやってるのよ」
この上なく偉そうな態度に、一同絶句する。
伯爵を庭師みたいに扱うのはどうなの?
ウィストンが庭師なら、ダー君にとってマクギリスは何なのか。聞いてみたい気がした。




