悪役叔父上登場・1
話そうと思えばどれだけでも話すことはあるけれど、適当なところで切り上げなくては、シャーメインとお母さんが帰って来る。
アンディがいつになく名残惜しそうにするのは、お家の居心地がよろしくないせいだ。察しがつくと「じゃ、私もう行くね」が言い出しづらい。
先ほどからタイミングを見計らっているのに、次の話題を持ち出されて楽しくなってしまい帰りそびれる、ということを繰り返している。
これは次のお約束をふわっとでも決めないと帰れないんじゃないかな。
クリスティナが考え始めた頃、ぴぃちゃんがぴくりと反応した。
肩から頭に移動したのに合わせて目だけを上向けるクリスティナを、アンディが不思議そうにする。
「頭に鳥の糞攻撃でも受けた?」
先に反応したのはぴぃちゃん。「失礼! アンディは失礼です! ぴぃはそんなことしません」とプリプリしているらしい。真上なのでもちろん見ることはできない、クリスティナの想像である。
鳥の糞じゃなくて。と説明しようとした時、アンディの目つきが悪くなった。
同時に背後から靴音がしたので、何も考えずに振り返る。
門からクリスティナ達のいる玄関へと向かって来るのは、男の人だった。
遠慮のない足取りは、この家の住人と感じさせる。
アンディ、この人。
後ろを見るために捻った上半身を元に戻して目で問いかける。無言でもアンディが心底嫌がっているのは伝わってきた。
これほど分かりやすく嫌う相手はひとりしかいない、お父さんだ。
再び振り返る。この人が叔父上マイルス・マクギリスかと思うと、伯爵様と似たところを探してしまう。
背は高からず低からず、体型は太からず細からず。髪色はよくある色でそれはクリスティナと同じ。
瞳の色、ヘーゼルに朱が差すという特徴的な瞳は?
残念ながらクリスティナには判別がつかなかった。
「悪叔父登場」
ぴぃちゃんだけに聞こえるよう小声にしたつもりが、アンディにも聞こえてしまったらしい。
「なにそれ」
心からくだらないと思っている時の顔でアンディが笑う。ついでに目つきの悪さも緩和された。
ジェシカ母さんによれば、アンディは真面目で頑張り屋さん。
「真面目」は正直、野郎どもと比べればほとんどの人が真面目なんじゃないかと思うけれど、それを言い出したらきりがないから、まあいいとする。
クリスティナの知る山でのアンディは、思い詰める性格。
もっと気楽にいこうよと言っても「クリスはいいよね。本当うらやましいよ」と全然うらやんでもないお顔で言うのだろう。実際言われたような気もする。
ねえ、アンディ。もっとうまく立ち回ろうよ。お家での居心地が良くないのは、きっとアンディの心を削る。
私がお手本を見せてあげる。
クリスティナは勢いよく回れ右をすると、歯の見える元気一杯の笑顔を作った。
「アンドリュー君のお父様ですか、お帰りなさいこんにちは! いきなり遊びに来てすみません、ちょっと寄っただけなのでもう帰ります。どうぞお構いなく。私は学校のお友達です。アンドリュー君には仲良くしてもらっています。アンドリュー君、お父様が若くていいねっ。それに雰囲気がある、お仕事は俳優さんですか」
クリスティナの持つ一番の技「イヴリンさんの真似」が炸裂した。イヴリンさんご本人よりわざとらしいのは、子供だから仕方ない。
はきはきと言いうふんと笑ったクリスティナに、ぎょっとした様子で悪叔父は足を止めた。




