はうるちゃんは自慢したいらしい
はうるちゃんに「ぶちゅ」っとされた頬は、ぴぃちゃんのお腹の毛ですりすりしてもらって元に戻った……こととした。
ちょっと湿って冷たい鼻先をくっつけられた事件。「くっつけていい?」と聞かずにするのは、どうなの。
聞かれたらもちろんお断りした。
クリスティナが飼い主であるレイに苦情を述べたところ、「しっとりとしてひんやりした鼻先をつけるのは、親愛の情を示してくださっているのだから」などと、ありがたくお受けするが良いとした答えが返ってきた。
しかもレイから少し羨ましそうな雰囲気が漂うのが、信じられない。
はうるちゃんに抗議するのと同じくらい、レイに言うのもムダだと理解した。
もういい。次から察して逃げるから。
そう決意した翌日。
「じゃあ、外で遊んでくる」「あまり遠くへ行くなよ」「お昼には戻ってきてね、ティナちゃん」という会話をして、外の空気を胸いっぱいに吸い込んだ瞬間。
「よう、クリスティナ。どこ行くんだ?」
俺が付き合ってやるぜ。踏み石の上に鎮座ましましているのは、ルウェリン家の守護様はうるちゃんだった。
「昨日会ったのに、今日も来たの?」
うんざりを隠せないクリスティナ。肩にとまり鼻歌を歌っていたぴぃちゃんも、とっさに黙してしまっている。
「ここは俺ん地だから、見回りは欠かせねえ。今はたまたま、ホントたまったま通りがかったらクリスティナとぴぃが出てきた」
えええ、それ本当? 私が退屈してお外に行くのが分かっていて、朝から見張ってたんじゃなくて?
「たまたま」と強調するあたりが嘘っぽい。
クリスティナが疑いの目を向けても、オヤジ狼は楽しそうにするばかり。これも問い詰めてもムダと割り切る。
人生初の「避暑」に来ている先は、はうるちゃんの縄張りなのだ。仕方ない。
「で、どこ行くんだ」
重ねて聞くはうるちゃんの横を通り過ぎ、ゆくあてもなく歩き出す。
「はうるちゃんのが詳しいでしょ。オススメの場所へ連れて行って、あんまり遠くないところで。お昼食べに戻らないといけないから」
「おお、クリスティナの態度がデカい。さすがは避暑地のご令嬢様」
ふざける口調が、嫌。
それでも今のはさすがに偉そう過ぎたかな私と反省して、当然のような顔で隣を歩くはうるちゃんの様子を窺う。
今日も艷やかな毛は、触ると案外硬いのだとクリスティナは知っている。
「はうるちゃん、毛のお手入れしてるの? いつもキレイだよね」
「うんにゃ、ほかりっぱなし。天然モノの自然流」
狼がにんまりとする。
「なんだ、クリスティナ。俺が羨ましいのか?」
「うん、ちょっとね。はうるちゃんとにゃーごちゃんはツヤツヤだもん」
肩で「!? ぴぃは? クリスティナ、ぴぃは?」と、静かに騒ぐ白いカラス。
「ぴぃちゃんは、ツヤふわ気持ちいいの三拍子揃った最高の鳥さんだよ」
指でお腹をつんとして褒めると、分かりやすくほっとしたぴぃちゃん。ごめん、忘れてたわけじゃなくて、ルウェリン領の親分であるはうるちゃんをちょっと持ち上げただけなの。
「クリスティナも見目の気になるお年頃ってか」
そういう風にニヤけるの止めて欲しい。
「避暑っつっても、金持ちの集まるキラキラした避暑地じゃねえし、長くいたらべっぴんさんもクリスティナもくすんじまうな」
はうるちゃんが、ひとり納得をする。
「せっかく来てくれたんだ、山荘に囲われてばかりじゃつまんねえ。俺んとこの客人がとびきりだって自慢しとくか」
「どこの誰に?」
守護様がいるのは騎士四家だけだと思っていたのに、王家のダー君がいた。まさか、他にもまだいるとか?
クリスティナは恐ろしい予想に震えた。これ以上増えるの? 誰ももう覚えられないよ。




