テーブルナイフの勇者アンディ
玄関先の立ち話は盛り上がった。クリスティナとアンディの早口が続く。
お食事前は和やかにしなければならないのに、叔父上が騒いだ? からのアンディが武器としては子供騙しにもならないテーブルナイフを、叔父上につきつけた?
テーブルナイフで大人しくなる叔父上って一体。
それは喜劇寄りの独創的なひと場面だ。アンディはお友達だから、感想は述べずにおく。
必死のアンディを笑ってしまったらお友達失格だしね。
「アンディんちは、お肉食べるのにナイフを使うんだね」
「ナイフなしでどうやって食べるの? まさか、かぶりつくわけじゃないよね」
そんな恐ろしげな顔をするほどのこと?
「お姉さんが一口大に切ってからお皿に乗せてくれるから、ナイフいらない」
「それは子供のすることで、大人はしないでしょ」
クリスはまだ子供扱いなんだね、と笑われるのは納得がいかない。
「お姉さんもだよ。レイも『面倒だから俺のもお願いします』って、自分で切らない」
「ええっ」
驚かれるということは、違法なのだろうか。「お外で言ってはいけません」のひとつ? クリスティナは家庭の秘密をうっかりと漏らしてしまったことに後悔しつつ、利点を語る。
「わざわざナイフを三本出さなくても、先に切れば一本でいい」
ほら、汚れ物も少なくなりますので、なにかと忙しいお母さん方にもお勧めします。
クリスティナはそう思うのに、アンディは理解できない様子。
そういうところが、きちんとしたご家庭に育った坊っちゃんだと感じる。言うまでもなく褒め言葉です。
「叔父上は気性が荒いのね。アンディにケガがなくて良かった」
謎のマクギリス家長女がぽっと出た。得体がしれないし対応策も思いつかない。
自分の将来に暗雲が垂れ込めたような気持ちで家族にあたってしまったのだろう。
「そんな人だとは思わなかったから、ちょっと驚いた。クリス『叔父上』って」
「うん、叔父上。ご挨拶の時にさっと出てくるよう慣れておこうと思って」
叔父上呼びの理由を聞いたアンディの反応はレイと似ていた。なにか言いたそうなのに止める感じだ。
「シャーメインとお母さんは?」
「あいつの好物を夕食にするって、買い物に行ってる。出て行ったのは一昨日だから、さすがに今日は帰るだろうって」
「お母さん、お父さんが好きなんだね」
顔を歪めるアンディに、クリスティナは同情的な笑みを浮かべる。
「夫婦ってそんなもん。子供の我々には分からない関係性なのだよ、アンディ」
慰めたのにさらに口角を下げて黙る。
「でも、テーブルナイフで立ち向かったアンディは立派だと思う」
「本当は格好悪いって思ってるくせに」
おお、アンディ鋭い。
「そんなことない。少なくともシャーメインはお兄ちゃん好き度が増したはずだよ」
今後お父さんが暴れてもお兄ちゃんがいてくれれば、守られる。シャーメインはそう理解したはずだ。
いいなあ、いいお兄ちゃんがいて。エイベル様がいてくれたら私もお兄ちゃんって呼びたかった。
けれど、ご存命なら私が妹であると知らせることはないから、どのみち兄妹として笑いあう未来はなかった。




