クリスティナ走る
馬車は影も形もない。クリスティナはドキンとした胸を押さえた。
焦ってお顔が熱い。落ち着こう私。
お姉さんが私を置いて帰っちゃうはずはない。ということは。
「どういうこと?」
ずっと遠くまで目を凝らしても、似たような馬車はなく高級車ばかりが目につく。
「道を間違えちゃった?」
アンディの家の前の道は、ここしかない。さすがに無理のあるクリスティナの問いかけに、ぴぃちゃんが頭から降りて、道に立つ。
おらおらと道を踏みつける……ではなく「ここですここです。ここでした!」と教えてくれているのだろう。
「だよね、ぴぃちゃん」
「分かってくれて良かった、ぴぃびっくりです」とばかりに、頭が上下する。ごめん、私も他に道がないのは知ってた。言ってみただけ。
フレイヤお姉さんは何かご用を思い出して先に済ませに行っているのだろうか。
待つのが寂しくて泣いちゃったりは、もう大きいのでしない。でもひとりでここにいるのは、ちょっと嫌。
だって、どうする? 叔父上が何かに気がついて「待て」って来ちゃったら。
アンディは止めようと頑張ってくれそうだけど、大きな期待はできない。
それなら。
「ぴぃちゃん、お願い。お姉さんの馬車をお空から探して」
空からなら見つけられると思ったのに、ぴぃちゃんは自信なさげに目を逸らしてしまった。
ちょっとちょっと、ぴぃちゃんが頼りなのだから「まかせてぴぃ」くらいのお顔をして欲しいですよ。
「馬車はどれも同じに見えて分からないとしても、ダー君の気配が外まで出てるとか。そういうの、ないかな」
聞き終わるとすぐぴぃちゃんが首を伸ばした。今の言葉にヒントがあったようでためらいなく飛び上がる。
ここで待つか、それともぴぃちゃんについて行くか。クリスティナは迷わず「ついて行く」を選択した。
高い位置を滑るように飛ぶぴぃちゃんに視線を固定して駆ける。
速度が安定してくると、大きく手を振れば歩幅も自然に広がり気持ちよく進む。
「ぴぃちゃん! 走ってお家までは帰らないよ。お姉さんとダー君の馬車が停まっている所まで行くのよ」
ダー君みたいな言い方になってしまったと思っていたら、ぴぃちゃんが振り返った。器用に引き返してクリスティナの前で羽ばたく。
留まりたい位置で浮いていられるのが、ぴぃちゃんのすごいところ。
「わ、止まっちゃう?」
ぴぃちゃんと違い、クリスティナは止まって再び走るのは疲れる。できれば走り出したら続けて走りたい。
そんなの地面を走らないぴぃちゃんには分からないよね。
諦めて立ち止まり、手で「ちょっと待って」をして荒い息を整える。開いた膝に手を付き前かがみになる姿勢は女の子にあるまじき姿だ。
ぴぃちゃんが身振りで何か伝えようとしている。
ごめん、ぴぃちゃん。それ理解するの本当に難しいみたい。




