ウォードの縁談
帰宅し自室の扉を開けたウォードは、思わず取っ手を握る手に力を込めた。
久しぶりに父が来ていると聞いてはいたが、まさかここにいるとは思わなかった。
主に父はウィストン邸の敷地内の一棟で寝起きしており、ハートリーの館に戻るのは年に数回、短期滞在である。
館にいる時は代々の当主が使用する部屋を使い、ウォードが覚えている限り息子の部屋に来たことはない。
当主とは、出向くものではなく呼びつけるものだ。
俺の不在を狙ったかのようだ。ちらりとよぎった考えが顔に出る年頃は過ぎている、無理なく平静を装うことは可能。
「遅くなりました。出迎えができず申し訳ありません」
父はウォードの執務机の前にいた。肘掛けに両肘をのせて座ることで肩幅が広くなり、元からある存在感がさらに増している。
壮健なご様子なにより、だ。家族の前では緩むことのない頬、口角は常に少し下がり気味でそれは今日も同じ、特段不機嫌でもない、と観察する。
さて、入室してよいものか。無言の父の様子を窺いながら、自分の部屋に立ち入るのに許可は必要ないだろうと判断した。
閉めた扉を背にして緊張感を保って立つ。
「片付いている」
父の視線は書棚から逆側の飾り棚、机の上に重ねられた紙類へゆっくりと移る。先に引き出しのなかは確認済みなのだと感じたことに根拠はない。
つい最近まで右の引き出しにクリスティナからの手紙を入れていた。出掛ける前にふと気になり、着る機会のない礼服の内ポケットへと押し込んだのは、虫の知らせというものか。
――抜き打ち検査。ウォードの背筋がひやりとする。
「お前はいくつになる」
「二十歳です」
あと半年で二十歳。
「アルキミアは無難な相手だが、益は薄い」
父の言うアルキミアとは、アガラス家の親戚筋の息女ヴァイオレット・アルキミアのこと。
アガラス屋敷で引き合わされた後、縁談がそのままなのはウォードのせいではない。両家間で「まだ若く急ぐ話ではない」となったからだ。
口ぶりから、父はこの縁談に気乗り薄だと察しがつく。
「伯爵家本邸で盛大な夜会を催すことが決まった。警備を任されるのが本来であるが、お前は客として参加するようご配慮いただいた。意味は分かるな」
ヴァイオレット・アルキミアとの話が保留になっているうちに、より条件のよい令嬢と縁を結べと言いたいのだろう。
男女間のあれこれには興味が薄いと自覚しているが、父の考えが理解できぬほど鈍くはない。
夜会で家柄の釣り合う者同士を引き合わせる、その中から伴侶となる相手を選ぶのだ。重きを置くのは家のためになるか否か。
『家につりあう相手ではなく自分につりあう相手と結婚したほうがいい』
斬新な考えの持主はクリスティナだ。
あれで伯爵令嬢だから恐れ入る。思い出して緩みそうになった口元を引き締める。
ウィストン家と父はマクギリス家の内情をどこまで把握しているのか。
この先の自分は難しい舵取りを迫られることになる、そんな予感がした。




