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聞き分けのない淑女と令嬢

「どうして逃げたんだ」

「レイが追っかけてくるから」

「俺が追ったのはクリスが走り出したからだ」

「そうだっけ?」


 私が先だった? もう忘れてしまったとクリスティナが首を傾げれば、重々しい溜め息が返った。



 御者の興味をこれ以上引くのはよくないという共通認識を持ち、当たり障りのない会話をしつつ帰宅した。


 そして、お茶を淹れるのも面倒だから子供はお水大人は葡萄酒で喉の渇きをいやして、居間で各々好きな場所を確保しての先程の会話だ。



 お姉さんは窓辺の安楽椅子へ。クリスティナは踏み台にクッションを置いて椅子代わりにし、レイはソファにどっしりと構えている。



「で、どうしてあそこにいたんです」


 レイは詰問調。そんなこと、分かってるくせに聞く?


「ティナちゃんとお茶を飲みに出かけるついでに、アンディ君のお家の前を通ろうと思っただけです」



 フレイヤお姉さんはちょっと苦しい言い訳をお澄まし顔でする。

アンディのお家はいつものティールームより遠い。「遠回りして」と言い張るのも無理がある。


 クリスティナはあからさまに驚いてしまったのに、お姉さんは「それがなにか」と涼やかだ。

さすが淑女という風情、って淑女の定義なんて知らないのだけれど。



「フレイヤさん」

「はい、レイさん」

 


 お名前を呼ぶのにも不満を滲ませるレイに、口元に微笑を浮かべるお姉さん。


 この勝負はどれだけ続けてもフレイヤお姉さんの勝ちに決まっていると思う。

だってほら、なんだった? そう「惚れた弱み」ってアレだ。


 クリスティナはひとり「うんうん」とする。ぴぃちゃんは、お出掛けに疲れたのか、仲良しのクリスティナがレイに叱られるところを見たくないのか、お家に着いてから姿を消したまま。



「今日は出掛けないものと思っていましたが」


俺は聞いていませんが、と圧をかけてくる。 


「思い立ちましたの。都内くらい気楽に出歩きますのは、ご存じでしょう。保護者の必要な歳でもありません、好きにいたしますわ」



 受けて立つお姉さん、格好いい。

それでレイ、私に責める目線を送らないでくれる? 居心地悪くなっちゃう。

クリスティナはお尻をもぞもぞと動かして座り直した。



「レイさんはどうしてあそこに。お散歩ですか」


それはクリスティナも聞きたいところ。


「クリスがアンディを気にしていたのもありますが、屋敷の位置を確認がてらマイルスの動向を探りに」



 偶然家の前でアンディに会えるなんてことはないだろうと思いつつ、顔を見られれば「しばらく会えない」と伝えてくれようと思ったのだそうだ。


 普通にはないような偶然はレイとアンディの間ではなく、マイルス叔父上とクリスティナにおこったのだった。



そう言えば。

「お姉さんがいなくなってたのは、どうして?」

「それなのだけれど――」



 お姉さんが叔父上に遭遇したこと、結構な勢いで文句をつけられたことを話す。聞くうちにレイの顔色が変わった。

 そうだよね、叔父上はいまやレイにとって危険人物だもんね。



「じゃあ、次は私が話す」


 お姉さんの身を案じるレイに隠し事はよくない。


 クリスティナはアンディから聞いた、テーブルナイフ事件からの叔父上の家出そして帰宅の流れを話し始めた。



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