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狼さんちはみんな心配症

 昨日聞こえた気がしたはうるちゃんの声。あれは空耳じゃなかった。


「べっぴんさんに気ぃ遣わせるのが悪いから、あえての姿消し」


 なのだそうだ。嘘だね、絶対。覗き見が趣味なんだと思う。前に「美人の寛いだ姿っつうのは、いいねえ」と言っていたのをクリスティナは覚えている。





「買い物に行きたいのなら明日は付き合えます。ぜひ明日にしてください」と言うレイに「レイさんが一緒だとお荷物を持ってくださるから、本当に助かるわ」と、フレイヤお姉んが涼やかに返していたのは、朝食の席。


 今日は出掛けないものと安心したレイに、クリスティナは心のうちで謝る。

お姉さんは嘘は言っていない、今日のお出掛けはお買い物じゃないもん。



 それに何だったか。そうそう「逐一報告する義務はない」のだ。


 これは「ふらふら出歩いて帰って来やしない。どこで何してんだか」とぼやいたジェシカ母さんに、オヤジが言ったこと。

 偉そうな態度にジェシカ母さんは本気でカチンときていた。お姉さんと違って、あれはオヤジが悪いと思う。




 劇場へ出勤するレイを見送って、ぴぃちゃんにアンディのお家の様子を窺ってもらう間に昔のことを思い出していたら、部屋にはうるちゃんがいた。



「よう、問題児」


変なご挨拶でピンと来た。


「はうるちゃん、昨日お姉さんと私のおしゃべり聞いてたでしょ」



 そこから冒頭の「気ぃ遣わせたら悪い」発言に繋がる。

盗み聞きはどうなの。とはいえ、はうるちゃんは人ではないので、盗み聞きという考え自体がないのかもしれない。苦情を言うだけムダな気もする。



「聞かん坊だなあ、クリスティナ。レイは心配してんだぜ」

「それは分かってる」


狼はオヤジっぽく、大げさなため息を吐いた。


「親を騙して男んとこ走る。いつの間にそんな悪い娘になったんだ?」


 ねえ、それ。オヤジも似たようなこと昔言ってて気分悪かったの、私。クリスティナの眉が吊り上がる。

それにレイは親じゃありません。


「怒るよ、はうるちゃん」

「すでに怒ってんじゃん、クリスティナ」

「はうるちゃんとは、もう遊ばない」



 宣言を受けて「おほっ」とオヤジ狼がふざけた声を出す。


「冗談、冗談だって。悪い、謝るからそう怒んな」


 謝罪が軽すぎるんですよ、はうるちゃん。ふんっと横を向いてやる。



「おっとお、やり過ぎたか。レイにはお出掛け黙っててやるから、それで許せよ。な?」


 機嫌を取ってくるオヤジ狼。肩をぶつけられてよろけそうになるけれど、踏ん張る。


「それはそうと。お出掛けにダー連れて行け」


 声の調子が変わったのと発言が意外だったのとで、思わず視線を戻すと、はうるちゃんは真顔で顎を引いた。



「どうしてダー君?」

「ダーとぴぃがいりゃ、最悪なんとでもなるだろ。ほらクリスティナの毒母ん時」


 メイジー母さんを「毒母」と呼び変えるのはやめて欲しい。毒を持っていた印象が強烈だったのは認めるけれど。


「ダーがぴぃを槍にしたヤツ。窮地に立たされたら、それで切り抜けろ」



 適切な助言をくれたようなお顔をしている。でもそれをするとダー君が罰を受けるって、私知ってるよ。

お膝が潰れそうなほど分厚くて重い本を延々読み続けるという罰だ。


「はうるちゃん、人ごとだと思って」


 叱られるのはダー君ではうるちゃん無傷だもんね。クリスティナが横目で睨むと、狼は金眼を細めてにんまりとする。

それでふと思いついた。


「ねえ、ぴぃちゃんが槍になるなら、はうるちゃんも何かになるんじゃないの? 何?」


はうるちゃんの目が泳ぐ。


「は? なに言ってやがるクリスティナ」

「ん? 何も言ってやがらない。はうるちゃんは剣なの? 意外にも弓とか?」

「おおっと、そうと決まればダー呼んでくるぜ。俺が戻るまでここ動くんじゃねえぞ」



 返事を待たずに姿が見えなくなる。

はうるちゃんの変身した姿は、すごく格好悪いんだ、きっと。



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