悪役叔父上登場・2
いつかアンディをイヴリンさんに会わせてあげたい。本物は一味も二味も違うから。
でもごめん、今は偽者の真似っこで我慢してね。勢いだけはいい勝負だと思うの。で、イヴリンさんなら次は。
「初めてお邪魔しましたけど、と言っても室内にはひと足も入れてもらってませんので外から見るだけですけど、素敵なお宅ですね! 周りのお家も上品でお洒落で。学校でも人気者で坊っちゃんなアンドリュー君にぴったりです。あ、もちろんお父様にもぴったぴた」
すかさず第二波を放つ。いい? ここが大切なのアンディ。重みのある一撃は素人には難しい、勢いと手数で圧倒するのが私達にできる最善です。
不機嫌な顔から脱力した薄笑いに移行していたアンディが「くっっ」と噛み殺せない笑い声を立てる。
お腹を両手で押さえているのは、急な腹痛?
「言ってること、自分で分かってる? 『ぴったぴた』って何、ぴったぴたって」
ない、それはない。と、さらに笑うアンディ。
「なくはないでしょ、ぴったぴた。ないなかであると思うよ。なければ私思いつかないもん」
「よけい意味が分からないってば。ああ、笑える」
どこまでも失礼ですね、アンドリュー君。
眉間に皺を寄せるクリスティナをよそに、悪叔父マイルスがアンディを見つめ、目を疑う風にゆっくりと瞬きをする。
悪叔父の考えていることは、分かるような気がする。
「そんな風に笑うことがあるんだな、意外。家では見たことがないぞ」だいたい、そんなところ。
アンディと一緒に遊んでいるところを勝手に見たオヤジが言っていた。続きはこう。「俺の前でもニコニコしてろ。笑えばちょっとは可愛く見えるぞ」
聞いた瞬間「オヤジに可愛いと思ってもらわなくていい。オヤジの前では、絶対笑わない」と心に誓ったよね。クリスティナの思いは、かつての山の暮らしへと馳せ……ている場合ではなくて。
思いがけず叔父上に会ったけれど、そろそろ戻らないとお姉さんが心配して来てしまう。それは困る。
来るのがダー君だったら、事態が混乱する恐れもある。実によろしくない。
「アンドリュー君のお父様。私に構わずどうぞ中へ。本当の本当に失礼するところだったので」
喜劇に出てくる執事のように腕を体の前で「どうぞどうぞ」と振る。
「お母さんはシャーメインを連れて買い物に行っています。夕食は腕を振るうと張り切ってましたよ。今日はもう外出なさらないでしょう?」
案外穏やかに話すアンディ。
やればできるじゃない、その調子でね。心のうちで励ますクリスティナ。
悪叔父も毒気の抜けた雰囲気を漂わせて「この後は家にいる。夕食か、そうかそれは楽しみだ」などと返している。
アンディの脇を抜け、扉の内側へ踏み入った所でふと振り向いた叔父上の視線が、クリスティナに注いだ。
外で遮るもののない夏の陽を浴びるクリスティナには、玄関ホールを背にした叔父マイルスが薄暗く翳って見える。
「じゃあ、私行くね」
アンディに告げてから、叔父上に浅く一礼する。
「次にお会いした暁には、改めてご挨拶を申し上げたいと思います。では本日はこれにて!」
なにか言われる前にと、走って逃げ出す。アンディが「『これにて』って言う?」と、再び大笑いしているのを背中で聞きながら、門から外へ。
どうしていいか分からない時は、言葉で部屋を埋め尽くせばいいんだよ、アンディ。目指せイヴリンさん、健闘を祈る!
「あれ? ぴぃちゃん。私場所を間違えたかな」
颯爽と向かった通りには、あるはずの馬車がなかった。




