ぴぃちゃんのダンスは難解なので
しばらく考える風だったフレイヤが「夏季休暇中なら」と口にする。
「お家を訪ねたらいいんじゃないかしら。大人が訪ねるには前もっての約束がいるけれど、子供が遊びに行くぶんには『アンディ君、いますか』でいいでしょう?」
え、そうなの? クリスティナとぴぃちゃんの傾げた首の角度は全く同じ。フレイヤお姉さんには見えないが。
「『今は出掛けています』と言われたら『そうですか』で帰ればいいだけですもの。明日にでも行ってみる?」
まるでイヴリンさんに会いに行くように気楽に言われると「そうする」と言ってしまいそうになる。
でも待って、待って。アンディのお父さんは叔父上。何をしてくるか分からないので十分に気をつけるよう、レイに諭されたばかり。
フレイヤお姉さんは知らないのだった。怖がらせたくないとかレイが言っちゃって。
私がバラしちゃっていいのだろうか、とクリスティナは密かに悩む。
「でもレイが最近お姉さんを家から出したがらないような気がするから」
遠回しに外出は控えたほうがよろしいのではないか、と匂わせる。
レイは明日も一日剣技の指導に劇場へ出勤。お姉さんを叔父上の家へなど、行かせてくれるはずがない。
「レイさんがいなくても、馬車くらい頼めるわ。あら、ひょっとしてティナちゃん、私をひとりでは外出もできない人だと思っている?」
いたずらめかしてキラキラした笑顔を浮かべるお姉さんは、とても可愛い。
クリスティナは大きく首を横に振って否定した。
「そんなことない!」
「そうよ、私は王都育ちだから街なかは詳しいの。私が出掛けるのにレイさんに許可をとる必要なんてある?」
その聞き方をされては、お返事はひとつ。
「ない」
右手を上に伸ばしてよいお返事をしたクリスティナに、フレイヤが満足した微笑を投げかける。
「でも、そうね。ごちゃごちゃ言われると面倒だから、レイさんには言わずにマクギリス邸に突撃しましょう」
「ごちゃごちゃ」って。レイはお姉さんの身を心配しているのに、典型的な口やかましい亭主みたいに思われていて不憫。
叔父上に気をつけなくてはいけないのに、こちらから飛び込むのはいかがなものか。
クリスティナは眉間に皺を寄せた。
しかし、しかし。ぴぃちゃんの難解ダンスではアンディとシャーメインがいかがお過ごしか、少しも分からなかったのは事実。
珍しくアンディから「遊ぼう」と誘われたのに無視しているのが心苦しいのも、事実。
「行ってマイルス叔父上がお家にいたら、どうしよう?」
クリスティナの心配に、フレイヤお姉さんは何でもないことのように返す。
「ぴぃちゃんに、先に確かめてもらえばいいんじゃないかしら」
「あっっ」
また、うっかりと忘れていた。ぴぃちゃんに「お願いできる?」と尋ねれば「はい、ぴぃは大変役に立つ鳥さんです」と胸を張る。
叔父上がご在宅だったら訪問は中止。アンディとシャーメインが退屈そうだったらお邪魔する、と決める。
レイごめん。お約束より自分のしたいことを第一にしてしまうけど、最初から最後まで内緒にするからね。
そういう問題じゃねえだろ。どこからか、はうるちゃんの呆れ声が聞こえた気がした。




